第40話 第九章 星渡り(3/5)
姫肌は、これまでになく改まっている。
「マサムネ兄様なのです」
忘れられないほどに、暖かい笑みだった。
「あたしはマサムネ兄様と一緒に、この地球へやって来たのです」
本物の兄がいたようだ。典高を兄様と呼ぶのは、そのマサムネの代わりのように思えた。
典高は小さく納得した。
「その鳥居が好きなマサムネって人が、本当の兄さんなの?」
「そうなのです! マサムネ兄様の目的は、鳥居を見るだけではないのです。鳥居を見て新たなアートを創ろうとしたのです!」
アート? 芸術鑑賞をする典高の触手が動く。
「芸術家だったの?」
「本業はデザイナーなのです! でも、夢はアーティストだったのです! なのですが、Hな絵や彫刻を作る割には、ヘンテコなHのためか、ちっとも売れなかったのです」
姫肌は少し元気が無くなった。
典高は親しみを感じた。
Hなアート、いいじゃないか! 是非見たかったよ! あ、でも、ヘンテコなHか。気になる典高だったが、言わないことにした。
Hな話を深めそうなので、言葉を呑み込んだのだ。
そんな典高の様子が姫肌には手に取るように分かった。メッチャ面白いと思った。お陰で元気を取り戻したのだ。
「だからなのです。Hなのをやめて異文化を取り入れようとしたのです。それが、鳥居だったのです! 本物の鳥居を見てから故郷へ戻って、爆発するような、みんなをアッと言わせるようなアートを発表しようとしていたのです! けど、なのです……」
急に花がしぼんでいく。
「何かあったの?」
典高は優しく聞く。
「地球に来てすぐに、故郷に帰れなくなってしまったのです! 帰りたいけど帰れなくなったのです……」
「どうして帰れなくなったの?」
姫肌はフウと一息つく。
「あたしたちは、星渡りという船に乗ってきたのです」
宇宙船の名前が『星渡り』とは、いかにも、それらしい名前である。姫肌は消沈の思いを抱えながら続ける。
「その星渡りがバラバラになって、この街のいたる所に浸み込んで消えてしまったのです!」
典高には聞き覚えがあった。
「バラバラになって浸み込むって、雷神と似てるんじゃないの?」
「そうなのです。地球に来て、兄様が鳥居を見た瞬間くらいに、星渡りが雷に撃たれたのです。それで……」
雷に撃たれた!
典高の脳みそが瞬時に先回りした。先にも出たが、典高は小学生の時に雷に撃たれた経験がある。その時の雷神がオチ神となり、典高の体内に入っているのだ。
自身と同じ!
「妹石さんが乗ってきた星渡りも、雷に撃たれて、その中に雷神が入ったの?」
姫肌から、一旦力が抜けたが、再起動する。
「違うのです! 星渡りと雷神様が融合して、バラバラになって街に浸み込んで消えてしまったのです。そして、融合したまま、少しずつ邪気となって、この世に戻ってきているのです。その邪気を集めて雷神様と星渡りを一緒に復活させようとしているのです」
姫肌は言いたいことを出しきった。
ようやく、典高が理解する。
「だから、妹石さんと風神が一緒になって邪気を集めていたのか」
「そうなのです。風神様は雷神様を、あたしは星渡りを復活させようとしているのです。融合しているから同時に復活できるのです」
典高の頭はスッキリした。巫女だからと言う理由だけで邪気を捕獲していたんじゃなかった。先祖が乗ってきた宇宙船を復活させるつもりだったんだ。
姫肌も言わなきゃいけないことを言えてスッキリしていた。スッキリして目的を思い出した。
「兄様、調整キーを用意するのです。あたしたちは調整キーを持ってくるために拝殿に来たのです!」
雷神石に邪気を封印する前に調整キーが必要らしい。それは重いから典高が手伝うことになった、と思い出した。
「調整キーって、重たいんだよな。どこに隠してあるの?」
「あれが調整キーなのです」
ピカピカの宝剣を指差した。宝剣は人の背丈ほどに長い大剣である。
「キーって、宝剣じゃん! こんなにデカいの?」
キーは鍵だから、家の鍵くらいに思っていた。
「調整キーなのです。星渡りの復活に必要なのです」
「ちょい待ち、この宝剣のいわれは知らなかったんじゃないの?」
「あれはウソなのです。重いから、あたしでは持てないのです! さあ、兄様が持つのです」
ウソだったのか。典高は、まあしゃーないと思い、近くで宝剣を見る。
ギラリと光った。よく切れそうだ。研いだばかりのような抜き身である。危険!
「
「ないのです。さっと持つのです」
過去話をして時間を食ったためか、急かしている。
典高は宝剣の柄に手を伸ばした。ザラザラとした滑り止めが施された金属の柄だ。
途中で手が止まる!
「あれ? この宝剣を持ち出すと、気絶するんじゃなかったっけ?」
神職と巫女以外が持つと、そうなると言っていた。
「これはマサムネ兄様の持ち物なのです。持ち主である兄様は気絶などしないのです!」
急かすあまり、姫肌は兄を混同している。
「ちょい待ち! 俺はマサムネじゃないよ。異母兄弟の兄だよ。あれ? 単為生殖なら、本当の兄でもないな」
姫肌が言うように、父親無しに姫肌が生まれたのなら、典高と姫肌は兄妹ではない。
「父様とは70パーセントの親子なのです。なので、あたしは兄様の70パーセントの妹なのです。でも、正確には数字はもっと上なのです。だから心配ないのです!」
なんか、ニタニタしてる。
「数字が上とか、よく分からないよ」
「それなら、教えてあげるのです。父様はマサムネ兄様の子孫なのです! だから、兄様もマサムネ兄様の子孫なのです!」
典高は初めて聞いた。
「すると、俺は異星人の子孫なのかよ! どうしてそんなことが分かるんだよ!」
フフーンと姫肌が、1人だけが答えを知っている准教授のような顔をする。
「兄石という苗字なのです。兄様は故郷に帰れなくなって、ここで兄石の姓を名乗ったのです。兄妹が生き別れになっても、苗字からたどれるように、兄と妹を苗字に入れたのです。兄石と言うだけで、マサムネ兄様の子孫と分かるのです」
「ちょい待ち、兄石は母さんの苗字だぞ! 母さんがマサムネの子孫ってことじゃないか!」
兄石姓は母親の苗字である。典高は知らないが、結婚していた時も兄石姓を名乗っていたのだ。
「父様の旧姓は
父親と姫肌はDNA鑑定をしている。
だが、母親と姫肌は特に検査をしていない。
「母さんはDNA鑑定はしてないよ。それに、苗字をたどると言っても、どこかの時代で養子があったかも知れないじゃないか!」
それでも余裕な姫肌である。
「DNA鑑定ではないのです。あたしの検査なのです。あたしの検査は確率ではなく、受け継いだ遺伝子の割合なのです。知らないうちにお母様を検査をしてたのです。お母様の苗字が兄石と聞いて、あたしが黙っていると、兄様は思うのですか?」
登校初日、姫肌は典高の苗字を見てすぐに兄と呼んでいた。
苗字だけで反応するのだ。母親に反応しても、ちっともおかしくなかった。
「そんな検査、母さんから聞いてないよ」
「だから、知らないうちと言ったのです。兄様も検査したのです。
結果として、お母様は80パーセント、兄様は92パーセント以上、マサムネ兄様と同じDNAなのです。
以上と言うのは、測定限界だからなのです。もしかしたら、100パーセントかもなのです!」
測定限界とか、専門の
「検査なんて知らないよ!」
【3035文字】
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