第十二章 超伝導体

第51話 第十二章 超伝導体(1/6)




   第十二章 超伝導体


 霊体船である星渡りは、スケベな元雷神のアラボシに乗っ取られていた。


 アラボシは女狩りと称して、商店街にいる女性たちを捕まえては下着姿にする。


 下着姿にされた女性たちは、煙のようなアラボシの霊体に、その手足を絡められて動きを封じられ、恥ずかしい身を商店街に晒してしまう。


 そんな女性たちの恥ずかしい思いを、アラボシがうまそうに食らったのである。


 そこへ、典高の母親がやってきて霊体の一部を消滅させ、そこに捕らわれていた女性たちを解放した。

 まだ、捕らわれた女性たちは残っており、彼女たちの言葉によって油断した母親が、ジャージ姿のままアラボシの霊体に捕らわれ、始めに捕らわれた姫肌と一緒に一番高い場所に掲げられてしまう。


 典高は母親から霊体を消滅させる方法を教わり、風神であるフキアゲの力を借りて、少しずつ霊体を消し下着姿の女性たちを全て解放できた。


 しかし、どうがんばっても、母親と姫肌が捕らわれている高い場所の霊体を消すことができない。


 その時、『頭近くの霊体はエネルギーレベルが高い』と教える女の子の声が聞こえたのである。


 だが、典高には聞き覚えのない声であった。


「何じゃ? わしの声を忘れたか? 典高!」


 じゃとか、わしとか、言う割には女の子のかわいい声である。その声の持ち主は典高を知っている?


 姿が見えないかわいい声……。典高は記憶をたどる。


 わしという一人称、そして、かわいい声……、あっ! と、記憶の糸がつながった。

「トドロキ! その声、雷神のトドロキか! 小学校以来だから忘れてたよ」

「思い出したようじゃな」


 典高は小学生の頃、雷に撃たれたことがあった。

 瀕死の状態となった典高を、雷を落とした雷神トドロキが、神力を使い命を救ったのだ。


 そのため、トドロキは電気に関する神力を失ってオチ神となり、典高には副作用のように、磁石の磁力を増減させる力が身についたのだった。

 そして、トドロキは、そのまま典高に取り憑き、体の中で眠ってしまったのだ。


 典高がトドロキの声を最後に聞いたのは、小学校の時だったので、すぐに思い出せなかったのである。


 母親が教えた霊体を消すという新しい能力も、このトドロキの影響と推測される。



 トドロキの声は典高の心に聞こえたのであるが、神同士だからか、フキアゲにも聞こえていた。


「典高の中にいる雷神、教えるっす! どうして、アラボシを集め復活させたのに、元に戻らないんすか?」

 いきなり、勝手な質問を繰り出した!


「待ってよ! フキアゲ! 今はエネルギーレベルが高い話をしているんだ」

 典高は早く母親と姫肌を助けたい、2人が捕まっている霊体のエネルギーレベルを知りたいのだ。


「悪いっすけど、アタイの方が先っす。アラボシが雷神に戻れば、あの星渡りだって元に戻るっすよ」

 そもそも、アラボシが星渡りを乗っ取っているから起きていることだった。


「分かったよ」

 典高は渋々承知した。フキアゲに浮かせてもらいながら、待つことにした。


 アラボシは神社方面へ逃げている。速度はゆっくりなので、典高もフキアゲもあまり気にしなかった。


 トドロキと会話する権利を手に入れたフキアゲが切り出した。

「なら、典高の中にいる雷神、もう一度聞くっす! なぜアラボシは雷神に戻らないっすか? 知っていることを言うっすよ!」

 フキアゲは、圧力が乗った声を浴びせた。


「まず先に、名乗るものなのじゃ。おチビちゃん!」

 年寄りが礼儀知らずの子供を注意したみたいだ。


「アタイはおチビちゃんじゃないっす! 500年も前から風神をやっているっすよ!」


「なら、おチビちゃんじゃ。わしはお前の10倍よりも前から雷神をやっておったのじゃ」


 5000年も前ってことだ。


 さすがのフキアゲも、かしこまる。

「そ、それは失礼したっす! アタイは風神のフキアゲと言うっす! 怒ると相手を吹き上げる癖があるから、フキアゲって言うっす!


 それで、やっと、アラボシじゃないっす、この土地の雷神を復活させたのに、邪気のままっす! どうしてっすか?」


 神界も年功序列社会のようだ。


「わしの名前はトドロキじゃ、雷の音が大きいから付いた名じゃ。かつては、渓谷に落ちる滝の轟音と、その大きさを競ったものじゃ。


 じゃが、もう、雷神ではなくオチ神じゃ。人間の中でないと、その身を保てない身分なのじゃ。


 して、そのアラボシなる雷神は、すでにオチ神でもないのじゃ。別の霊体と融合し、ただの霊体となったのじゃ。


 残念ながら、もう雷神には戻れんのじゃ」


 フキアゲには、この回答はある程度予測済みだった。

 次なる疑問をぶつける。


「雷神がいなくなれば、次の雷神が使わされるはずっす。でも、500年経っても後釜が現れないっす。後釜が来ないのだから、オチ神になってないってことっす。まだ、アラボシは雷神ってことっすよね!」


 雷神の後釜が現れないため、アラボシが雷神として復活できると、フキアゲは思い続けていたのだった。500年間抱いていた希望だった。


「あやつの邪気っぷりを見たはずなのじゃ。もはや土地神ではないのじゃ」

「なら、なぜ、次の雷神が来ないっすか?」

 必死に食らいつくフキアゲ!


「あのアラボシはオチ神をすっ飛ばして、星渡りと融合し未知の霊体となったのじゃ。上位神の竜神様は、オチ神を感知して、初めて次の土地神を用意なさるのじゃ。


 おそらく、一瞬にして雷神から融合霊体になったのじゃろう。


 オチ神を通り越したために、まだ雷神を勤めておると竜神様は認識しておるのじゃ。見守る土地が広い竜神様なら、目が届かぬ土地もあるのじゃろうな。


 じゃから、あやつを雷神に戻すのは諦めるがよいのじゃ」


【2271文字】


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