第37話 第八章 最後の1体(8/8)

 縦向きのヒビが瓶に入ったと思ったら、左右が縦にずれるように割れてしまった。


 子供? の力で割れるのだろうか? しかし、その瓶は倒壊した秘密基地から掘り出したのだ。その時からヒビがは入っていたのだろう。


 ガサッ チャッ!

 母親は瓶を草の上に落としてしまった。ガラス瓶の割れ口は鋭く、危険を感じたためだ。


 瓶は草の上に、ずれたように重なって横たわっている。


 スーーーーーーッ

 その割れ口から、邪気が逃げようとしている。


 ガッシッ!

 捕まえた! 姫肌が鷲づかみ!


「ホイホイムニャムニャ、美味しいもんになるのですーーーー!」


 ポンッ!

 今日はチョコレートケーキになった!


 ガブッ! ムシャムシャ! ペロリッ!

 一瞬にして食べ切った!


 母親は目がまん丸!

「こんな捕獲法だったのだ! 初めて見たのだ! でも、あのチョコケーキ、ママも食べたかったのだ……違うのだ! ママの邪気を食べてしまったのだ! 吐き出すのだ!」


 ドンドン!

 姫肌の背中を叩いている!


「やめて、母さん!」

 典高が両腕を捕まえて姫肌から引き離した。


「ママは仕事の証拠を失ったのだ! どうしてくれるのだ!」

 泣きそうなほどに怒っている。


「母さん、そんなことより、ガラスが割れて怪我はない?」

 典高は手を放してやった。


 母親は促されるままに、自分の手を見てる。小さい姿だけにかわいい。

「うう、怪我はないのだ。でも、どうしてくれるのだ!」


 邪気を捕獲できたことだし、このままドンズラしてもよかった。だが、相手は母親である。後が大変と、典高は案じた。


「あれは不可抗力だよ。勝手に瓶が割れちゃったんだよ」

「あのくらいで割れるなんて、おかしいのだ! 邪気を1匹を捕獲したことは、すでに報告済みなのだ。逃がしたと上司に知られたら、ママの責任にされてしまうのだ!」

 どうやら上司に言い訳が立たないらしい。


「きっと、基地が潰れた時にヒビが入っていたんだよ。事故で瓶が割れたんだ。事故なんだよ。母さんの責任じゃないよ」


 脆い秘密基地に大事な物を置いた責任はあると、典高は思ったが、言わずが花と、言わないことにした。


 母親はしばらく考える。


 やがて、晴れやかな顔になった。

「一度は捕まえたのだ。でも、息子が瓶が割ってしまい邪気が逃げたことにするだ。それなら、ママの責任ではないのだ! これで、小言を回避できるのだ!」


 典高のせいにされているし、秘密基地がズッパリと抜けている。まるまる典高の責任にしてしまった。


 だが、バイトを言われたけど、検査結果も出ていない。まだ、典高は関係者ではない。


「もう、それでいいよ、……えーと、次は母さんの服か……」


 瓦礫の中から服を見つけないと、母親は典高の上着1枚のままだ。いくら、JS体形でも、そのまま道を歩いたら危険である。


 違う! JS体形だからこそ、危険なのだ。


 ゴソゴソ

 なんとか、典高は母親のジャージを見つけ出した。


「ほら、母さんのジャージだよ。たたんだ中に体操服も入っていたから、下着もあると思うよ。俺たちは先に行くけど、母さんはゆっくり着替えてから、帰ってくればいいからね」

 ジャージなどを一塊にして渡してやった。


「ありがとうなのだ。そうするのだ」

 見ると、姫肌はもう来た道を戻りかけている。


「妹石さん待って!」

「早く封印するのです! 代々の巫女なら、きっと急ぐのです!」


 姫肌は振り向いて催促し、そのまま母親を爽やかに見た。


「お母様、さよなら、なのです」


 手を振っている。母親も応えて手を振った。典高はよかったと思った。根に持ってないようだ。


 典高は姫肌のさよならに少し気持ちが入り過ぎているように思ったが、聞くほどのこともないのでそのままにした。


「母さん、お先に!」

 典高も姫肌に続いて元来た道へと走った!


「……ちょっと、待つのだ! 伝えておくことが……」


 母親が呼び止めようとしたが、その声は典高には届かなかった。知らないまま、2人は藪を抜けて神社へと戻ったのだった。


【1583文字】

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