第29話【肝回】第七章 ここでの日々(7/7)
ノッチは公道で脱いだはずなのに、笑顔さえ見て取れる。それに、違うこと言っている。
「スカート? そ、そうね。ちょっとパンツを見られただけだったわね」
ミクちゃんは『?マーク』を出しながらも、話を合わせていた。
「風でほんの一瞬だもん。気にならないわよ」
ノッチには陰りの欠片もない。
? ? 風でスカートがめくれた? 典高には意味が分からない。ミクちゃんも話を合わせてるし、いったい、どういうことだ?
「ねー、妹石さん、あの子たちは、何であんなこと言ってんの?」
典高は狐に摘まれたようだ。
「神様が当人の意識を変えたのです。大人は対象外なのですが、小中高生の、特にかわいそうな子には、これをやるのです。あれだけ脱いだ事実をパンチラ程度に意識を小さくしたのです」
「き、記憶を書き換えたの?」
典高は恐る恐る聞く。
「神様によると、記憶はまだ残っているようなのです。でも、その記憶を思い出そうとすると、別の大したことなかった記憶に行き着くようにしているのです。
自分でも意識が変わり、
記憶のすり替えである。
「思い出させないようにしたのか。でも、誰か写メを撮ってて、客観的に見せつけられるかもよ」
典高は意地悪を言ってみる。
「邪気が出没する域内では、神様の天罰が落ちるのと言ったのです。あたし以外でも、写真のデータは全て失われているのです。
さらに、多く撮った人はスマホやデジカメ本体をも失うことになるのです。写真を撮ると大きな損害となって返ってくるので、撮る人は少ないのです」
プルッと、ビキニの胸を張った。
「そうなのか? でも、見た人の記憶は残るだろう」
イマイチ納得がいってない。
「その人たちも、あの中学生と同じようになるのです。スゴイ姿を見たつもりでも、パンチラを見た喜び程度に摩り替わっているのです。元の記憶は、すぐに無くなってしまうのです」
記憶をいじられるなんて、なんか、キモい。
「俺は見れなかったけど、もし、見てたら俺の記憶も、そうなったのか?」
「兄様は違うのです。兄様は妹巫女の兄様なのです。神様の天罰は当たらないのです。見たとしたら、その記憶は消えないのです」
巫女の身内と言う認識になっている。巫女の身内には、神様の天罰は及ばないらしい。
典高は気付いた。
「それで、俺が見ないように、頭をつかんだんだな!」
姫肌は慌てる。
「特にそうではないのです! でも、兄様はよその子の裸を見てはならないのです!」
横を向き、口が尖っていた。
「素直に、そうなのです、と言っておけばいいのに、嫉妬心丸出しに見えるぞ!」
「妹は兄に嫉妬するものなのです!」
開き直って膨れっ面をする。
「きょうだいに嫉妬なんて、違うだろ!」
「そうなのです!」
これが、街で起きた一番のエピソードだった!
実は邪気が男に取り憑いたこともあった。でも、典高は思い出したくもない。
ただ、女性が襲われずに済んだ。それだけはよかった、と思うだけである。
取り憑かれた男がどうなったのか……、典高は思い出したくないが、興味がある人もいるかも知れないから、一応記しておく。
……取り憑かれた男は、自ら全裸となり女性たちを追い回したのだ。
犠牲者が出る前に駆けつけた警察官たちによって、男は全裸のまま電柱に縛られてしまった。嬉しいことに、男にも不自然な光が差し込んだ。なので、大事な、いや、見たくない箇所は隠され、典高は胸をなでおろしたのだった。
警察官が電柱に人を縛るなんてことは、通常はない。この街は特別らしい。
もし、公衆の面前に縛らずに、邪気に取り憑かれた男を警察などの留置場に入れてしまうと、正気に戻るまでに1日以上とか、長い時間がかかる。多くの人間が見る場所に晒すことが、一番の解決法らしい。
と言うのは、邪気は男のハズい気持ちは嫌いなのである。
だから、女性を脱がすことができないと邪気が気付けば、男に取り憑いていても嫌いな思いだけなので、男の肉体から自主的に出てしまうのだ。
その時は、1時間ほど経って正気に戻ったと、典高は
実を言うと、姫肌も典高も縛られた電柱を確認したのであるが、最後まで見届けなかったのである。姫肌は全裸男性の前で邪気を待つなんてできなかったし、典高も男の裸なんて見たくもなかった。
つまりは、その邪気を取り逃してしまったのである。とはいえ、その邪気は翌日に捕獲封印を完了している。
典高は姫肌に頼まれて、邪気の捕獲と封印を手伝っているのだが、やっている内容は、付き添いであり、せいぜい捕獲時の荷物持ちだった。捕獲や封印に直接、貢献していない。
典高は、その辺りが気になって聞いてみた。
「俺って、役に立っているのか?」
「役に立っているのです。なぜか兄様が近くにいると、邪気の発生確率が上がるようなのです。それに、邪気に気付かれないように知らん振りする時の相手役になっているのです」
言ってて嬉しくなったのか、姫肌は典高の腕にしがみつくくらいに身を寄せる。む、胸が、その弾力が心地いい。でも、鼻が危ない。出血の危険。
「ちょ、ちょっと! くっつき過ぎ!」
「これでいいのだ、なのです」
姫肌は何かの真似をした。
典高には何の真似か分からなかったが、まだ姫肌の胸が腕に当たっている。それなのに、姫肌からは安心感と親密さが伝わってきた。
典高はその思いを妹っぽく感じたし、役に立っていると言われて、自らの存在感を認識できて嬉しかった。
なので、出血の危険が遠のいていったのだった。
エピソードは他にもあった。
お風呂でドッキリ事件や、姫肌同床事件などである。特に邪気とは関係がなかったので、本作品から記述を割愛されてしまった。
「えーーーーーーーーーーっ! もったいない!」(典高)
ごめんなさい(作者)。
【2369文字】
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