第25話 第七章 ここでの日々(3/7)
「は、恥ずかしいのです!」
モジモジ
「何が恥ずかしいのだ! それは普段着と聞いているのだ!」
「この格好を、兄様に見られるのが恥ずかしいのです」
モジモジ
驚いたのは典高だった。
「えっ! どうして? それは昨日と同じじゃん!」
全く同じビキニではないと思いつつ、露出度は変わらなかった。
「昨日、兄様にビキニ姿を見られたのは学校なのです。学校は境内の外なのです。巫女的にはビキニエリアなのです。代わって、ここは境内の中なのです。境内は衣服エリアなのです。ビキニ姿を見られると、……は、恥ずかしいのです……」
モジモジ
「場所で、ハズいのに違いが出るの?」
素直な典高の問いに、姫肌がキッと見る。
「普通そうなのです! 他の人なら、夏のビーチでビキニは恥ずかしくないのです。でも、ビキニでスーパーマーケットに入ったら、きっと恥ずかしいのです」
典高は想像する。
――きれいなお姉さん! アイドル歌手のようにきれいなお姉さんが、きわどいビキニ姿のまま、買い物に行くはめになったら、相当ハズいだろう。いやいや、見てる方だって、ヤバいほどにハズい!
典高は小さく納得した。
「妹石さんにとって、境内の内と外は、夏のビーチとスーパーマーケットくらいのギャップがあるのか」
「そうなのです! 朝起きたら、そのことに気付いて気が気でなかったのです。昨日までは1人だったのです。今日からは兄様が一緒なのです。見られてると思うと恥ずかしくてたまらないのです」
赤い頬に両手をやった。それなら答えは簡単と典高は思った。
「なら、俺が先に出るよ。別々に登校しよう」
キッとした目を典高へ向けた!
「ダメなのです! 一緒に住んでる兄と妹は一緒に登校するのです!」
信念を持った力強い声!
そこへ、ヌッと母親が顔を出す。
「ふんっ! なのだ! 昨日はあんなに否定したくせに、一夜明けたら妹と言って、素直にあの男の子供と認めたのだ! たわいもないのだ!」
母親は姫肌に勝ち誇る。
昨日の姫肌は、父親の実子ではないという言い方だった。でも、今、典高を兄様と呼んだので、父親の実子であると認めたと、母親は思ったのだ。
姫肌も慌てている。
「そういう意味ではないのです。うーん、でも、時間がないからそれでいいのです。お母様も鳥居まで一緒なのです!」
ギュッ グイッ!
姫肌は母親の手をつかんで引いた! 意外と強引のようだ。
「ママは、パジャマのままなのだ! こんな姿で、外に出れないのだ!」
「大人はパジャマ姿で外を歩いても平気なのです。そんなの普通なのです。大人なら、ちっとも、恥ずかしくないのです」
事実とはとても思えない。しかし、母親は幸せな朝日を浴びたようになる。
「お、大人なのだ! 典ちゃん! 大人と言われたのだ! ママは大人なのだ! 恐れ入ったか! なのだ!」
ビシッと、典高を指差した!
どうやら、大人扱いが嬉しいようだ。内容なんて二の次みたいだ。
「母さん! 指は差さないの! 分かった、恐れ入ったよ。それで、母さんはどうすんの?」
「姫ちゃんの頼みなのだ。ママは鳥居まで、お見送りなのだ」
姫肌をお前呼ばわりしてたのに、姫ちゃんへ格上げになった。姫肌は母親の扱い方を知っているみたいだ。
考えている時間はなさそうだった。とにかく、朝は忙しい。
「なら、母さんも一緒でいいよ。時間がもったいないから、もう行くよ。行って来ます」
典高は奥にいるであろう父親に、一応声をかけた。
「行って参ります、なのです」
姫肌の声も続いた。
「いってらっしゃいぃ」
奥から父親の声がした。玄関での色々が聞こえていたようだった。
3人で外に出る。典高が先頭、姫肌と母親が後に続いた。
姫肌の指示で表参道を行く。昨日の帰り道とは違った。
真っ直ぐな石畳の表参道、幅は広いけど両側から森が覆いかぶさるように繁り、溢れる鳥の声も心地いい、まるで朝から森林浴をしているかのようだ。典高でさえ気分が冴えてくる。
こんなすがすがしい朝を、姫肌はビキニで歩いているのだ。典高は先頭だから見てないが、想像の中で場違い感を味わっていた。確かにスゲー光景だろう。
「ねー、その妹石さんが着ている色って、やっぱり、あれなの?」
色の由来は、なんとなく気付いていたが、典高は確かめたかった。
「兄様は見てはならないのです!」
姫肌の焦った声! 実に妹が恥らうような反応だ! でも、典高の脳裏には玄関先で見た恥ずかしそうな仕草が鮮明に残っている。とても振り向けなかった。
「だから、見てないだろう!」
「分かったのです! 水着といっても巫女の衣装なのです。上は白小袖の白、下は
「やっぱ、巫女の配色か」
思った通りだった。典高は小さく納得した。
母親が心細い声を出す。
「なあ、姫ちゃん、典ちゃんの後ろを歩くんなら、見られないのだ。ママと一緒でなくても、よかったのだ」
母親はパジャマ姿が恥ずかしい。
「兄様がいつ振り向くか分からないのです。昨日、兄様はスケベと知れたのです」
「いきなり、何言い出すんだよ! 俺はスケベじゃねーよ!」
勢いが余った!
典高は振り返ってしまう!
姫肌は胸をフルルンと揺らすと、体を縮め、しゃがみながら、さっと、子供パジャマの後ろに隠れた。母親を視線の盾に使ったのである。
「やっぱり、見たのです! 兄様はスケベなのですっ! 恥ずかしいのですーーーーっ!」
恥らう姿、晒されてる柔肌、僅かに隠れた大きな胸。そして、さえぎる盾は小さい。姫肌の体は程よく、母親の体から、はみ出していた。実にいい演出だ。
か、かわいい!
でも、見ちゃいけなかった。
「ご、ごめん」
典高は前を向き直して、かわいいところが見れた喜びを噛み締める。あれが正常な反応なのだ。ただ、見てしまった罪悪感はあった。
「ママは典ちゃんが順調に育ってくれてうれしいのだ! 順調にスケベなのだ!」
自慢げに、典高の罪悪感に追い討ちをかけた。
「そんなコメント、こっちがハズいじゃん!」
「ママは嬉しいのだ」
満足な声だ。
「兄様はスケベなのです!」
姫肌がもつ印象は固まっていた。
そんなことをやっているうちに、神社の入口にある手を洗う場所、
大鳥居まで10メートルもない。
「もうすぐ大鳥居なのです! 境内の外なのです!」
姫肌がダッシュ!
1人で走り出す! 一気に鳥居を抜けた。
「あたしが一番なのです! あたしの勝ちなのです!」
こちらを向いて、手を振りながら飛び跳ねている。胸がバウンバウンと弾む。
どういう訳か、恥じらう気配がなくなっている。
「勝ちとか、競走じゃねーだろう? それに、もうハズくないのかよ!」
バウンバウンの余韻が残っている。典高は直視できない! 横を向く。
「外に出れば兄様のスケベな視線は気にならないのです」
境内の外はビキニエリアと言っていた。だが、典高はその発現の一部を否定したい。
「だから、俺はスケベじゃねーって!」
「昨日は、妹の水着姿を見て鼻血を出したのです! とってもスケベで、いけないことなのです!」
姫肌の大きな声、ハズくないのか? でも、距離があるから仕方なかった。
その声に反応した人たちが鳥居の外、表参道と直行する道路を割った先にいた。朝から井戸端会議をしていた主婦らしい4人の女性たちである。
ヒソヒソ
「……妹……水着……鼻血……スケベ……いけない……」
「あんなに小さい子で鼻血ですって……いやねぇ……」
距離があってヒソヒソなのに、危ない部分だけ聞こえてくる!
主婦たちは姫肌ではなく、パジャマの母親を見てる! 母親が典高の妹と思っているようだ。
【3031文字】
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