第52話 第十二章 超伝導体(2/6)

 トドロキとフキアゲ、神同士が会話している間、典高はゆっくり逃げるアラボシの霊体を監視しつつ、空中で待っていた。

 話が終わったと思った。


「フキアゲ、もういいでしょ!」

 早く話を戻して、姫肌と母親を助けたい。典高は続ける。


「さっき、アラボシの頭の方がエネルギーレベルが高いって言ってたのは何? どういうこと? 2人を助けるのに、トドロキには何か妙案があるの?」


 待たされたためか、言葉がどんどんと突いて出た。

「典高が持っておる霊体を消す能力はまだまだ未熟じゃ、おそらくそこのアラボシの霊体を全て消すことはできんじゃろう」


 冷静というか、過ぎるほどに落ち着いている。トドロキの言うことは典高も感じていた。


「だから、どうすればいい?」

 典高はもどかしい。


「あやつのエネルギー源を断つのじゃ」

 年の功だからなのか、はたまた、観察力や洞察力に長けているからなのか、トドロキは即座に目的を与えた。


「エネルギー源? アラボシ、というか、星渡りのエネルギー源って何?」



「おそらく、永久電流じゃろう」



 永久電流とか言い出した。典高は聞いたことがないし、なんと言っても脈絡がない。


「はあ? 永久の電流? 全然分かんないよ! どうして、そんなのが出てきたんだよ!」


「順序が狂ってしまったようじゃな」

 と、エネルギーレベルが高い理由を、トドロキが話し始めた。その内容はこうである。




 トドロキは雷神だったので、すぐにアラボシのエネルギー源は電気と分かった。なのに、電線もつながっていないし、電池の存在も感じない。


 そこで、典高がネットで調べて、出てきたマイスナー効果を思い出したのだ。


 どうやらトドロキは、その時も目が覚めており、典高の目を通してネット画面を見ていたらしい。


 マイスナー効果は、雷神石が磁力で浮いている違和感から、典高がネットで調べた時に、たどり着いた言葉であった。


――マイスナー効果

 『ある特定の物質』は、その内部に磁力の束である磁束を通さない性質を持っている。なので、机に載った磁石の上に、その『ある特定の物質』を置こうとすると、磁石から発生する磁束によって弾かれるようにして浮くのである。


 その現象をマイスナー効果と言うのだ。


 磁石のN極同士、S極同士は互いに反発するが、N極にもS極にも反発するようなイメージである。

 だから、雷神石の裾野にあった磁石化した釘も浮いていたのだ。


 その『ある特定の物質』と言うのが、『超伝導』の性質を持った物質のことであり、『超伝導』とは電気抵抗がゼロという性質のことである。


 電気抵抗とは、それぞれの物質が固有に持つ、電気を流れにくくする性質のことである。


 一般的な物質は電気抵抗がゼロではないのだ。


 現状、電気抵抗は中学で習うが、『超伝導』は大学レベルなのだ。難しいのは、しゃーなしである。





 つまり、マイスナー効果が起こる電気抵抗がゼロということは、電気が流れにくくならないということであり、逆に言えば、……。


 電気が流れ放題なのだ。


 だから、『超伝導』の性質を持った物質によって閉じた回路を作った場合、電気が永久的に流れ続けるのである。

 それを、『永久電流(遮蔽電流)』と言うのである。





 トドロキは、典高がやっていたネット検索を、気付かれずに黙って見ていたらしい。典高が読み飛ばした多くの文献をも読んで、難しい内容を学んだようだった。


 ただ、超伝導には条件があった。雰囲気の温度が、液体窒素下、マイナス196℃なのである。


 つまり、そのくらいの温度に、超電導の物質と磁石を冷やさない限り、超伝導の性質にならないのである。


 なので、超電導の性質を持つ物質であっても、普通の温度下では、電気抵抗がゼロじゃない普通の物質であった。


 だが、調べた中には、『将来的には普通の温度(常温)でも、超伝導の性質となる物質が発見されるだろう』とあったのだ。


 トドロキは姫肌の星なら、そのレベルに達していてもおかしくないと思ったらしい。


(少しでも分かり易くするために、かなりの部分を省いております。ですので、一連の説明には、足らない部分、誤解し易い部分が多々あります。フィクションの作品ということで、ご容赦願います:作者)




 典高にはトドロキが言う回路という言葉に覚えがあった。


「思い出した! 回路って、妹石さんから聞いたよ。『コアの回路』だよ。

 星渡りはコアのエネルギーで動いているとか、コアの回路を停止させるとかも言ってた。

 コアの回路が永久電流の回路なら、ピッタリと当てはまるよ。

 んで、トドロキ、どうやってその回路を停止させるんだ?」


 トドロキの言葉は難しかったが、姫肌の言葉に当てはまったので、典高はそのまま飲み込むことにした。


 そうはいっても、典高には具体的な策が分からない。

 トドロキは雷神石が浮いている理由を考えていた。


 マイスナー効果は、磁石が下で、超伝導の物質が浮くことで検証される。であるが、星渡りの場合は、雷神石が浮き、おそらく超伝導の物質は地中あったことだろう。


 上下が逆転しいる。トドロキは大きな超電導の物質があれば、上下が逆転しても、浮くのは可能と考えていた。


 そして、超伝導の性質になるために必要な条件は、低温の他にもあった。磁力が強いとされる磁束の密度が高い環境下では、物質内部に磁束を通してしまい、超伝導の性質は起きないのだ。


 つまり、強い磁石の近くでは、超伝導にはならないことになる。


 雷神石は岩なので十分に重い。


 その重さでコアに押し付けても、コアの回路が超伝導のままなのは、元々雷神石が持つ磁束密度では足らないと、トドロキは考えた。


 ならば、雷神石そのものの磁力を強くすればいいのである。


 だが、この一連の説明は典高には理解不能だった。

 トドロキは、超簡単に言う。


「雷神石の磁力を上げれば、コアが持つ超伝導の性質が解けるのじゃ。永久電流は流れんのじゃ。つまり、コアの回路が停止するじゃ」


「まだ分かんないよ! 結局、俺は具体的にどうすればいいの?」

 トドロキは、分からないのがもどかしい。


 ズバリ言う。


「典高の能力を使って雷神石の磁力を強くするのじゃ! さすれば、アラボシのエネルギー源を断てるじゃろう!」


「分かったよ! 雷神石に金属を当てて磁力を高めれば、母さんと妹石さんが助かるんだよな」


「そういうことじゃ」

 典高の行動方針が決まった!


【2544文字】

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