第26話 第七章 ここでの日々(4/7)

 主婦たちは姫肌ではなく、パジャマの母親を見てる! 母親が典高の妹と思っているようだ。


「ち、違う! 違いますよ! こっちは妹じゃないんです! 母親なんです!」

 典高は大鳥居の下まで来ると、両手を振って否定した。


「まっ! 小学生(JS)を母親ですって!」

 あきれた目が横一列に並んだ!


「俺の母さんは、小さくても大人なんです! 妹はあの大きい方です!」

 主婦たちは一瞬顔を見合わせ、また、冷めた視線を送る。


「神社の娘さんに、お兄さんはいませんわ」

「そうですわ。神社の娘さんと同じように妹さんにも水着を着せて、見比べたのですわ」


「そうね」

「きっと、そうですわ」

 ムフフフッ

 主婦たち4人、顔をつき合わせて、いやらしく笑っている。


「ひ、ひで! そんなことしてないよ!」

「そうなのです! そんなことはなかったのです!」

 姫肌も加わってくれた。


「嫌ですわ、ムキになってますわ」

 そこへ、典高の母親がズイズイと進み出た。


「皆の者! 心配には及ばんのだ! 本当にママは大人なのだ!」

「妹さんも、パジャマで歩いてかわいいけど、そろそろ小学校が始まりますわよ! 急ぎなさいな!」

 主婦たちは聞いてない。


「ママは小学生(JS)ではないのだ! 大人なのだ!」


「早く、パジャマから着替えて小学校へ行きなさいね!」

 主婦たちは聞かないまま、そそくさと行ってしまった!


「フン! こんなの慣れているのだ! パジャマだったから免許証がなかったのだ。いつもなら、二種まで取った運転免許証を、見せびらかしてやるところなのだ!」


 それでも、悔しいのか、母親は涙目になっている。

「母さん、大丈夫?」


 典高は母親の頭を撫でてやる。

「ママは大人なのだ! 大丈夫なのだ! 2人はとっとと登校するが良いのだ!」


 パジャマにスニーカーを履いた足が、大地に踏ん張っている! 母親は負けてなんかない。少々心配した典高だったが、母親の言うことを聞くことにした。


「なら、行って来ます、母さん!」

「お母様、行って参ります、なのです!」


「車に気をつけるのだ!」

 母親は親らしく典高たちを見送った。でも、子供パジャマであった。





 典高と姫肌は、大鳥居と母親を後に学校を目指す。


 大鳥居のすぐ前には、神社を1周する外周道路が表参道と直行しており、2人はその道を横切って商店街に入った。


 商店街と言っても境内の表参道を延長した直線道路である。


 元々の表参道は長く、街道だった国道まで2キロほど真っ直ぐに続いており、よくある門前町の形態だった。


 現在では、その途中に電車の駅ができて、神社から外周道路までを表参道、外周道路から駅までを北口商店街、、または略して商店街、駅から国道までを南口商店街、と呼んでいる。


 だが、道幅は同じではない。片側3車線の道幅が外周道路を境にして狭くなっている。


 両商店街は、大型車両がやっとすれ違いができるサイズなのだ。そのため、一方通行なのであるが、日中から深夜にかけての大部分が、歩行者専用となっている。顧客本位だった。


 典高たちの高校へは商店街を駅に向かうが、その途中で右に曲がり、乗用車が通れない橋を渡ってしばらく道なりに行った所だった。この道順は母親の地図より簡単だった。




 2人で登校したので、一緒に神社から登校したのは、すぐに知れ渡った。と言うより、姫肌が率先してしゃべっていた。いや、言いふらしていた。


 男子と一緒の家なんて、みんなの目が気にならないのだろうか? そう思った典高だったが、普段からビキニを注目され過ぎて、典高と同じ家なんて、姫肌にとっては小さいことだった。典高は小さく納得したという。



 姫肌の存在、特にビキニの存在は、典高にとっては大きい。みんな制服なのに、1人だけビキニなのである。


 そのギャップがメッチャ、エロかった。


 1日に何度も鼻血を出してしまった。

「兄様! 兄が妹を見て鼻血なんて、みっともないのです!」

「るせっ! 免疫がないんだよ!」


 この街出身の男子も耐え切れずに鼻血を吹いていた。女子でさえも流血となることもあった。

 日常の校内にビキニ姿なのだ。女子でも興奮してしまうこともあるのだろう。


 人間とは、こうも出血しやすい生き物だったのか。と認識を改める典高だった。


 その典高が気付いたことが1つあった。

 室東蘭先生のことだ。


 昨日、オレンジ色の縞々ビキニを披露したというのに、スケベそうな男子たちの話題にも上がらない。


 典高にはインパクトが強い出来事であったが、ここの連中にとっては、何の変哲もない日常の出来事だったのかも知れない。


 そうではない! 明日は我が身、みんなでさっぱり忘れた方が幸せなのだ、と思っているようだ。典高はそんな結論を得た。


 まあ、典高の高校生活は、こんな感じでスタートしたのだった。


【1904文字】

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