第50話 第十一章 女狩り(5/5)

 典高は女の人たちを助けたかった。


「捕まっている女の子の方へ行って!」

 そう、フキアゲに頼んだ。


「ちょっと待つっす」


 ビュワワーーーーーーンッ

 ゆっくりとしか逃げられないアラボシを見て余裕を感じたのか、フキアゲは典高を連れてアラボシの体である星渡りをゆっくりと1周する。


 捕まった女の人たちを見ているようだが、典高は別のことに気付いた。雷神石がアラボシの頭のてっぺんに載っていたのである。


「雷神石が持ち上がってる!」

「上の方は濃度が高いようっすね。そのせいかも知れないっす。それで、見たところ、細身の女は捕まってないっすね」

 なぜか、捕らわれた女性の体形が気になっている?


「どうして細身?」

「アタイと同じ細身の女がいなければいいんすよ。細身の女はアタイ1人っす。細身の女を囲ったりしたら、アタイが許さないっす!」


 フキアゲの代わりになるような女性に嫉妬してるのだろうか?

 踏み込むと、長くなりそうなので、典高は聞かないでおくことにした。


「フキアゲ、もういい? 俺は、早く女の人を助けたいんだけど」

「もう、十分っす! 行くっすよ!」


 ビュィーーーーーーンッ!

 上方に捕らわれている女の人近くに来た。


「助けて! 助けて!」

 下着のままだ、早く逃げたがっている。一方、星渡りはゆるゆるとしか逃げてない! 典高が黒い煙に触る!


 ピタッ

「邪気よ! 消えろ!」

 シュワワワーーーーーッ


「きゃーーーーっ!」

 女性が落ちた! 


 上の方で拘束が解ければ、当然、重力により落ちる!

「やべっ! 考えてなかった!」


 ビューーーーンッ フンワリッ トンッ

 風クッション! 落ちた女性は空気に跳ねてから、地面に足を向けて降り立った。


 タタタッ すぐに逃げていった。怪我はないようだ。

「アタイは風神っすよ! 典高を吹き上げるくらいの力があるっす! 落ちる人間を受け止めることなんか、造作もないことっすよ」


 どこから取り出したのか、フキアゲは青いリボンで肩くらいの髪を頭の後ろで結んでいた。


 気合いを入れたようだ。女剣士のような勇ましい顔に見えた。

「頼もしいよ。どんどん助けていこう!」


「やめろーーーーっ! 俺様の体を削るな!」

 アラボシの逃げ足は遅い!


「妹石さんと母さんは後回しだ! 意識がある人たちからやるよ。みんな助けてあげるよ!」


「やってやるっす!」

 コンビ結成のようだ。典フキコンビ?


 ビュイーーーーーーーーーーンッ!

 近くの女性の所へ。


「早く! 早く! 助けてよ!」

「は、はい、すぐに」


 ピタッ

 典高はアラボシに触れる。

「邪気よ! 消えろ!」


 気張った掛け声を一発!

「ぐわわわーーーーーーーーーーっ!」

 叫び声と共に、星渡りがシュワワワーーーーーーと蒸発するように消えた!


 ビューーーーンッ フンワリッ トンッ タタタッ

 女性は風クッションで弾んで道に立つと、近くの商店に逃げ込んだ。


 典高はそんなのは見届けずに、次の女性の前へ。黒下着のグラマーなお姉さん!


「あなたって、凛々しいわぁ~~。お姉さんのタイプよ~~」

 甘い誘惑のささやき!


「か、からかわないでください! い、今、助けます!」

「せっかちな男は嫌われるわよ~~」

 妖しい目でたしなめる。


「お、俺は別に、そういうの考えてないです! 他にも助ける人がいますから、……。

 邪気よ! 消えろ!」


 シュワワワーーーーーーッ

「うぎーーーーーーっ!」


 スーッ トンッ!

 黒下着の女性は道路に降りた。すぐに逃げずに典高を見上げてる。


「駅前の『あけみ』って店で働いてるの。来てよね~~!」

 手を振っている。


「お、俺は高校生、未成年ですっ!」

「な~~んだ! つまんな~~い!」


 黒下着は近くの商店に逃げ込むことなく、堂々と駅へ歩いていった。


「がはっ! がはっ! あの女は美味くなかったんだ」

 苦しそうな割にはアラボシが感想を漏らした。


「だろうな。恥じらいがなさそうだった」

 典高も似たようなことを感じていた。


「そうなんだよ。俺様はハズい気持ちが好きなんだよ」

「そう言えば、邪気の時も、スケベな割には18禁レベルには踏み込んでなかったな。どうしてだ?」


 典高が来てから、下着姿で止まるばかりだった。姫肌が言ってたように全裸にしたり、さらに、エロ漫画ほどにHなことまでやらなかった。全裸の男は別として……。


「あまり、Hが過ぎると、『気持ちいい』という雑味が混じるんだよ。俺様は女の純粋なハズい気持ちが好きなんだ」


 Hが過ぎると気持ちいいが混じるのか。典高には実感がなかった。でも、雑味、『純粋なハズい』でなくなるのか……。


「なるほど」

 下着姿まで終わる理由は、それだったのか。典高は小さく納得した。それまでの漠然とした疑問が解消した想いだった。


「何! 馴れ合ってるっすか!」

 ビュビュビューーーーーーンッ!

 フキアゲが典高の体を揺さぶって、1回転!


「あわわ! ご、ごめん」

 変に共感があったが、フキアゲに、たしなめられてしまった。そうなのだ。星渡りは女性の敵である。

 典高は気を引き締めた。


「あたしも! 早く! 助けてーーーーっ!」

「は、はい!」




 典高は次々と捕まった女性たちを解放していく。それでも、星渡りは巨体だ。女性を捕まえていない部分なんて、とても典高には消せそうになかった。




 時間がかかったが、捕まっていた全ての一般人は解放できた。


 姫肌と母親だけが残った。2人の間でモクモクしてる黒い煙のアラボシに典高の手を触れる。


「邪気よ! 消えろ!」

 シュンッ!

 消えたのだが、僅かにしか消えていない。


「効き目が落ちたのかな? それとも、力を使い過ぎた? でも、疲れた感覚はないぞ」


「そいつの頭近くは、エネルギーレベルが高い霊体なのじゃ」

 女の子の声が聞こえた!


 フキアゲじゃない! 姫肌も母親も、まだ眠っている。一般人は全て助けたから他に誰もいない。


 いったい、誰?


【2306文字】

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