第七章 ここでの日々
第23話 第七章 ここでの日々(1/7)
第七章 ここでの日々
朝、典高が目を覚ますと、見慣れた子供の顔が目の前にあった。
なんとも、幸せそうな寝顔!
典高もその幸せに、あやかってしまいそうだ。……が、気が付く。
「わっ! 母さん!」
典高は飛び起きた!
典高は転居した、と思い出した。
この童顔・童体の母親と一緒に引っ越したのだ。ここはどこかと問われれば、死んだと言われていた父親の家である。でも、本当は父親の再婚相手が他界して残した家だった。
パジャマ姿の母親が、眠い顔をして、ゆっくりと体を起こす。
「朝から大声を出すものではないのだ」
「どうして母さんが、俺の布団にいるの!」
母親と一緒に寝たなんて、小学校よりも前の話だ!
「自分の布団を出すのが面倒だったのだ。それに、段ボール箱ばっかで、狭かったのだあーーーー、ファーーーー……」
最後は目を擦りながらアクビ。なんとも、リラックスした寝起きだ。
母親は1日早く、ここに到着していたはずだった。
「昨日もここに泊まったでしょ! 昨日は布団で寝なかったの?」
サッ! タンッ!
母親はムッとした顔で立ち上がった!
勢いがあった。今になって、目が覚めたのか? いや、そうではない。それ以上だ!
「昨日は腹が立って! 腹が立って! 眠れなかったのだ!」
ダンッ! ダンッ!
足で敷布団を踏み鳴らし、目を吊り上げて、悔しそうに下を見ている。
いきなり怒るなんて、典高には何が何やら分からない。
「何に腹が立ったの?」
「あの男の家、しかも、浮気現場の、再婚現場にいると思うと、腹が立って! 腹が立って! 眠ってなどいられなかったのだ! 昨日は、気が付いたら朝だったのだ!」
典高は思い出す。
両親が結婚間もない頃、父親がこの神社に滞在していた時に浮気したと言っていた。もちろん、本人は否定している。しかし、離婚後、その浮気相手と再婚して、ここに住んでいるのだ。
よく考えると、母親は自分の人生を狂わせた現場に、住むことになったということだ。
夫婦仲を壊した元凶の家と言っていい。
典高は女子と付き合ったこともないので、夫婦のことなんて、まるで想像ができなかったが、悔しい気持ちは母親を見て明らかだった。
「そういう気持ちも分かるけど……、昨日は寝なかったの?」
朝のためか、母親の癇癪は続かないようで、怒りは収まって眠たそうな顔に戻っていた。
「お昼寝をしたのだ。リビングで、だれていたら寝入ってしまったのだ。絨毯の痕がほっぺについたのだ……」
主婦の昼寝か? いや、子供のお昼寝みたいだ。母親は続ける。
「でも、リビングで目が覚めた時はビックリだったのだ。知らないうちに自分で毛布をかけていたのだ」
きっとそれは、父親がかけたのだろうと典高は思った。また怒るかも知れないので、言うのはやめた。
「今夜は、ちゃんと自分の部屋で寝てよ」
注意を促すだけにした。
「ここがママの部屋なのだ」
母親は何の憂いもなく言ってのけた。
「えっ? だって俺の荷物がここにあったよ。ノートPCや布団もここにあったんだよ」
「2人で1部屋なのだ」
あっけらかんである。
「えーーーーーーっ! 男子高校生とその母親が同じ部屋? いやだよ! これまでだって別々だったじゃん!」
社務所のような広い家なのに、居住環境が後退するのだろうか?
そんな典高を、母親は掌を見せて制し、得意げな顔で胸を張る。
「これまでは古アパートで、四畳半と三畳の部屋だったのだ。でも、この部屋は八畳もあるのだ! 2部屋合わせても、こっちの方が広いのだ!」
うれしそうに両手を広げた。
「面積の問題じゃないよ! 母親と高校生の息子が同じ部屋なんだよ!」
「ママと一緒が嫌、と言っているのか?」
理解できないのか、首が僅かに斜めである。
典高は改めて向き直る。
「そうだよ! 俺は高校生になったんだよ!」
「ママは大人っぽく見ないから、平気なはずなのだ」
今さら、子供っぽい姿を強調する? 典高はもっと真剣に考えてもらいたい。
「そういう話じゃなくて!」
母親に詰め寄った。母親はワザと分かっていない顔をして、大変なことを言い出す。
「典ちゃんは胸の大きな女の子が好きなのだ。着やせする大きめな胸が好きなのだ。よって、ママは対象外だから、大丈夫なのだ」
ヒッ!
慌てたのは典高だ!
詰め寄った体が、後ろへのけぞってしまった!
気付かれないように、心当たりを探る。ご
――分かると思うが、ご満悦本とは、Hな本のことである。
もしかして、もしかして! 典高は不安に転げそう。
「何で母さんが、俺の好みを知ってんの!」
グイッ!
母親の両肩をつかんでしまうくらいに、焦っていた。
【1887文字】
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