第48話 第十一章 女狩り(3/5)

 捕らわれた女性は、あと2段分もいる。姫肌はさらにその上だ。


 今みたいのを、あと3、4発ぶっ放せば、アラボシの体である星渡りは全て消え去り、捕まった全員を解放できるだろう。


「母さん! もっとだ! 今のをもっとぶっ放して!」

 典高は逆転のチャンスと見た。ここで、畳み込みたい。


「任せるのだ!」

 母親もその気だ。


 まだ捕まっている女性にとっては、希望の救世主が現れたようなものである。


「こっちも助けてーーーーっ! お譲ちゃんっ!」

「お譲ちゃ~~ん! こっちよーーーーっ! あとで飴ちゃんをあげるから~~~~!」


 一般人には、母親はジャージを着た子供にしか見えない。

「私はお譲ちゃんではないのだ! 大人なのだ! 飴のために働かないのだ!」

 母親を子ども扱いしたら、まずい! 典高に不安!


「子供扱いしちゃダメですよーーーーーーーーっ!」

 捕らわれた女性たちには典高の声は届いていない。


「助けてーっ! お譲ちゃーーーーんっ! 飴ちゃん、あげるわよーっ!」

「ジャージの子供ちゃーーーーん! こっちも助けてーーーーっ! あとで、好きなお菓子を買ってあげるからーーーーっ」


 母親はアラボシよりも気になった。いや、それ以上に傷ついている。


「だから、菓子で釣るでないのだ! 子供扱いしてはならないのだ! ママは大人と言っているのだ!」

 涙ぐんでいる。


 そうではないと分かっていても、母親が女子同士の集団いじめに合っているかのように見える。


「母さん! 気にしないで! 母さんは大人だから! 早くやっつけて!」

 典高は気が気でない!


「典ちゃんもママが子供ではないと、あいつらに教えるのだ! そうだ! 免許証なのだ!」


 ゴソゴソ

 ジャージの下から、免許証を出そうとしてる。


「母さん! そんなの後でいいから! 先に邪気をやっつけてよ!」

 首掛け紐が付いたパスケースを出した! 免許証が入っている。


「ほら! これを見るのだ! 大人しか持てない中型二種の運転免許証なのだ!」


 掲げて見せてる。母親は逆転ホームランを打ったような得意顔になる。


 その掲げている手にアラボシの黒い煙が巻き付いた。


「うわっ! 油断したのだ!」

 軟体動物の触手みたいに伸びて、母親の手をからめ取る。


「母さん! 逃げて!」

 典高の声は遅かった。


 グイッ グイッ

 力比べのように、アラボシと母親が引き合ってる。


「手が抜けないのだ! 捕まったのだ! 逃げられないのだーーーーっ! こうなると、印が結べないのだ!」


 アラボシの力が勝っているようだ。


「さっきは肝を冷やしたが、バカでよかったぞ!」

 アラボシに余裕が戻る。


「この邪気! 放すのだ!」

 グイーーーーーーーーーーッ

「うーーーーんっ」

 母親は力いっぱいに手を引くが動かない。


「お前は子供体形だから、脱がさないでやる! ここまで貧相な体だと恥じらいは、不味いからな!」


 アラボシにも好き嫌いがあった。

「私は子供ではないのだ!」


「別に子供とは言ってねーよ! 子供体形と言ったんだ!」

「それなら、許すのだ!」

 母親は妙に納得してる!


「母さん! 許しちゃダメだよ! 邪気なんだよ!」

「例え邪気でも、ママが子供ではないと言ったのだ! そこのところは認めてやるのだ」


 ウンウンとうなづいて、1人で満足してる。

「母さん! 余裕出してる時じゃないだろう?」


「大丈夫なのだ! まだ、典ちゃんがいるのだ! 健在なのだ!」

 典高をを信頼してる。


「親バカだよ! 俺は邪気が来たって、知らせるくらいしか、できないんだよ!」

 典高は邪気には無力だった。


「そんなことないのだ! 秘密基地で言いそびれたことを、今、伝えるのだ! 身体検査の結果発表をするのだ!」


 いきなり何の話をするのやら。でも、なんか、母親は嬉しそう?

「こんな時に身体検査の結果発表なんて、いいよ!」


「そうでもないのだ。入学式を欠席してまで、調べた結果なのだ!」

 欠席にこだわっているようだ。


「そうだけど……」

「要点は2つなのだ。1つ目は、典ちゃんは金属を介して磁石の強さを増減できるのだ」

 自慢するようだ。


 身体検査は変な電極を全身に装着されてデータを取った。普通の身体検査ではなかったのだ。特殊な能力を見つけるための身体検査だったようだ。


 でもそれは、典高にとっては既知だ。

「ごめん、母さん、それは前から知ってるよ」


 ちょっとビックリしたようだが、開き直るように続ける。

「なら、2つ目なのだ。典ちゃんは気張れば、印を結ばなくても、右手から霊磁力を出せるのだ!」


 今度こそ、知らなかっただろうって顔になっている。

「それって、磁石になるってこと? 大したことないじゃん!」

 がっかり気分の典高である。


「何を言うのだ! 霊磁力を浴びた霊体は消えるのだぞ! ママがやったのと同じことを、典ちゃんは印を結ばなくてもできるのだぞ!」


「お、俺がさっきの母さんみたいにアラボシを、いや、邪気を消せるの?」

 母親はアラボシを知らない。典高は言い直した。


「そうなのだ! ママのように印を結ばなくても、典ちゃんが煙に手を当てて気張ればできるのだ!」

 小さい体に力がこもった声だ!


 アラボシはもう、黙って聞いていられなかった。

「ええーーーーーーーーいっ! 余計なことを吹き込みやがって!」


 モワモワと、母親の手に絡んだ煙が動いた。

「ふわーーーーー? 眠いのだ~~。典ちゃん、後を頼むのだ~~……」


 スヤスヤ

 母親は眠ってしまった。遊び疲れた子供みたいな寝顔。


「母さん! 母さんも妹石さんにみたいに眠らされたんだな!」

「そうだ。ざまあ見やがれ!」


 ズズズッ

 母親の体が星渡りの表面を滑るように、高く上がっていく。


 ビキニ姿を見せ付けている姫肌の隣まで上がって止まった。姫肌のように両手足だけが拘束されて掲げられて、見せしめのようだ。


 でも、ジャージ姿だ。スケベ度はゼロだった。


【2300文字】

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