第九章 星渡り
第38話 第九章 星渡り(1/5)
第九章 星渡り
最後の邪気を捕獲した姫肌と典高は、神社の外周道路を通り、銀ピカの大鳥居をくぐって、表参道を雷神石へ向かった。
姫肌は大鳥居の内側に入ると、相変わらず恥ずかしい空気をまとう。
商店街や学校のような神社の外はビキニエリアなので、ビキニ姿で歩いても何ともないのだが、鳥居より内側は、衣服エリアなので途端に恥ずかしがった。
「もう、慣れたんじゃないの?」
「少しだけなのです。境内に入ったら、あたしをジロジロ見てはならないのです」
身を縮めて両腕でビキニを隠した。全裸で外に出たような仕草だ。ビキニが隠れて、よりエロさが増す。さすがにそっちの方がエロいなんて、かわいそうだから言えない。
「分かった、分かった! 普通に見るよ。ハズいなら、封印より先に着替えてくるか?」
「最後なのです。時間が惜しいのです。ビキニは我慢するのです。兄様も急ぐのです。」
ビキニのまま封印するようだ。
封印する雷神石の前に来た。なのに、姫肌は通り過ぎてしまう。
「あれ? どこまで行くの? 邪気を封印しないの?」
奥の白鳥居へ行きかけている。
「先に拝殿へ行くのです。ほ、じゃないのです。雷神様を復活させるには、調整キーがいるのです。それは拝殿にあるのです」
何か、違う言葉を言いかけたようだが、典高は特に気付くことなく、調整キーに気を取られた。
「調整キーのキーって、鍵のこと? 雷神を調整する鍵とかがあるの?」
典高は家の鍵のような調整キーを想像した。
「そんな感じでいいのです。とにかく雷神様を復活させるには、調整キーがないと何ともならないのです」
もう邪気はいないんだし、鍵を取ってくるくらい1人で行かせても問題ないと典高は思った。
「鍵を持ってくるだけなら、俺は、ここで待ってるよ」
典高の態度に、姫肌は目を吊り上げる!
「ダメなのです! 兄様も一緒になのです!」
「どうして?」
「調整キーは兄様しか扱えないのです!」
「おれが? なぜ? 俺はそんなキーなんて、全然知らないよ!」
姫肌はフウと一つ息を吐くと、頼りない兄を見る目になる。
「調整キーはあたしが持てないくらいに重たいのです。邪気集めの集大成なのです。兄様は最後まであたしを手伝うのです!」
持てないのなら、しゃーないと典高は承知した。
拝殿に入ると、中は薄暗い。初めて入った時は夕方だから暗いと思ったが、建物の中だから暗いようだ。
「電気を着けてくるのです」
姫肌がスイッチがある方へ行く。隣の部屋にスイッチがあるようだ。
初めて拝殿に入った時は祭壇に気を取られたが、鏡と宝剣があるだけと知っているので、隣の部屋はどうなっているのだろうかと、典高は姫肌についていく。
パチッ
その隣の部屋も同時に明るくなる。
「わーーーーっ!」
途端に典高から声が上がった。
「こっちは、写真が並んでいる部屋なのか。人の顔がいきなり表れてビックリしたよ。妹石さんは自分の写真をこんな所に飾っていたんだね」
女性の写真が4枚、まるで遺影であるかのように、壁の少し高い位置に並べてかかっていた。その1枚に姫肌本人を見たのだ。
「あたしではないのです。あたしの産みの親、母様なのです」
典高は写真と姫肌本人を見比べる。
そっくりだ。
似てると言うレベルを超えている。同一人物と言っていい。どう見ても写真は本人であるとしか思えない。
「えーーーーっ、こんなにそっくりなのに、別人なの?」
姫肌は不満げ。
「よく見るのです! 年が違うのです。この写真は、あたしより老けてるのです!」
典高は睨むように、目をこらして写真を見る。
特に目尻。
年齢の雰囲気が一番表れ易い部分だ。大きく引き伸ばした写真であるので、思ったほどハッキリしないが、シワがあるっぽい。
「うーーん、よく見ると、年齢が少し上かも……。でもそっくりだよ。そっくり過ぎる! あれ? こっちもお母さんなの?」
女性の写真は他に3枚ある。内2枚は白黒写真であり古ぼけている。なので、あまり鮮明でないが、どの写真も撮影した年齢がまちまちであるものの、全て姫肌であるように見えた。
「違うのです。それぞれお婆様、曾お婆様、曾曾お婆様なのです。会ったことはないのですが、母様からそう聞いているのです」
先祖の写真が並んでいたようだ。
「でも、みんな同じ顔だよ。4代、いや、今の妹石さんも入れて5代もそっくりなんて、スゴ過ぎるよ。何か秘密があるみたいだ」
気味が悪いくらいに、特別な理由があるほどに、そっくりな先祖だ。
「秘密、なのですか? 一般の人たちには、そっくりなのは血がつながっているから、という理由で通しているのです。でも、本当は違うのです。兄様が初めてうちに来た日、あたしには実の父様はいないと言ったのです」
「それは、父さんが母さんに責められてかわいそうだから、妹石さんのお母さんが言ったそのままを言ったんだろう?」
典高の母親は、典高の父親が浮気して、姫肌が生まれたと言っていた。DNA鑑定の結果が出ており、70パーセントの確率で、姫肌は母違いの妹と、典高も認識していた。
その話が出た時、姫肌は『実の父親はいない』と言ったのだ。でも、後にその言葉を否定したこともあり、典高は父親を助ける方便として、そう言ったのだと思っていた。
姫肌は、何か神妙な顔をする。
何か重大な秘密にぶち当たったという訳ではなく、その重大な秘密を言いたかったけど言えないでいた訳でもなく、かといって、秘密は秘密じゃないけど言うきっかけがなかっただけという訳でもない、心の底で燻り続けていた秘密に咬みつかれないように、慎重になっているような顔だった。
「違うのです。本当にあたしには実の父親はいないのです。
兄様、よく聞くのです。
あたしは、父様を必要とせずに生まれたのです。
だから、どの男性の血も受け継いでいないのです」
姫肌はビキニの体を見せる以上に、自分自身をさらけ出したかのように、恥らう視線を典高から外した。
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