第42話 第九章 星渡り(5/5)
典高は姫肌が言ったことが気になった。
「調整の終わりを判断するコアって何?」
「星渡りは霊体なのですが、固体部分もあるのです。それがコアなのです。コアは磁力を持っていると聞いているのです。たぶん、コアが雷神石を持ち上げていたのです。だから今も、雷神石はコアの上にあるはずなのです」
「そのコアって、どこにあるの?」
「コアは頭だから、上の方と聞いているのですが、霊体の煙を出ることはないのです」
霊体! 典高は思い出した。
「そう、霊体だよ! 霊体が宇宙船なの? 煙見たいな霊体で宇宙を渡れるの?」
「星渡りは宇宙には行かないのです」
姫肌は涼しい顔でサラリと重大な台詞を言った。
「へっ? 星を渡るから星渡りじゃないの? 宇宙を渡るんじゃないの?」
姫肌は満足げな顔。どうやら、質問を予測していたようだ。
「星渡りは宇宙を通らずに、別の星へ行くのです」
「えーーーーーーーーっ! どうやって?」
典高には理解不能である。
「よく考えるのです。星渡りは霊体なのです。『あの世』を通って別の星へ行くのです」
考えてもみない方法だった。
「あ、あの世? あの世を通るって? 死ぬの?」
あの世とは、天国とか地獄とかいう、あの世のことだ。死んでから行く場所だ。
「肉体ごと行くのです。死んでないのです。あの世というのは、いわゆる別次元なのです。霊体だけが行き来できる身近な別次元なのです」
新しい発想! あの世とは身近な別次元。
「うーん、星を渡ることとは、なんかイメージが違うな」
「地球人のイメージなんて関係ないのです! あの世を利用して星を渡るのです。別の星に生き物がいれば、あの世があるのです。空間的に星が離れていても、あの世同士は別に遠くないのです」
それは面白い。
「それなら、例えば、火星人がいたら、火星のあの世があって、地球のあの世と近い場所ってことなの?」
「あの世は、三次元的な場所ではないのです。でも、そんな感じなのです。だから、星を渡ると言っても、生き物がいない星へは渡れないのです。ただ、今はいないけど、かつていた星なら行けるのです」
生き物が絶滅した星でも、あの世は残っているようだ。でも、あの世に生きている人間が行けるのだろうか?
「あの世が三次元じゃないんなら、星渡りに乗っている人間はどうなるの?」
「特に、どうにもならないのです。星渡りは実体を持った人間でもあの世に行けるようにするための船、霊界船なのです。星渡りの中は擬似的な三次元なのです。だから、船の中はなんともないのです。けど、あの世にいる時に外へは出られないのです。別の星に到着してから出るのです」
「うーん、人類の想像を超えた船ってことか、……」
「おい、こら!」
太い男の声!
太いから、典高の父親じゃない。別の誰か神社にやって来たのだろうか?
典高と姫肌がキョロキョロする。他に人影はない。
「おーーーーいっ! こらーーーーっ!」
また聞こえた! 誰だ? どこにいるのだろうか? また、キョロキョロ。
「おい! こっちだ! 俺様だ!」
太い声だが、どこから聞こえているのか分からない。空気が全体的に震えているような、なんとも不思議な声だ! しゃーないと、典高は空気に問いかける。
「どこの、誰さん?」
見えないやつを相手にするなんて、のれんに腕押し、糠に釘、会話が成立するのだろうか?
「俺様は、お前らが言う星渡りだ! もう復元・調整が終わったんだよ! さっさとそのキーを抜け! くすぐったくて、たまんねーよ!」
太い声は黒い煙の星渡りだった。
よくよく注意すると、煙の方から声が聞こえる気がする。近過ぎたから分からなかったようだ。
「あ、ごめん」
スッ
典高は宝剣を煙から抜いた。
もう煙、星渡りの近くにいる必要はなくなった。典高は宝剣を持って雷神石を囲んでいた鎖を出て姫肌の隣に来た。重いので、宝剣は地面に置いた。
「あー、
星渡りと会話になったと思ったら、なんとも横柄な態度。そんなためか、姫肌は疑惑の眼差を黒い煙に向ける。
「あなたが星渡りなのですか? 母様から聞いた声とは違うのです……」
だから、すぐに分からなかったようだ。
「お前らがやってるのは、500年続く伝言ゲームだぞ。どこかで間違っても不思議はないだろう」
星渡りのは、まるっきりおっさんだった。姫肌はまだ納得がいかない。
「声だけではないのです。性格も聞いたのと違うのです。従順で使いやすいと、母様に言われてたのです。まるで、別人のように思えるのです」
「別人じゃねーって! 俺様は、ちゃーーんと、星渡りだぜ!」
黒い煙がモソモソと動いた。やっぱ、煙が話しているようだ。
「その煙のような姿は聞いていた通りなのです。ですが、……」
姫肌が開けた疑惑の穴は、全く埋まっていない様子。
「んなことどうでもいいだろう! 早く乗れ! 行くぞ! っと、忘れちゃいけねーな。その前にちゃんと中のやつを出してから乗るんだぞ!」
姫肌は疑惑に確信を持つ。
「どうしてあなたが、あたしの中に何かがいるって知っているのですか?」
星渡りは今目覚めたばかりなのだ。
伝言ゲームは知っていてもいいと思ったようだが、姫肌の中に風神がいるなんて、知るはずがないってことみたいだ。なんか、風神を隠しているようにも思えた。
そういえば、雷神が分離するって話はどうなったのだろうか?
典高は疑問に思ったが、姫肌が風神の名前を出していないので、雷神の名前も出さない方がいいと思い、星渡りのことは、姫肌に任せることにした。
星渡りは姫肌の疑問に答えようとする。
「えっとー! あー! そうだ! 俺様の体がバラバラになってた時、捕獲して回ったじゃねーか! その時、お前の中に風神がいるって分かったんだよ!」
煙なので表情なんてないけど、冷や汗をかいている感じの声だ。
それに、姫肌が隠していた風神と言っている。なぜ、名前が出たのだろうか? ますます怪しく思う典高だった。
姫肌も同様だった。
「どうして風神様って、分かるのですか! あなたは、ここの土地神なんて知らないはずなのです!」
マジで姫肌も疑っている。
「ほ、捕獲されて分かったんだって! 風神っぽいなあって!」
ウソ臭い言い方だ。
「神様に捕まったというのは気付くかも知れないのです。でも、神様が風神様かどうかまでは分からないはずなのです」
「か、風を使っていたからだって! だ、だから、風神と分かったんだよ」
やっぱ、冷や汗をかいているように思えてしまう。
「風を使う神様は、風神様以外にもいらっしゃるのです! 風使いは風神様だけではないのです!」
この問い方、典高は意図的と思った。星渡りは風神以外の神の名を言うのだろうか?
「何を言いやがる! 他の神連中が使うったって、あんなに繊細に使えねーんだよ! あれだけの痒い所に手が届くくらいの操風術は、風神以外にできねーんだよ!」
星渡りは褒めながら怒ってるっぽい。どうやら、風を操る術を操風術と言うらしい。
「やっぱり、アラボシっすね!」
女の子の声がした! 典高が初めて聞く声だ! でも、姿はない。
「ちっ! 本人が気付きやがったか! さっさと出て来やがれってんだ! フキアゲ!」
【2910文字】
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