第19話【肝回】第五章 風神石・雷神石(3/4)

 くっついているくず鉄を1つ取って、鎖の柵辺りから投げる実験を考えた。


 姫肌に聞くと。

「兄様なら、雷神石でいくら遊んでも構わないのです」


 放任主義だった。



 包丁は大きいし危ないので、典高は手ごろな釘を1本、指で摘んで引く。

「は、離れない!」


 強い磁力を実感する。釘に爪を掛けるようにして、むしり取った。


 ちょっと何か、違和感があった。雷神石が揺れた気がしたのである。でも、典高は深く考えず、釘を握り締めながら鎖の柵まで戻った。


 あらかじめ、釘の磁力をチェック。鎖につけてみた。


 チン

 ついた。釘は磁石になっている。鉄は長い時間磁石についていると、つられて磁力を帯びてくるのだ。


 磁石同士でも大きさがはるかに違うので、実験には問題ないと判断した。


 典高はボール投げのようなポーズをとって、その釘を雷神石まで届かない強さで投げた。


 スーッ パチンッ!


 投げられた釘は、途中から加速! まるで、隕石が惑星に落下したかのように、釘が雷神石に飛んで貼り付いた。


「スゲー! なんつー磁力! MRIクラスの強さじゃないのか?」




 ――MRI、聞いたことがある人も多いと思う。Magnetic Resonace Imagining の略で、磁気を利用して、人体内部を切断面のように、撮影する医療診断装置である。


 MRIで使う磁気は電気磁石に由来する。その電気磁石は大変強く、典高が実験したように、MRIに向かって投げられた釘は、刺さるほどの勢いで飛んでいくのだ。




 姫肌に言うと、レントゲンと同じと思っていたので、典高が教えてあげた。


 ただ、MRIは電気磁石である。それに匹敵する永久磁石があるとは、典高は知らなかった。


 そんな強い磁力を思いながら、典高が雷神石を見た。

「? ? あ、あれ? 何かが違うぞ! 初めて見た時と違う!」


 雷神石の雰囲気と言うか、微妙な形と言うか、何かが僅かに変わっていた。

 目を凝らして、もっと、よく見る。


 …………ハッ!

 包丁のついている場所が違う! 少し右へ移動してた。


 小さな釘でも、むしり取るのにも苦労した。大きな包丁が勝手に移動なんて、あるはずがない。


 目の錯覚だろうか?

 穴が開くほどに雷神石を見つめる典高。



 ……



「あーーーーっ! 分かった!

 石が、雷神石が、回転したんだ! 下側に鉛直な軸があって回ったんだ!」


 包丁だけじゃない! 見覚えのある全てのくず鉄が、一様に右方向へ移動していた。

 典高は興奮気味に雷神石へ駆け寄った!


「妹石さん、回転するか試していい?」

 典高の目は、初めて磁石の不思議を知った少年のように、キラキラと輝いていた。


「やっぱり、兄様なのです! さっき言った通りなのです。兄様なら、雷神石でいくら遊んでも構わないのです」


 典高は雷神石から突起のように飛び出たくず鉄に手をかけて、大きな地球儀でも回すように力を入れる。


 ス ス スイーーーーッ

「回った! けど、何だよ、これ!」


 軸を感じない。線じゃない、点を感じた。


 石の重心を中心として、ぶれながら回ったのだ。釘を取った時の違和感はこれだったと、典高は小さく納得した。


 でも、そんなの有り得ない。ゆらゆらと揺れながら回転したのに、地面を転がるようなとか、雷神石を引きずるようなとか、そんな感覚が全くないのである。


 石の中心から回るので、地面をズリズリと擦るはずなのだが、フラフラと浮いているようなのだ。


「浮いている!」

 バッ!


 典高は耳を地面つけ、横向きに寝そべった。


 でも、音じゃない。目を地面すれすれにして、地面と雷神石の間にできた隙間を確認しようとしたのだ。


 僅かに浮いている、ようだが、風神石に見た隙間のように、向こう側に明かり見えるほどではなかった。ちゃんと確認するには、地面を掘って目の高さを地面と同じにする必要があった。穴を掘るのは大変そうだから、今のところ諦めた。


 でも、浮いているのは間違い無さそうである。


「雷神石が浮いてるよ!」

 典高は血相を変えたように、姫肌に訴えた。


 でも、そんな典高に姫肌は満足な顔。

「さすが、兄様なのです。よく気が付いたのです。兄様が言うように、雷神石は浮いているのです」


 いともあっさりと、信じがたくて、有るはずがなくて、非常識な、とんでもないことを姫肌は肯定した。アンビリだ。


 典高は目を丸くする。

 雷神石は、風神石と比べたら小さいが、直径が1メートルくらいある岩なのだ。浮くなんて考えられない。


 典高は、雷神石を揺すってみる。

 ツルツルとボールが、その空間的位置を動かないまま、空回りするようだ。


 ただ、水平には回転するが、前後左右には、振り子のようにバランス的に収まる位置がありそうで、真下の場所は変わらないようだった。


 方位磁石が振れながら北を示すように、揺ら揺らと振れながら、同じ真下に収まった。



 典高は雷神石の裾野を思い出した。Ωのように、下側に広がった部分である。揺れたら影響があるに違いない。


 雷神石を揺らしてからすぐに、地面に耳を付け、再び地面すれすれから、裾野が動く様子を観察した。


 裾野も雷神石と一体となって揺ら揺らと動いている。動いた分、裾野の下面は反るのだが、自動的に元に戻っている。


 裾野を近くで見ると、くず鉄の集まりと分かった。裾野の端は、くず鉄が平面的に集まり、薄い板のようになっている。


 雷神石に直接付けなかったくず鉄が、下側から付こうとしているようだった。



 雷神石の揺れに伴う裾野の動きをもう少し観察する。雷神石が前後左右に揺れると、雷神石の真下に引き込まれそうになった裾野の下面が反るように変形する。なのだが、逆に押し出されて持ち上がると、くず鉄の重さで地面に落ちるのである。


 違う!


 正確に言えば地面のすぐ上に透明な薄い層があって、その上に落ちるのだ。


 そんな様子が、典高には薄気味悪くてたまらない。浮いているからと思うのだが、浮いている理由が分からないのである。


 典高は、降参して姫肌に原理を聞いた。


「詳しいことや、原理については、あたしも知らないのです。母様は『磁力』で浮いているのだろうと言っていたのです」

 困ったような声だった。


 典高は磁力で浮くと聞いて気付いた。

「すると、地面の下にも同じくらいの磁石が埋まってるの?」


「磁石か、どうかは分からないのです。でも、磁石の役を果たす何かが地中にあるのです。と、母様が言っていたのです」


「雷神石の下を掘っていい?」

 実物を見たい! 典高は気持ちを高ぶらせた。


【2568文字】

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