第28話 第七章 ここでの日々(6/7)
邪気は姫肌の肉体から抜け出て、非難したJCに取り憑いてしまったのである。
通行人たちが寄ってくる。商店街なので人通りはそれなりにあった。男も女も集まってくる。
近くの店の店主、そのお客、商品を売り込みに来た営業マン、宅配便のドライバー、通行人だったサラリーマン、買い物目的の主婦、下校途中の中高生たちなどである。さらに、お散歩中のお年寄り夫婦まで集まった。
恥ずかしい思いをしないと、邪気はJCから出てこない。
大勢の他人に見られながら脱いだり、脱いだ姿を見られたり、そんな相当にハズい思いが必要なのだ。
だから、見てあげた方が邪気離脱の助けになる。そんな大義名分がこの街ではまかり通っていた。
男にとっては目に栄養を与えるチャンスである。
邪気に肉体を操られたJCは、大衆に囲まれた真ん中で脱ぎ始めてしまう。
中学生のスレンダーボディが、白昼の商店街に降臨しようとしていた。
「イヤーーーーーーーーーーッ! どうして勝手に手が動くの? どうして、脱いじゃうの? ねーっ! ミクちゃん! 助けて! ワタシどうなっちゃったの?」
脱ぎ脱ぎを進めながら、片割れの子、ミクちゃんに助けを求めた。
「恥ずかしい思いをしないと、終わらないの。我慢よ! ノッチ! ガンバッ!」
ミクちゃんが、2つの拳を胸の前で握って、力を分けるてあげる。でも、ノッチには何も伝わらない。
「こんな所で脱ぐなんて! ヤダーーーーーーッ! 見ないでーーーーーーっ!」
泣きながら脱ぐが、邪気が取り憑いている以上、周りの大人たちは何もできない。
商店街のみんなが見ないようにすれば、下着も脱いでしまうし、さらにハズい気持ちが足りないと、全裸のまま男を追いかけて、男の服を脱がそうとするという。
下着になったところで、済ますのがベストなのだ。
「兄様が見ているのです! 大勢集まったから、兄様くらい見なくても影響はないのです!」
典高が堂々と見ているのに姫肌が気付いたのだ。
「えーと、でも、ハズいと思わないと、それ以上脱いじゃうだろう?」
この街の一般的な見解を口にした。
「兄様はやっぱりスケベなのです!」
姫肌は、ご機嫌斜め。
「見た方が人助けって、言ってたじゃないか!」
「兄様1人見なくても、大丈夫なのです! 他に、いっぱいいるから大丈夫なのです!」
そう言って、姫肌は典高の頭を左右から両手で挟む。しっかりと挟んだまま、姫肌が典高の後ろへ、ぐるりと回った。典高は頭から順に無理やり回れ右を強いられる。
「イテテッ く、首がねじれる!」
姫肌は案外と力が強い! 典高はノッチとミクちゃんに背中を向けてしまった。
公然と見れるチャンスだったのにっ、と内心悔しがる典高だった。
「いーーーーやーーーーっ!」
「おおおーーーーーーーーーーっ!」
ノッチの叫びに、見物人たちが盛り上がっている! けど、典高は見れない。目玉だけを後ろへ向けようとするが、そんなことはできるはずもない。なんとも、悔しい!
スッ!
そう思った時、目の前から姫肌の姿が消えた!
典高が振り向くと、姫肌が両手で邪気を捕獲している。
ノッチは脱いだ服を抱えて、地面で丸くなるしかない。きれいなスベスベした背中がピンク色に染まって痛々しい。恥ずかしさに顔を覆って声を押しつぶして泣いている。
邪気を捕まえた姫肌は呪文を唱えた。
ポンッ!
邪気はソフトクリームになってしまった!
当然コーンに載っている。色は白、バニラ味だ。店先で買ったばかりのように、しっとりとして美味しそう。
バクッ! バリバリッ! ムシャムシャ!
いつも通りの早食い!
コーンが砕ける音を立てながら、姫肌は一気に食べた!
「くーーーーっ! おでこにくるのです! 邪気の捕獲は巫女代々の使命なのです。でも、ここだけは巫女の役得なのです」
額を押さえて痛みが通り過ぎるのを、こらえて待っている。邪気であっても冷たさも感じるようだ。言った通り、使命とはいえ、嬉しそうだった。
近くにある店の女性店員がシーツを持ってやって来た。マントのように、ノッチの身を隠す。
チラリと見えたノッチの顔は涙でぐしょぐしょ、大口を開けて、わんわん泣きながら、ミクちゃんと一緒に、その店の奥へと消えていった。
店はお客が出入りするから、公共の場所と言ってよく、邪気が出る。でも、店の奥は自宅のようなもので、邪気は出ないらしい。
人だかりもなくなり、いつも通りの商店街が帰ってきた。
そんな様子に典高は感心する。
「手際がいいな。店の人は慣れているのか? でも、あの子がかわいそうだったな」
典高にはノッチがいたたまれない。
「そうでもないのです。きっと、傷は浅いのです」
姫肌にはそう見えたのか? 典高は感覚のギャップを感じた。
「そうかなあ? 泣いて辛そうだったぞ!」
「恥ずかしいことになった事実は消えないのです。でも、気の持ちようで、傷は浅くなるのです」
「そうかも知れないけど、人それぞれだよ。心の傷は、残るんじゃないのかな」
「そんなことないのです。ほら、出てきたのです」
店から2人組みのJCが出てきた。ノッチとミクちゃんである。しっかりと制服を着ている。ノッチは、もう泣いてないし、なぜか、明るい表情。
ミクちゃんは心配している。
「ノッチ、大丈夫? 歩いて帰れそう?」
「もう! ミクちゃんったら! スカートがめくれたくらいで、大げさよ!」
ノッチは公道で脱いだはずなのに、笑顔さえ見て取れる。それに、違うこと言っている。
「スカート? そ、そうね。ちょっとパンツを見られただけだったわね」
ミクちゃんは『?マーク』を出しながらも、話を合わせていた。
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