第20話 第五章 風神石・雷神石(4/4)

「雷神石の下を掘っていい?」

 実物を見たい! 典高は気持ちを高ぶらせた。



「ダメなのです! 境内を勝手に掘ってはいけないのです」

 軽く睨まれた。


 発掘でもないのに、掘ったら確かにまずい。しゃーないと、典高は掘るのは諦めた。


 ただ、雷神石が浮くというのも不思議だが、裾野となっているくず鉄も、一緒になってに浮いていることにも不思議を感じていた。


 典高は、裾野の端っこについている釘を1つ、摘み上げた。雷神石に投げた釘と同じ位の長さだったが、その時と比べれば容易だった。


 そして、裾野の端から少し、10センチくらい離れた地面に置いた。


 スーー チン


 地面を滑るようにして、雷神石に吸い寄せられ、裾野の端にくっつき、その一部となった。


 地面を見ると、釘が動いた跡がない。地面には錆の粉が堆積しており、釘はその上をスーッと動いたのであるが、堆積している錆の粉には、その形跡が残っていないのだ。


「動く釘も浮いているんだ」


 さっきの釘と、もう1本別の釘を摘み上げて、近づけてみた。

 2本の釘はくっついた。


 釘は磁石化していた。雷神石から少し離れてても磁化するようだ。


 典高は気付いた。

「そうか! 釘が磁力を持っているから、地面をすらないんだ。磁力を除けば浮かないから、地面をするはずだ!」




 実は、典高には永久磁石の磁力を増減させる能力がある。釘の磁力くらなら消すことができた。


 小学生の時に、異形を見る能力と一緒に、身についた能力だった。


 磁力を増減させる方法は、媒介となる金属を磁石に接触させて念ずるだけである。媒介の金属はどんな金属でも構わなかった。磁石につかない金属でもよかった。




 典高はポケットから10円玉を取り出した。もう一本の釘でも良かったが、確実性を求めたので、慣れた10円玉を使かったのである。


 ほんの数秒、釘に10円玉を当てて磁力の消失を念じる。

 これで、釘から磁力をなくしたはずだが、確認したい。


 雷神石を取り囲む鎖へと向かい、投げた釘と同じように鎖に当てて確認、くっつかなかった。


 成功! 磁力のない普通の錆びた釘になっていた。


 典高は雷神石まで戻って、先ほどと同じ実験を試みる。釘が裾野に吸い寄せられる実験である。


 裾野の端から10センチくらい離れた地面に、その釘を置いた。


 ズ ズズズーーーーッ チン


 引きずった!


 地面に積もった錆の粉に、釘が吸い寄せられ移動した跡が残っていた。


 つまり、磁力を持たない釘は浮かないのだ。

「やっぱ、磁石だから、浮くんだ!」


 典高は、姫肌が言った『磁力で浮く』ということを確認した。実験し、自らの目で見て確認できたので、分かったには、分かった。でも、イマイチ、磁力で浮くと言うところが、しっくりしない。



 角度を変えて考えよう。

 磁力で浮く技術は実際にある。リニアモーターカーがその例だ。磁力で浮いて高速で走るのだ。しかし、それと同じように浮いていると考えていいのだろうか?


 何か、違和感が残る。


 しかし、それが何か分からない。これ以上考えても、答えが出そうもない。

 諦めた。典高は違和感について、今のところ考えるのをやめた。




 だが、石が浮いてるなんて、メッチャ珍しい。

 スンゲー観光スポットと思って姫肌に聞いたが、姫肌は典高から視線を外した。


「秘密なのです。雷神石が浮いているのは、秘密なのです」


 すまなそうな感じではなく、かといって、秘密を言って困った感じでもない。遠くを見る姫肌の目線は、神がかり的な感覚が漂っていた。


 典高は納得できない。秘密の理由を聞いた。


 姫肌は一息ついて答え始める。

「正確には秘密ではないのです。

 人間が気付かない高さで浮いているのです。今は、兄様が釘を取ったから動いて、浮いていると気付いたのです。普段は誰も触らないので、気付く人はいないのです」


 この答えで納得する人もいるかも知れない。だが、典高の大脳には違うと、響いた。


「それはないと思うよ。釘を取っただけでも動いたと考えるべきだよ。えーと……、なにか……、ほら……、うーーーーん、……風とか、そうだよ。風神石が鳴るような風が吹けば、雷神石も水平に回転するかも知れないじゃないか!」

 姫肌からは、カクッと肩の力が抜けた。


「兄様は思った以上に頭がいいのです」

「思った以上は余計だよ!」


「ゴメンなのです。でも、その通りなのです。強い風が吹くと雷神石は回るのです。気付く人も僅かながらいるのです。でも、境内を出る頃には忘れているのです」


 おかしなことを言い出した。

「どうして忘れちゃうの?」

「神様がそのように仕向けているのです」


 また、神様が出た! でも、ここは神社である。


「その神様って、神社の神様?」

「そうなのです。わたしの中にいる風神様なのです。風神様は、一般人は邪気に関わってはならないと、思っているのです。だから、その邪気を封印する雷神石にも関わってはならないと、おっしゃるのです」


 邪気を封印する雷神石?


「こ、この雷神石に、捕まえた邪気を封印するの?」


 姫肌は思った方向へ話題を誘導できたと思った。

「そうなのです。邪気の封印を兄様にも見てもらいたくて、神社へ誘ったのです」


 ヤバい! と、典高は気付いた。

 邪気が封印された雷神石の、すぐ隣に立っていたからである。邪気を恐れ、慌てて鎖の外側へ出たのだった。


【2121文字】


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る