第47話 第十一章 女狩り(2/5)

 そんな野暮な典高をアラボシは無視である。好き勝手に女性を探し続けるのだった。


 このままだと、もっと被害者が出てしまう。

 典高は主婦から手を放し、走って先回りをする。


「邪気でーーーーすっ! 邪気が発生してまーーーーすっ みんなーーーーっ! 逃げてーーーーっ! 巨大な邪気でーーーーすっ!」


 叫んで教えるしかできない。幸いにして星渡りの進む速度は遅かった。


 商店街を歩いていた女性は、邪気が見える人も見えない人も、近くの商店に駆け込んで隠れるか、商店街を駅の方向、大鳥居と反対方向へ逃げた。


 霊体であるアラボシが見えない人も、下着姿にされた主婦や、掲げられた姫肌は見えていたのである。


 そこへ、邪気という典高の声を聞けば、我が身に危険が迫っていると分かった。

 しかし、いつものように近寄って、晒されている女性を見ようとする男もいる。


 これまでの邪気は、女性が恥ずかしい思いをすることで、邪気から解放されたのだ。見ることで解放を早めようとした。……はずである。スケベだけじゃない、と思いたい。


 典高は叫び続ける。


「上を見るんだ! いつもの邪気とは違うぞ! 巫女が捕まったんだ! 捕獲できる人が今はいないんだよ!」


 典高は見物人を散らそうとする。やっと、見物人の1人が危機に気付いた。


「巫女だ! 巫女が負けたみたいだ! なんか、まずくねっ? 邪気に取り憑かれたら男は脱いで女を追い回すんだ! 犯罪者にされちまう! 逃げろ~~!」


 他の見物人たちも叫びながら逃げ始めた。

「巫女もやられた邪気だーーーーっ! みんなーーーーっ! 逃げろーーーーっ!」


 典高も、こう言うしかなかった。

「上の方を見ろーーーーっ! 巫女が敵わなかった邪気だーーーーっ! 逃げろーーーーっ!」


 多くの人が逃げたが、逃げ遅れた女性や、別の路地から出てきた女性が、どんどんとアラボシに捕まっていく。


 始めはアラボシの低い部分だけにしか、女性が捕まってなかった。ただ、見せるために、進行方向だけである。


 しかし、人数が増えてきたので、進行方向の2段、3段と高い位置へ上がっていった!


「きゃーーーーっ! 高いーーーーっ! 怖い! 恥ずかしい! 見上げないでーーーーーーっ! 下から体を見上げないでーーーーーーっ!」


 邪気と知りつつも、陰から写メを撮るやつがいる! これまでになく多くの女性が、下着にされて掲げられているのだ。撮りたい気持ちは、痛いほど分かる。


 だが、この街には風神の天罰が落ちるのだ。


 姫肌の時よりひどかった。内臓メモリーのデータが電子的に壊れる他に、携帯やスマホの本体は、持ち主によって踏まれて破壊されたのだ。


 あたかも、不注意であるかのように、スマホが地面にスルリと落ちて、よろめいた持ち主の足によって踏みつけられた。


 メモリーカードも、勝手に出てきてはズタズタに踏まれた。

 例え、クラウド内にデータが自動的に保存されたとしても、天罰が電子信号を追いかけて、クラウド内に保存してある関係のないデータまで、全てを壊して回るのだ。

 亡国の電脳部隊も真っ青である。


 どんな保存方法でも、似たような裁きを受けた。だって、それが天罰なのだから。


「うわーーーーっ! スマホがーーーーっ! SDがーーーーっ! これまでのデータがーーーーっ!」

 スケベ心を出したばっかりに、データという財産を失っていった。


 そんなスケベなやつらは、どうでもいい。典高は女の人たちを避難させようとする。


「逃げろーーーーっ! 邪気が来たぞーーーーっ! 巫女もやられたぞーーーーっ! 逃げろーーーーっ!」


 足の遅いアラボシの先回りをして、叫びながら商店街を進んだ。

 商店街からは大方人影が消えたが、見物人は若干残っている。写メは撮れなくても目に焼き付けようと言うやつらだ。


 タタタッ!

 小さな足音!


「典ちゃん! 禍々しい気があふれているのだ! どうなっているのだ!」

 典高の母親がジャージ姿で走ってきた。


 さすが、超常現象対策センターである。いい鼻を持っていた。

 でも、なんか、慌てた感じだ。


 典高は母親に情報をあげていないかったから、仕方なかった。

 とはいえ、母親も女性である。典高は案じた。


「母さんも危ないよ! 逃げて! 巨大な邪気が暴れてるんだ!」

「どうして、こんなことになったのだ!」


 母親は真剣に問いただした。幼く見えるが、エキスパートの顔になっていた。

「これまで封印した500年分の邪気が1つになって、暴れてるんだよ! 母さんも危ないよ! 逃げて!」

 典高は母親を巻き込みたくない!


「ママは全く平気なのだ! むしろやっつける立場なのだ! この煙のような邪気は滅してもいいのだな!」


 もうエキスパートではなかった。たくさんお菓子をもらった子供が、ここで食べていいか聞いているかのようだ。けど、典高は母親の仕事っぷりを知らない。


「退治して欲しいけど、滅するなんて、母さんがこの邪気を倒せるの?」

 不安な顔を見せた。


 返って、母親は自信たっぷりだ。

「無論なのだ! この邪気は霊体なのだ! 霊体ならママが消せるのだ!」


「な、なら、お願いするよ」

 母親に気圧けおされるほどの典高だった。


「分かったのだ! それっ! 行くのだ!」

 ダッシュ!


 子犬のように喜んで駆けていった。


 母親はアラボシの前に来た。

「なんだ、子供か? 子供じゃ、恥ずかしがる濃度が薄いんだよな。美味くなさそうだ」


 子供扱いである。アラボシも子供は対象外らしい。そこはいい傾向である。しかし、母親の怒りに火が着いた。


「ママは子供ではないのだ! こんなやつ、とっとと、やっつけてやるのだ!」

「なんだと! 生意気なガキだな! 捕まえてやれ!」


 ニュオーーーーンッ

 煙の触手が母親に向かって伸びる!


 母親は手を合わせている。

 違う!


 忍者のようにいんを結んでいる!


 そして、何やら呪文を唱えだす。

「のうまく さんまんだあ じんぼだい

 のうまく さんまんだあ じんぼだい

 おん ばざら うんけん そわか

 おん ばざら うんけん そわか

 おん ばざら うんけん そわ ガンッ!」

 両手を勢いよく煙のアラボシへ突き出した!


 ブワンッ!

 一陣の風が巻き起こったと思ったら、星渡りの一部を吹き消していた!


 地面付近の星渡りは全て消えてしまった。


 吹き飛んだのではない。乾いた風に当って黒い煙が蒸発したって感じだ!

 でも、地面付近だけだ。母親は真正面だけを狙ったようだ。人の背丈より高い位置にあった黒い煙は残っていた。

 まだ見上げるくらいの星渡りは健在だった。


 あれ?

 典高が気付いた。姫肌が動いたような気がした。眠っている子供がムニュムニュと言ったように見えた。星渡りの一部が消えて、覚醒に近づいているのかも知れない。


 一方、体である星渡りを消されたアラボシ!

「うががががああああああぁぁぁぁーーーーーーーーっ!」

 道路工事のような悲鳴!


 高く伸び上がっていた星渡りは足元を失い、スーーーーッとゆっくりとしたダルマ落しのように地面へと下がってくる。


「わーーーーっ! 助かった!」

「手足が自由だわ!」

「今よ! 逃げましょう!」


 地面付近に捕まっていた女性たちは拘束を解かれて、近くの商店に逃げ込む! 人間には母親の術は無害のようだ。


 捕らわれた女性は、あと2段分もいる。姫肌はさらにその上だ。


 今みたいのを、あと3、4発ぶっ放せば、アラボシの体である星渡りは全て消え去り、捕まった全員を解放できるだろう。


「母さん! もっとだ! 今のをもっとぶっ放して!」

 典高は逆転のチャンスと見た。ここで、畳み込みたい。


「任せるのだ!」

 母親もその気だ。


【2984文字】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る