第六章 邪気封印

第21話 第六章 邪気封印(1/2)




   第六章 邪気封印


 姫肌は捕獲した邪気を、神社の表参道にある雷神石に封印すると言う。


 典高は学校で見た邪気を思い出す。頭に角を2本生やし、フンドシ姿をした30センチくらいの黒っぽい小鬼だった。その邪気を封印すると言うのだ。



「今日は邪気を2体も捕獲したのです。2体とも封印するのです」


 1体は教室で捕獲した。もう1体は学校から帰る時に言っていた気配のことだろうか?


「やっぱ、帰りに、もう1体捕まえたの?」

「はい、なのです。無事に路上で捕獲できたのです」

 姫肌の喜びを感じつつ、典高は捕獲の様子を思い浮かべた。学校と同じだろうか?


 捕獲方法は、まあ、いいとして、問題はビキニである。あの姿で下校して、街中を歩いたのだろうか? 恐る恐る聞いた。


「肌の露出度が高くないと、邪気は寄ってこないのです。街の人はみんな知っているから、ビキニで道を歩いても、誰もびっくりしないのです」


 姫肌は平然と答えた。先生も街で認められた服装って言っていた。




――典高は想像する。

 ごく一般的な住宅地である。


 人通りが少ない公道を、あの白と朱色のビキニが、白昼堂々と悩ましいボディを見せつけながら歩いている。脚線美の下に残る靴と靴下が、さらにエロさを際立たせているじゃないか!


 通学バッグも忘れてはいけない。太い肩掛け紐が胸を左右に分けて、タップンとした巨乳の柔らかさを強調している。


 そんなビキニが、お年寄りや子供や主婦などの通行人たちと、挨拶をしながらすれ違ったりする。


 でも、誰も、その姿について何も指摘したりしない。


 邪気に取り憑かれたらたまらない。学校で見たように、みんな普通の服を着ているかのように振舞っている。


 ただ、小さい子供は言うかも知れない。

「ママ、どうして、あのお姉ちゃんは裸なの?」


 ニッコリと母親が答える。

「それはね、教えちゃいけない決まりなのよ」


 …………。


 納得がいかない子供の顔――ー。




 なんと、異常な世界なのだろうか!


 きっと、この街はティッシュ配りが繁盛していることだろう。そう思った時、典高はハッと気付いた。



 普通にビキニが街を歩くだけの想像じゃあ生ぬるい!


「あのまま街を歩いたら、ストーカーやエロオヤジ共が、集まってくるじゃないか!」


 そっちの方が現実的であり、心配な点である。


 姫肌には何のうれいもない。

「この街の人たちは、あたしの姿を形容するだけで、邪気が取り憑くことをちゃんと知っているのです。Hな人たちも知っているのです。だから、ジロジロ見るくらいで、何も言わないのです」


 そんなんで済むはずがない!

「ストーカーはいないの? 眺めながら、後をついてくる人たちだよ!」


「いた、みたいなのですが、神様が追っ払ってしまうのです。一度追っ払われると二度と近づかなくなるのです。巫女は神様に守られているのです」


 ここでも神様だった。

「その神様はストーカーも追っ払ってくれるのか? でも、有名になったら、街の外からも人がいっぱい押し寄せてくるよ!」


 全国、いや、全世界から人が集まるはずだ。


「心配ないのです。この街を出たら、誰もがあたしのことを忘れてしまうのです。街の外には、あたしの姿は伝わらないのです。だから、普通に街を歩けるのです」

 いやに安心してる。


「でも、今はネット社会だよ。情報はネットで拡散するんだ」


「電気や電波も同じなのです。あたしのことを書いたり、写真を貼ってネットに流しても、街を出ると電気信号や光信号から情報が消えてしまうのです。これも神様の力なのです」


 信頼している姫肌であるが、典高はイマイチ信用できない顔だった。


「兄様、所詮、情報とは人の心や記憶によるものなのです。その結びつきを辿たどって消える天罰のような、呪いのようなものが、この街中にかかっているのです。雷神石が浮いても、回転しても、境内を出れば、それらを忘れるのと同じなのです」


 神様の天罰? 呪い? 似たものなのか? なんか、ゾクッときた。


「神の呪いなんて、恐ろしいな」

「呪いみたいなのですが、神様は天罰と思っているようなのです。でも、安心するのです。兄様はあたしの兄様だから天罰は当たらないのです」


 典高はすでに身内扱いのようだ。


 とにかく、ストーカーもいないし、ネットにビキニ姿が流れることもないらしい。典高は納得できなかったが、そういうことにして話を戻す。



「それで、邪気を封印ってどうやるの?」


 姫肌も話題が戻ってニコッとした。

「これから封印を実施するのです。兄様も見るのです」

 巫女らしい、神に仕えるおごそかな顔になった。


「巫女の格好とかに着替えなくていいの?」

 典高はビキニを期待しつつも、和装の巫女装束も見たいと思っている。


「普段着のままで構わないのです。簡単だから見ているのです。ムニュムニュ、パパッとできちゃうくらいなのです」


 ちょっと、がっかりの典高だったが、それなら、どんな風に邪気を封印するのかと、神聖と思われる儀式に期待した。


 姫肌は雷神石を向いて鎖の前に立ち、サッと両手をげた。


 おっさんたちがやっている、だらしない万歳などではない。耳たぶの後ろに両腕を通すくらいに、美を感じさせるくらいに、両手を真上に挙げている。


 そして、体操選手であるかのように、指先にまで意識を込めて、てのひらを重ね合わせた。


 できうる限り高く、できうる限り真っ直ぐに、合わせた指先で天を突く。


「ホラシイ、ワジタンリ……」


 そんな呪文みたいな言葉を唱えたと思ったら、挙げていた両手で円弧を描くように左右に大きく広げた。


 その腕を伸ばしたまま、スッと正面に回して、音を立てることもなく、再び両掌を合わせる。


 お相撲さんみたいだ。まあ、相撲も神事である。かけ離れてはいない。


 ギュウ

 知らないうちに、両手で何かを握っている?


 邪気だ!


 2本角を生やした小鬼、フンドシ一丁の邪気を握っている。

 指の隙間から逃れようともがいているが、邪気の声は聞こえない。ここでも無声映画のようだ。


「エイッ!」

 投げた!


 姫肌が片手に持ち替えて、邪気を雷神石へ向かって投げつけた。山なりの放物線を描いて邪気が飛んでいく。


 でも、見事な女投げであった。




 ――女投げとは、手が縮こまった小さな動作しか行なわない投球フォームのことだ。ボール投げに慣れていない女子に、よく見られる投げ方なので、その名がついている。もしかしたら、差別的な名称かも知れない。




 ヒューーーー  ウィーーーーーーーーーーンッ!

 ペチッ!

 お見事! 邪気は雷神石に命中!


 と言うより、途中から加速して、雷神石の横っ面にぶち当たった。


 姫肌の女投げは山なりである。とうてい雷神石まで届かない。だが、放物線の向きは途中から変化、雷神石に引かれる放物線に変わり命中したのだ。


 邪気は、錆びたくず鉄の横っ面に、うつ伏せになって、漫画っぽく両手両足を力なく広げた格好で貼り付いている。


 典高が投げた釘と同じく、隕石が惑星に落下したかのようだった。


 スーッ

 消えた!


 貼り付いてた邪気が消えてしまった!

「これで1体の封印が完了したのです。今日は、もう1体いるのです!」

 同じ儀式を経て、2体目の邪気も女投げにより雷神石へ封印された。


「これで邪気の封印は全部完了なのです」

 両手を挙げたり広げたりは、神聖な儀式っぽかったが、女投げが神らしさを帳消しにしていた。


 投げるなんて、巫女の儀式にしては荒っぽいと、典高は期待を裏切られた思いだった。


【2959文字】

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