第24話 第七章 ここでの日々(2/7)

「何で母さんが、俺の好みを知ってんの!」


 グイッ!

 母親の両肩をつかんでしまうくらいに、典高は焦っていた。


「ママとは息子に敏感なものなのだ。自然と分かるのものなのだ! うんうん」

 1人でうなずき納得している。


 典高の見立てによれば、本はセーフのようだ。


「それになのだ! この家は呉越同舟なのだ! 味方は集めておくに限るのだ!」


 ポンッ

 小さな胸を軽く叩いた。


 そう言うことか、と典高は小さく納得した。

 母親は父親と喧嘩はできても、まだ1人で向き合えないんだ。


「分かったよ。一緒の部屋でいいよ。でも、カーテンは取り付けるからね」

「そんなもん、いらないのだ! ママは典ちゃんの裸は見慣れているのだ。典ちゃんはママの胸に興味がないのだ。だから、お互い見せ合いっこしても問題ないのだ」

 エヘヘッと、屈託のない笑顔を見せる。


「問題あるよ! 見せ合いっこって、いったい、何を見せ合うんだよ! とにかく、カーテンは必須だからね!」

 男子高校生としては譲れない。


「なら、狭く仕切るカーテンにするのだ。着替えの時だけ閉めて、交互に使うのだ。それなら見せ合いっこにならないのだ」


「ハズいから、見せ合いっこからは離れてよ! それにプライバシーが保てないだろう」


「ママは息子との間に壁を作りたくないのだ! プライバシーより、親子の壁が問題なのだ!」

 泣く寸前、メソメソな顔だ。


「壁じゃなくてプライバシーだよ! 母さんだって、人に見られたくないことって、あるだろう! ……うーん、そうだな、化粧の時とか!」


 母親の目が潤む。

「典ちゃんは知っているはずのだ! ママは化粧をしないのだ! ママが化粧をすると、みんなが笑うのだ!」


 プハハッ!

 思わず典高は吹き出した!


 母親の外観はJS(女子小学生)くらいなのだ。化粧をすれば、背伸びをしたJSにしか見えないのである。


「笑ったな! 笑ったから、もうカーテンなんていらないのだ!」

 まずい! 母親のペースにもっていかれる。




 トントン トン!


 ふすまにノック音。お互いに意識が廊下へ向いた。社務所のためか、廊下と部屋は鍵のないふすまで仕切られてるだけだ。


「朝食ですよぉ。典高君はぁ、そろそろ用意しないとぉ、遅刻ですよぉ」

 父親だった。典高が遅かったから呼びに来たのだ。


「はい、すぐ行きます」

 時間を教えてもらった典高は、ありがたいくらいに素直に答えたが、母親はそういう訳にはいかなかった。


「お前は部屋に入ってはならんのだ! ふすまも開けてはならんのだ!」

 警戒心が丸出しだった。


「わ、分かってますってぇ、典高君ぅ、急いでねぇ」

 トクトクトク

 歩いて行ったようだ。


 典高は積み上がった段ボール箱の陰に隠れて制服に着替える。後日、カーテンは典高の希望通り取り付けられた。




 着替えた典高は、昨日夕食を食べたキッチンへ行った。母親も一緒に来たがパジャマのままだった。


 キッチンでは、私服を着た姫肌が1人で4人用のテーブルについていた。



 ――妹石姫肌、母親と離婚した父親の娘であり、典高のクラスメイトである。でも、父親の実子かどうかは、70パーセントの確率だった。



 典高とその母親、そして離婚した父親とその娘が、昨日から同居なのだ。


「おはよう」

 典高は今朝一番の顔を姫肌に見せた。


「おはよう、なのです。お母様」

 姫肌は典高などは二の次、まずは、母親だった。


「お前の母親ではないが、おはようと、言っておくのだ!」

 ぶっきらぼうに見えるが、母親はJK(女子高校生)に慣れていない。照れくさいようだった。


 朝の陽が差し込んだ明るい食卓には、洋式の朝食が爽やかに並んでいる。神社であるというのに、日本的な朝食にはこだわってないみたいだった。


 典高が母親の隣に座ると、正面が姫肌になった。

 典高たちを呼んだ父親はというと、キッチンには姿がない。母親に気を使っているのか、もしくは、母親の癇癪を恐れているのかな? 典高はそう思った。


 正面に座っている姫肌は普通の洋服姿だ。でも、昨日とは違う服だった。洋服なのに、なぜか恥ずかしそうにしている。


「「いただきます」」

 典高と母親が食べ始める。


 姫肌は典高をチラッと見るが、すぐに視線を逸らす。

 昨日のように兄様と呼びもしない。けれど典高を気にしている。そんな感じだ。


 どうしたんだろうと、典高こそ気になる。聞きたいところだが、ハズいのなら、聞かない方がいいと思った。

 典高も同い年の女子に慣れていないのである。


 3人もいるのに沈黙の時間が過ぎる。典高は我慢できなかったので、姫肌に服装とは別のことを聞く。


「この朝食は妹石さんが作ったの?」

 味は標準以上と思っていた。


「少しは手伝ったのです。けど、ほとんどお父様が作っているのです」

 当てが外れたくらいに、姫肌に愛想がない。変わらずハズいようだ。


「結構美味しいよ。そう言ってといてよ」

「兄様のお父様なのです。自分で言うといいのです!」

 機嫌が悪いみたいにも見える。


「そ、そうか、そうするよ」

 姫肌の態度にちょっとムッとした典高だったが、姫肌の言う通りである。一緒に暮らすのだから、避けるような態度はよくない。そう思い直した。




 結局、3人もいて、そのくらいしか会話ができなかった。母親も姿が見えない父親に意識が向き、会話に加わる余裕がなかったようだった。


「ごちそうさま、なのです」

 姫肌は早々に食べて、キッチンを出て行った。


「ごちそうさま!」

 典高も食べ切った。まだ食べてる母親を置いて部屋に戻り、カバンを持って玄関に向かった。


 着替えるの、はや! 姫肌が玄関のドアの前で待っていた。


 ビキニだ!


 ビキニのトップは輝く白! ボトムは古風な朱色!


 相変わらずのダイナマイトボディであり、通学用のショルダーバッグの紐が左右の胸を分けている。朝からサービス満点だ。



 典高が気づいたかどうかは分からないが、姫肌のビキニは昨日と同じに見えるが、実は違う。女の子だから、毎日替えているのだ。でも、色も型も決められたように同じだった。


 だが、姫肌自身は昨日のように堂々としていない。朝食の様子を延長したかのようにモジモジとして、両手で体を隠すようにしていた。


 土間に下りているので、スニーカーと白い靴下を履いている。


 そこが、またエロい! 超エロい!


 典高は鼻の奥がむず痒くなる。このビキニに靴下には慣れるんだ、しかも、家には父親と母親がいる、我慢するのだ、と思いを強く持つ。


 なんとか、鼻からの出血を抑えた。


 一方、姫肌は気合を入れ、覚悟に満ちた顔になる。


「一緒に登校するのです!」

 何かに立ち向かう決意を表したかのようだ。


 恥ずかしそうにしてたのに、と思いつつ、ビキニを克服したい典高は、そんなことは露ほどにも出さないで、目的地が同じだから、という理由をつけた。


「ああ、いいよ。同じ学校だし、一緒に行こう」


 ト トトトッ

「典ちゃん! 行ってらっしゃいなのだ!」

 食べ終わったのか、母親が見送りに来た。


「母さん、行ってきます」

 靴を履いた典高が玄関を出ようとした。


「あの! なのです!」

 姫肌がモジモジしながら呼び止めた。


「どうしたの? トイレなら行って来ていいよ。待ってるから」

 姫は顔を赤くする。


「ち、違うのです! お母様にお願いがあるのです! 大鳥居まで、ご一緒して欲しいのです……」


 思いがこもったまなこは、典高ではなく、その母親に向いていた。


「ママはお前のお母様ではないのだ! ……でも、典ちゃんと同い年だから、理由くらいは聞いてやるのだ。なぜ一緒がいいのか言ってみるのだ」

 母親は姫肌の神妙な目に負けたようだ。


「は、恥ずかしいのです!」


 モジモジ


「何が恥ずかしいのだ! それは普段着と聞いているのだ!」


「この格好を、兄様に見られるのが恥ずかしいのです」


 モジモジ


 驚いたのは典高だった。


【3091文字】

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