第35話 第八章 最後の1体(6/8)
「母さん! 秘密基地の中には、他に人はいなかったの?」
瓦礫の下に人がいたら大変だ。急いで助け出さなくてはならない。
「いないのだ! 人がいたら脱いでなんて、いられないのだ! あーーーーーーーーーーーーっ! 思い出したのだ! 大変なのだ! 仕事の成果が埋まったのだ! 壊れてしまうのだ! 急いで助け出すのだ!」
慌てた様子で潰れた基地に駆け寄っていく! 慌てている母親を見て典高も焦る。
「何? 本トは誰かいるの?」
「瓶なのだ! ガラスなのだ! 仕事の成果なのだ! 割れてしまうのだ! うーーーーんっ!」
素手で廃材をつかんで、潰れた秘密基地を掘り起こそうとする!
「母さんやめて! 危ないよ!」
廃材は危険だ。怪我をするかも知れない。
「そんなこと分かっているのだ! それでも、掘り出すのだ!」
ガサガサッ
廃材を抱きかかえようとしている!
「それ、危ないって! 怪我するから! 離れてっ!」
「仕事の成果を助け出すのだ! 見つけ出さねば、上司の小言攻撃に晒されるのだ!」
ズサッ ズザザッ
廃材を掘るのやめない!
「分かった! 俺が代わりに探すから! とにかく、離れてよ!」
スッ トトト チョンッ!
典高は母親を後ろから抱き上げて、安全な草の上に立たせた。
「おーーーーっ! ママはうれしいのだ! 典ちゃんが大人の男に思えたのだ!」
ギュッ!
抱きついてくる!
抱きつかれてもJSと変わらない。典高は冷静だ。
「離れてよ、探せないだろう?」
「そうだったのだ! 早く探し出すのだ!」
潰れた秘密基地を指差した。
「探すけど、その仕事の成果って、何? どんな形の物? んで、どの辺に置いていたの?」
何か分からないと探しようもない。
「瓶なのだ! 右奥の下に置いていたのだ。早く助け出すのだ!」
また指を差す。
でも、瓶と言っても、一升瓶なのか、薬の瓶なのかで探し方も違うだろう。
「瓶って、小さいの?」
「大きいのだ! このくらいなのだ」
胸の前で上下方向に両手を広げて見せた。
「うーん、その手つきで言うと、30センチくらいかな? ビール瓶くらいなの?」
「飲み物の瓶ではないのだ! ビール本よりも、ずっと太い試薬瓶なのだ!」
「しやくびん?」
典高にはピンとこない。
母親は察して付け加える。
「理科室にあるような口の広い、すりガラスで合わせる蓋、と言うか栓が付いたガラス瓶なのだ」
典高はなんとなく分かった。理科室とすりガラスで分かった。薬液もストックできる瓶と思った。
スクリューの栓であれば、ゴム材のような漏れを防ぐ弾力材が必須となる。
薬液によってはゴムなどを著しく劣化させる危険があるから、オールガラス製の瓶が理科室には必要なのだ。
「想像ついたよ。解剖されたカエルやコイがホルマリン漬けになっている瓶だね」
小学校の理科室にはそんなのが並んでいた。近寄らない女子もいた。
「ちょっと形状が違うけど、そんな瓶なのだ! ガラスなのだ! 早く助け出すのだ!」
瓦礫を指差した!
「ああ、やってみる」
ドサッ! ズガッ! バッタンッ! ガリガラ!
典高は潰れた秘密基地の廃材を1枚ずつ、1個ずつ草むらに投げ置いて、掘り返していく。
5分くらいが経過した。
キラッ!
光った!
隙間の奥! 廃材に
きっと、ガラスだ! 母親が言う瓶かも知れない。
ガラッ! ガララッ!
周りの邪魔者共、廃材や訳分からない金属片や、プラスチックの板などを強制排除する。
典高は光った物を掘り出した。
「やっぱ、ガラスだ! 大きいぞ! きっと、母さんが言う瓶だ!」
重そうなので、しっかりと両手でつかんで、持ち上げた!
中身が見えた!
「ぎゃーーーーーーーーっ! ひーーーーーーーーっ! じゃ! 邪気!」
典高はみっともない声を張り上げてしまった!
小鬼の邪気が瓶の中にいた!
そのガラス瓶は、直径が10センチ以上もあって、高さが30センチ近くもある。すりガラスで閉める蓋、いや、栓と言った方がいいだろう。そんな物で閉じられている。だが、その栓は瓶本体と同じくらいに大きい。口が大きな瓶だった。
そして、その中に、あの小鬼姿の邪気が窮屈そうに入っていたのだ。おそらく、最後の1体である。
「う、動いている! 睨まれた! 俺を睨んだぞ!」
恨めしそうな邪気の目が、典高には不気味でたまらなかった。
【1698文字】
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