第十章 姫肌の願い

第43話 第十章 姫肌の願い(1/3)




   第十章 姫肌の願い


 夕刻と言うにはまだ早い午後、雷神石付近から黒い煙が湧き出した。それは、姫肌が乗ってきた宇宙船、ではなく、あの世を通って星を渡る霊体船、星渡りだった。


 星渡りには人格がありそうなのであるが、姫肌がその母親から聞いていた人格とは、キャラが違っていた。


 そこへ別の女の子の声が、星渡りを『アラボシ』と呼ぶ。でも、声だけで姿は見えない。


 なのに星渡りは、その声を『フキアゲ』と呼んだ。


 スーッ


 姫肌の横に女の子が幽霊のように、ゆらりと現れた!


 典高の母親よりも、少し大きい中学生くらいに見える細身の褐色女子である。

 現れたと思ったら、フィギュアスケートの選手みたいに、クルッと1回転してからフワリと着地し、履いているフンドシのヒラヒラした白布を軽く翻した。


 典高は人間ではないと直感する。と言うのは、褐色女子は白いフンドシを履き、白い平紐で胸を隠すエロ水着なのである。とても、JC(女子中学生)の服装ではない。



 その白い平紐は、3センチくらいの幅があり、首の後ろにかかっているように、左右から褐色の肉体を這うように伸びて、胸の上部で一端クロスしてから、中学生っぽい控え目な胸を、かわいそうなくらいに押し潰して隠している。


 姫肌の巨乳とは対照的な意味でエロい!


 そして、その平紐は背中に回り、そこでもクロスしてから、骨盤上にある側面円環金具に固定されている。その金具は、下に履く白フンドシの一部である。また、髪の毛で確認できないが、首の後ろで平紐は結んであると思われた。


 他方、元来フンドシ(越中フンドシ)とは、横紐と細長い縦布が丁字に接続されている下着である。


 通常は接続部を背中の腰に当てて、横紐は左右からお腹に回って結ばれ、縦布は尻の割れ目を通して、股下の危ない部分を覆ってから、お腹で結んだ横紐の内側にくぐらせて、くぐらせ残った縦布を股の前にヒラヒラと垂らすのである。


 この褐色女子が履いているフンドシは、だいたい通常通りなのだが、女子用なのか尻側の布が広く、尻の割れ目を通らないで尻の全体を覆っている。尻だけ見ればボトムビキニと変わらなかった。


 JCっぽいだけに、尻が丸見えではたまらない。典高は安堵する。

 そして、通常のフンドシと違う部分が、もう1箇所ある。


 背中の腰から回った横紐が、両方の骨盤上にある側面円環金具に、固定されるように途切れ、その金具から別の紐がお腹側へ伸びて結ばれているのである。


 つまり、横紐は金具によって一旦途切れて、前後に分かれいるのだ。でも、その用途はきちんと果たされている。そして、その金具は、控え目な胸を潰した平紐を固定している金具と、同じなのである。


 立派にエロ水着だった。



 着ている当人はと言うと、肩くらいに髪をモサモサと伸ばし、八重歯がかわいいのだが、生意気なくらいに気が強そうに見えた。典高からすれば、口では勝てそうにないタイプの女子である。


 さらに、額に短い角を1本生やし、左側の下腹に腰のラインに沿うように斜めに、『風』の1字が書いてあり、そして、フンドシの横紐を挟んだ下、左太腿の上部に続き文字であるかのように、『神』の1字が傾けて書いてあった。



 間違いない、この褐色女子が風神である。



 しかし、水着に酔ってしまうほどにエロい。

 鼻からの出血を、無意識に確認する典高である。よかった、興奮の液体は放たれていなかった。



 その風神が声を上げた。

「アラボシ! 変わり果てた姿っすね! 化けてまで逃げるつもりだったっすか?」

 風神は、再び星渡りをアラボシと呼び、旧知の仲といった感じである。


「人聞きの悪りいこと言ってんじゃねーよ! 星渡りっつーやつにくっついたまま雷神に戻れねーんだよ!」

 姫肌がキッと煙の星渡りを睨む。


「あなたは星渡りではなく、雷神様なのですか?」


「ああ、そうだ。俺様は雷神のアラボシだ。だからって、星渡りの機能がねーって訳じゃあねーぞ! 融合して代わりに声を出してるだけなんだよ。見ての通りフキアゲがお前さんの体から、出たんだから、星を渡れるぞ。早く乗れ! 故郷のヒルヒ本星へ帰れるぞ!」

 開き直って命令してきた。


 姫肌の故郷はヒルヒ本星というらしい。ここは昼日神社である。典高は小さく納得した。

 ただ、星渡りは、なんだか、急いでるように思えた。


「待つっすよ! アラボシ! 姫肌の故郷に帰す前に、融合を解くっすよ!」

 500年も雷神の復活を待った風神である。融合したまま行かせてなるものか、という気迫が伝わってくる。


「だから、解けねーんだよ! このまま一緒に行くしかねーんだ!」


 風神が承知できるはずがない。

「土地神がよその星へ行くなんて、前代未聞っすよ! もう神でいられないっすよ!」


「どうせ俺様はオチ神だしーーーーっ! 神にこだわらねーしーーーーっ! ここの女どもが恥ずかしがる姿も好きだけどーーーー、姫肌の星でも女はいっぱいいるからよおーーーー。今から行って、その星の女が恥ずかしがる様を心行くまで堪能してーんだよ!」


 こいつこそがスケベの元凶、邪気の中の邪気なのだ、と典高の心が叫んだ! もう、黙っていられない。


「おい! そこの雷神!」

 と、いっても黒い煙でしかない。


「何だよ、人間の男!」

 神だけに態度がでかい。


「俺の名前は兄石典高だ!」

「俺様はアラボシだ! 文句あるか!」


「なら、アラボシ! 文句は、有り有りのオオアリクイだ! この街に出るスケベな邪気はお前だったんだろう! お前がスケベの元凶だったんだな! 500年も女の人にスケベを働いたのは、お前なんだ!」


 典高の脳裏には、入学初日の先生、商店街の中学生、市役所の女性職員、彼女らのかわいそうな姿がよぎる。


「ああ、そうだ。俺様がスケベな雷神のアラボシだよ! 俺様はオチ神になって、雷神の役目がなくなって、好きなことができるようになったんだ。だから、女どもが恥ずかしがる様を心行くまで楽しみたいんだよ。その姫肌の星でも、たくさんの女どもに恥ずかしい思いをさせて、楽しんでやるぜ!」


 少々うらやましいと思う典高だったが、そんなヨコシマな思いは握りつぶした。

「妹石さんの星へ行っても、スケベな悪さをする……」


「アラボシ! っす!」

 風神の声が、典高の声を弾き飛ばした!


「他の星に住む女が狙いだったっすね! アタイと言うものがありながら、いつも、いつも他の女ばかりっす!」

 怒りに声が震えている。


「フキアゲは妹みたいなもんじゃねーか! お前の恥ずかしい思いを吸っても、気分がよくなんねーんだよ!」


「きーーーーーーっ! 悔しいっす!」

 ドンドン!

 風神は地面を踏み鳴らしてる!


 でも、アラボシは、おかまい無しだ。

「さあ、姫肌、早く乗れ! 星渡りが主人と認めたやつが乗らねーと、他の星へは行けねーんだよ! 早く乗れよ! 故郷の星が待ってんだろう!」

 挑発するかのように、出発を促す。


「そ、それは母様の想いなのです!」

 姫肌は躊躇してる? 感じに見える。


 アラボシもそう思ったのか、押してくる。

「そうだよ、その母親の願いを叶えてやれよ! そのために、苦労して俺様の欠片を集めてきたんだろう?」


 姫肌は眉間にしわを寄せて悩んでいる。

「代々の巫女が集め、母様も集めたのです。そして、故郷のヒルヒ本星へ帰るのが母様の悲願だったのです!」


 義務感を原動力にした姫肌の言葉。


 アラボシがもう一押し。

「なら、早く乗れって! すぐに叶うぞ!」


 そう、何かの願いが叶う直前、人は不安に陥ることがある。そんな姫肌の顔が、典高へと視線を向けた。


「兄様も一緒なのです! マサムネ兄様と一緒に帰るのも、母様の願いだったのです!」


 姫肌は典高を不安に巻き込んだ。


【3061文字】

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