第27話【肝回】第七章 ここでの日々(5/7)

 数日が過ぎた。


 邪気の捕獲と封印の日々が続き、典高にも邪気の捕獲実体が、少しずつ分かってくる。


 毎日のように邪気は湧いて出た。複数の日もあった。


 ただ、夕方とか、夜とか、早朝とか、暗い時間には邪気は出なかった。姫肌の言う通りだった。暗いとよく見ないから、女性のハズい思いも弱まってしまう。邪気は見られるというハズさに徹底していた。


 そして、なぜか授業中に、邪気が一番多く出現していた。その理由としては、姫肌が1つのことに集中しているからである。邪気だって、なるべく隙を狙っているようだ。


 邪気が出現すると、その都度授業は中断、クラスのみんなに緊張が走る。邪気は姫肌の服装について、形容した一般人に取り憑くことがあるのだ。初日の先生がいい例だが、姫肌が捕獲する前でも取り憑くことがあるのだ。


 女に取り憑くと服を脱ぎ出すし、男に取り憑くと女性を襲うらしい。しかし、典高はこれまで一度も男に取り憑いた例を見ていない。運がいいようだった。


 と、言うわけで、誰だって邪気に取り憑かれたくない。邪気が現れれば、注目し緊張するのは当たり前だった。



 この学校は姫肌以外は決められた制服を着用する決まりである。

 しかし、常に制服とは限らない。


 体育には体操服やジャージを着るし、家庭科の時にはエプロンをつけるし、化学実験の時には白衣を着た。


 姫肌の場合、白衣は何ともないが、エプロンはほとんど裸エプロンだった。出血者が格段に増えた。『下に何も着てないかも感』って、男にとっては、ビキニより刺激的なのだ。


 残念ながら、体育の授業は他の女の子と同じになった。姫肌も体操服を着たのだ。お陰で露出度は低下した。


 ホッとするやら、がっかりやらである。


 でも、邪気の気配を感じると校庭であろうと、体育館であろうと、姫肌は体操服を脱いだ。スポーツのゲーム中でも『邪気が来たのです』と言って、ゲームを中断させて脱いだ。


 姫肌にとっては邪気の捕獲が最優先なのである。ゲームの流れなんて関係なかった。


 姫肌が脱ぎ終われば、ゲームは再開する。他の生徒と同様に過ごして隙を見せないと、邪気は寄って来ないからだ。


 姫肌はゲームに夢中になっている振りをして、スケベづらで寄ってくる邪気を捕獲した。


 バレーボールのゲームをしていた時は、1人でビーチバレーのようだった。体育は男女分かれているが、どうしても、男子が注目するのだった。




 そんなスケベなシーンを見る日々が続くので、典高にはティッシュを携帯する習慣が備わった。



 姫肌と一緒にいると、学校の中はまだマシだと分かってきた。


 街に出ると、ストーカーのように付いてくるやつらがいる。

 見物人である。


 見るばかりのやつらが多いが、写メを撮るやつもいた。その場合、大体、使われたスマホやデジカメに入っていたデータの全てが、復旧できないほどに壊れた。姫肌に関係ないデータも壊れた。


 姫肌によるば、彼女の中にいる風神の天罰である。

 端から見れと、デジカメの持ち主による不注意にしか見えないのだが、次々と起こるから神がかり的だ。まあ、風神の天罰なんだから、その通りなんだろう。


 実は写真を撮影しようとする連中は遠距離射撃が多い。超望遠レンズで狙ってくるし、天体望遠鏡に直焦点で一眼レフを接続して狙うやつもいる。



 ――直焦点とは、天体望遠鏡の接眼レンズを外し、一眼レフカメラのレンズも外して、カメラと望遠鏡を直に接続して撮影する方法である。

 ただ、通常アダプターを介することが多い。カメラのファインダーを覗くと逆さまに見えるので、カメラの上下を反対にして取り付ける人もいる。データ的に反転すれば良いのだが、こだわるやつはこだわっている。



 そんな風に見つからないように撮影しても、望遠レンズの大小に関わらず、望遠レンズごとカメラ本体と保存メディアが壊れるようだ。近くで撮るよりも、被害が大きいみたいだ。


 姫肌や風神が気付く気付かないに関わりなく、自動的に天罰が落ちているように、典高には思えた。街という領域にいる以上、その天罰からは逃れられないのかも知れない。





 ある日の放課後、市庁舎内で姫肌が邪気を捕獲したことがあった。


 市庁舎の前を通った時に、捕獲していた邪気が姫肌の体から抜け出したのだ。

 姫肌は典高をつれて市庁舎の中へ堂々と入った。

 当然、姫肌はビキニ姿である。


 プルンプルンと胸を揺らして玄関を通過した。でも、姫肌を咎める者は1人もいなかった。


 市庁舎でさえもビキニがまかり通るのだ。街に認められているとは、こういうことなのだと、典高は実感した。


 邪気の気配をたぐって行くと、邪気が取り憑いた女性職員にたどり着いた。


 詳しい経緯は分からないが、路上でシュワンと、邪気が姫肌から出たので、おそらく、遠くから姫肌を見て、「姿」とか「服」とかに関する言葉を発したと思われる。


 と言うのは、この市庁舎は玄関から事務作業をするスペースまで1つの空間となっていて、さらに、道路に面してガラス窓が多く、市庁舎の内部からよく道路の道行く人が見えるのだ。姫肌が建物の前を通った時に、ビキニに気付く人がいても不思議ではない。


 人間に憑いている時には、姫肌といえども手が出せない。だが、案の定、あられもない下着姿になったら、次の餌を求めて小鬼姿の邪気がその女性職員から出てきた。


 姫肌が体を晒していたので、邪気は引き寄せられる。姫肌から捕獲に行く手間はなく、邪気がビキニに寄ってきたところで捕獲した。




 後日、この時の邪気捕獲が感謝され、市長から直接感謝状をもらったのである。


 市庁舎内へ入ると、その時の女性職員が案内してくれた。ハズいながらも感謝していた。


 ただ、この時の彼女は、ビキニの女の子を案内するが仕事だった。堅苦しい市庁舎の中を一緒に歩くのだ。いったい、どんな気持ちだったろうか?


 そして、市庁舎の中でも特に立派に造られた特別会議室に姫肌と典高は通された。


 イスもテーブルも中にはなく、広い会議室内のスペースに背広姿の市長と、大勢の幹部職員たちが待っていた。


 その中を通って、市長の前にビキニの姫肌が案内されたのだ。

 場違いもはなはだしい!


 芸能人の水泳大会でも見れないシチュエーションである。


 パチパチ パチパチ ……


 背広姿のおじさん幹部職員たちから拍手が沸き立つ! 典高はたじろいでしまいそうだが、姫肌は堂々と立っていた。


 人命救助者を表彰するかのようなピシッとした雰囲気の中、感謝状は市長からビキニの姫肌に授与された。


 きっと、他に類を見ない光景だろう。


 その後、応接室にて市長との歓談もあったのだ。姫肌は苦笑い。真面目な顔の市長も結構スケベと知れたのだった。





 別の日、出会いがしらの事故のようなこともあった。

 姫肌を知らない人間が、予期せぬままに出会ってしまったのだ。


 時は放課後、場所は商店街、邪気を1匹捕獲した帰り道だった。


「キャーーーーーーッ! 変態! 変態がいるわ! なんなのよ! この人! 恥ずかしい! どうかしているわ!」


 2人組みのJC(女子中学生)だった。


 商店街の十字路で、予期せずに鉢合わせしてしまったのだ。そのうちの1人が、大声をもって姫肌の姿を非難してしまった。


 姫肌の存在を知らなければ、こうなってもおかしくない。

「言ったらダメよ!」

 2人組みの片割れは知っているようだ。


 でも、遅い!


 邪気は姫肌の肉体から抜け出て、非難したJCに取り憑いてしまったのである。


【2976文字】

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