第22話 第六章 邪気封印(2/2)

 夕方の神社、姫肌は雷神石に邪気を封印し、一仕事終えてすっきりしていた。改まって典高に体を向ける。


「最後になってしまったのですが、お社に案内するのです」

 神社の案内は、まだ続いてたようだ。



 姫肌は表参道を斜めっぽく白鳥居に向かう。

 雷神石は広い表参道の右端、白鳥居は奥の中央である。最短距離で歩こうとすると、斜めっぽくなるのだ。


 斜めに歩いていると、鳥居の口を通して、社が少しずつ見てくるのだが、典高には大鳥居を従える大きさに思えなかった。


 そして、白鳥居をくぐり抜けた。


 社の全貌があらわになる。社は木々に囲まれ神社らしくあるのだが、2階建て住宅よりも少し大きいくらいだ。大鳥居ほどのインパクトはなかった。


 しかも、なんと、鉄筋コンクリート造りである。神社らしい古めかしいイメージなんて微塵も感じなかった。


 しかし、屋根が急斜面となって正面へ張り出し、近づこうとする人間を威圧するかのようだ。神社の威厳は残していた。


 屋根は神社らしいのであるが、その軒下は一般的な神社らしく見えなかった。


 神社の社なら高床式で、正面に階段がありそうなものだが、そこに階段は1段もなく、僅かにスロープ状に高くなっているものの、正面の入口は地面とほぼ同じ高さにあった。


 入口の広さは、少なくとも10人の大人が余裕で横一列に立てるほどもあるのだが、扉が全開になっている。


 いわゆる開けっぴろげなのだ。


 中央に鈴の紐が垂れ下がり、賽銭箱がポツンと置いてあるものの、誰でも簡単に社の中へ入れる構造だった。

 来る者を拒まない開放的な現代風の神社に見えた。




 姫肌は賽銭箱をスルーして、とっとと社の中へ入ろうとする。

「妹石さん、土足でいいの? って、言うか、拝まないの?」


 振り向いた姫肌は営業スマイルっぽい。

「土足で入って中で拝むのです。お払いに来た人には土足の方が便利なのです。神社としても靴箱を省略できるのです。なので拝殿を建て替えた時に、オール土間にしたのです」

 やはり、現代のスタイルだった。



 姫肌に続いて典高も社の中へ入った。


 少々薄暗いが、奥には大きな窓があって日没前の光が入っていた。土間の広さは教室の3分の1くらいだろうか、思ったより広く奥行きもあった。


 奥にある窓の手前、見上げる位置に祭壇があり、2段になっている。そして、その祭壇の前側に賽銭箱がもう1つ、ちゃんと置いてあった。


 パチッ!

 姫肌が内部の電灯をオンにした。祭壇に載っているものがはっきりと見え、典高の目に輝きを放っている。



 祭壇の上段には、直径50センチくらいの、くすんだ銀色の鏡が、白木の枠付きで載っており、下段には大きな刀……いや、刀じゃない、つるぎである。諸刃の大剣が載っていた。


 大剣の長さは人の背よりも少し短いくらい、幅は広げた掌よりもずっと太い。ゲームの中で大男が使うようなやつだ。


 そんな大剣が抜き身のまま、刀掛けに載せてあった。


 鏡はともかく、大剣は神社としては合わないが、ゲームだから現代風に見え、鉄筋コンクリートに合っていると典高は思った。


 大剣のいわれを姫肌に聞いたが、知らないらしい。

 が、言い伝えを聞いた。


 大剣は一般的には宝剣と呼ばれ、神職と巫女以外の人物がその宝剣を持って社を出ると、その一味諸とも気絶するらしい。だから、開けっ放しでも盗まれないと言うのだ。


 典高は迷信っぽいと思ったが、別に宝剣を持ち出そうとか、思うこともなかったので、それ以上考えなかった。



 鏡と宝剣の説明が終わり、続いて拝礼となった。


 姫肌は巫女であるので、賽銭箱の前で深々と、腰を90度も曲げてから拝んだ。

 よく知られた二礼二拍一礼である。

 典高も隣で真似て拝んだ。


 2人とも、賽銭を出さなった。


 ガチャガチャ


 姫肌は賽銭を入れないどころか、賽銭箱の引き出しを開けようとしている。


「賽銭泥棒かよ?」

「何を言っているのです! ここはうちの神社なのです! お賽銭の回収なのです! いつもは父様の仕事なのですが、どうせ口喧嘩は続いているのです。今日は特別に、あたしが代わるのです!」


 ジャラジャラ

 どこから用意したのか、姫肌は布袋を持っており、その中に賽銭を入れていた。外にあるもう1つの賽銭箱も同様だった。


「感謝なのです」

 賽銭箱の上に置いた布袋を拝んだ。


 邪気を封印して、用が済んだはずの姫肌が社まで来たのは、1日の賽銭を回収するためだったようだ。





 すでに、一番星を見つけらるくらいに暗くなっていた。電灯を消して、社務所のような家に戻ることにした。



 帰り道、姫肌が典高に邪気捕獲の手伝いを頼んできた。


 典高は邪気は見えるが、触れることはできないと断ったが、一緒にいるだけでいい、1人では心細いと懇願したので、かわいそうに思って手伝うことを承知した。




 社務所の家に戻ると、両親の口喧嘩は続いていた。

 疲れ知らずの元気な両親であったが、そのままでは埒が明かないので、何とか口喧嘩を止めて、4人で夕食をとった。




 その後、典高は1人になって、自室として指定された部屋に入った。


 部屋の中には、梱包された机・イス・本棚・タンスなどがあり、それらに収納されるべき荷物や、その他の荷物が入った段ボール箱が、何個も無造作に積まれていた。


 眠る場所もない。


 今日は初日で色々あったので、片付ける気が起きなかった。単純に積み直すだけにして、布団を敷けるスペースを確保した。


 ドスンッ!

 典高がその布団スペースの真ん中に座った。


 ドスンッと座ったのは、典高には半端ない違和感が残っていたからだった。


 その違和感とは、雷神石の所で『磁石が磁石の上に浮く』ようなことを、姫肌が言っていた件だった。



 典高は小さい頃、幼稚園くらいの時にやった、磁石遊びを思い出していた。

 遊びに使ったのは、ホワイトボードに紙を貼るための、カラフルなプラスチックがついた磁石だったが、そのプラスチックが外れて、むき出しになった平たく丸い磁石だった。


 典高はテーブルにその磁石を置き、その上にもう1つ同じ磁石を載せようと試みたことがあった。


 どんなにそっと置いても、磁石は空中で半転して、下の磁石にピタリとくっついてしまう。反転防止の工夫がない限り、磁石を浮かすのは無理と、結論付けたことを思い出したのだ。



 それが半端ない違和感の原因だった。

 今日見た雷神石は、永久磁石なのに単独で浮いていた!


 どうして、磁石なのに反転しないのか? 1人で考えていても、答えは出ない。


 引越し荷物の中からノートPCを掘り出して、データ通信端末をUSB接続しネット検索を試みた。



 ――ここで言うデータ通信端末とは、携帯電話の回線を解して、ネット接続する端末を差している。取り付け工事等は不要なので、引っ越したばかりでも、携帯電話が使えるエリアであればすぐに使えるのだ。データ転送のスピードは遅いが、動画をダウンロードしない検索なら十分足りた。



 調べていくと、磁石ではなく反磁性体である生き物(カエル)が、強い磁石の上に浮くという記事を見つけた。でも、磁石が単体で浮くという記事は、見つけられなかった。


 結局分からなかったが、最後に『マイスナー効果』に行き当たった。


 ガイドもなしに超伝導体という黒っぽい欠片かけらのような物を、磁石の上に浮かせる実験だった。


 その欠片はどこにも、何にも、全く触れることなく単体で浮いていた。


 しかしながら条件があった。

 その実験では液体窒素で作る低温環境が必要だった。なんと、その温度はマイナス196℃だ。


 低温も低温、超低温もいいところだ。

 この実験は、ここまで低温でないとできないようだった。


 ただ、磁石は下側であり、超伝導体を浮かす実験だった。磁石が浮くわけではなかった。


 結局、結論は出ず、典高の半端ない違和感は解消しなかった。


 典高は気持ちが淀んだまま、引越し用の布団袋から布団を引っ張り出し、布団スペースに敷くと、そのまま眠ってしまった。


【3159文字】

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