第五章 風神石・雷神石
第17話 第五章 風神石・雷神石(1/4)
第五章 風神石・雷神石
典高が下校して母親と住むはずの新居へ行くと、なんと、そこはクラスメイトの妹石姫肌が住む神社の社務所であった。
さらに驚くことに、そこには死んだと聞かされていた典高の父親も住んでいた。
その父親が浮気したために両親は離婚。父親はその浮気相手と再婚し、姫肌は浮気相手が産んだ娘と聞かされた。
父親は否定するも、姫肌は70パーセントの確率で、典高とは母違いの妹なのだ。
浮気相手が2年ほど前に他界したため、母親の上司の陰謀? により、典高は自身の母親と、姫肌と、死んだと聞いていた父親と、一緒に住むことになったのである。
そんな4人が、夕暮れ近いリビングで向き合っていた。離婚した夫婦が、素直に仲良くできるはずがない。
姫肌が父親の実子であるかどうかで、両親は口論、と言うか信念をぶつけ合っていた。
典高には手が出せない。
「兄様、明るいうちに神社を案内するのです!」
姫肌が何かに迫られるように切り出した。
元夫婦の喧嘩が続く部屋は落ち着かなかい。典高は気分転換で外に出るのもいいと思った。
両親に断ってから、姫肌と2人で社務所のような家の玄関を出た。
目の前には典高が歩いてきた砂利道が横たわっている。
「こっちなのです」
姫肌は学校と反対方向へ歩き始めた。典高は後に続いた。
2人になって、典高は聞きそびれていたことを2つ思い出した。
「ねー、妹石さん。今はその服装でいいの?」
1つ目は、似合っているのだが、ワンピースという今の服装だった。姫肌は常にビキニを着ていると典高は思い込んでいたのだ。
それに一般的には、服装は禁句だったが、姫肌はビキニを着てないし、典高は禁句を言っても大丈夫と言われていたので聞いてみたのである。
恥ずかしいのか、姫肌は振り向かずに答える。
「邪気は神社の境内には、めったに入って来ないのです。だから、おびき寄せる、あの服装は不要なのです」
神社では特別なようだ。
2つ目は、初めて見た時、ビキニと一緒にスルーしたことだった。
「4月なのにビキニで寒くないの?」
前を歩く姫肌は、余裕の笑みで振り返った。
「あたしの中にいる神様が、寒さからも守っているのです」
そういえば、体の中に神様いるとか言っていた。
「この神社の神様なの?」
「そうなのです。風神様なのです。皮膚の表面に薄い風の層を作って、寒さや暑さからあたしを守っているのです」
神様とは風神のことだった。美術鑑賞が好きな典高は、風神雷神図屏風を思い出した。
――風神雷神図屏風
俵屋宗達による江戸時代の傑作である。
画面全面に金箔を貼った上に、鬼のような角、枝が1本あるので見ようによっては、伸びきらない鹿のような角を生やし、人の形をした半裸の風神と雷神が雲に乗っている様を、右と左に描き分けた屏風である。
風神は細長い布の両端を左右に持ち、その布に正面からの風を受けるように、頭の上か後ろに翻し、雷神は幾つもの小さな太鼓をつないだ輪の中心にいて、鉄アレイのようなバチを両手に持ち、激しく打ち鳴らしてやろうかと力を込めたかのように描かれている。先に鬼と書いたが、その表情は怖くなんてなく、どちらかと言えば親しみやすい。
双方とも、ユーモラスすら感じるキャラクターとなっている。そのためか、オマージュ的な作品が数多くあるのだ。
典高も思い浮かべるままに、風神に親しみを感じた。そして、暑さ寒さを克服させる技を持っているらしい。風の層とかいいながら、風より空気の神様みたいに思えた。
そんな話をしたところで、歩いていた砂利道が途切れた。
広い石畳の広場に出たのである。
石畳は、靴が滑らない程度に磨かれた長方形の白い石材を、僅かな隙間をもって整然と数多く敷きつめられており、きれいな水平面を出していた。
それに、砂利道がぶつかる場所にはないが、石畳の外側には、白い玉砂利が1メートルくらいの幅で敷かれている。
さらに、石畳のずっと先に、砂利道の続きが見える。なので、典高は道の途中に何か神社の行事を行なう広場があるのだと思った。
「これが、表参道なのです。ここは参道の合流地点で、十字路なのです」
「十字路? これが、道? 表参道?」
広場ではなかった。石畳が道であり、ここが十字路なら、典高が見ているのは道幅である。
道幅と思えば、片側2車線、いや、片側3車線の国道くらいに広い。石畳の外側にある玉砂利なんて、歩道みたいなオマケにしか見えない。
半端なく広い表参道である。
まるで格が違う。それまで歩いてきた砂利道なんて、クソみたいに思えた。
道幅に驚いた典高であったが、表参道であるのなら道として、左右に伸びているはずである。その先を見たいと思うのは、至極当然のことだろう。
まず、典高は右側を見る。
ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
へへ?
典高は声にならない。
巨大な鳥居が建っていたのである。
200メートル以上離れた先に、銀色にピカピカと光っていた。
姫肌は誇りを持った声を鳥居に添える。
「あれが大鳥居なのです。表参道の入口なのです。ちなみに、歩いてきたのが西参道で、正面に小さく見える道が東参道なのです」
姫肌の言葉が耳から入らないくらいに、典高は目をむいた。
お、大きい! 半端なく大きい!
だって、このバカ広い表参道を楽々とまたいでいるのだ。
高さも、そこらの電柱なんて目じゃない。隣に高校があったなら、その4階建ての校舎を遥かに見下ろすほどに高い。2倍くらいはありそうだ。
鳥居の柱にしても樹齢何100年というような大木以上に太い。ただ銀色なので、木製ではなく金属製なのは明らかだった。
立派と讃える以上に、過剰なまでに、そびえ立つ大鳥居だった。
「あ、あの鳥居、お、大き過ぎるんじゃねーの?」
ようやく出た典高の声は、畏れるほどに震えていた。
「そんなことないのです。この街のランドマーク的な存在なのです。だから、大きくていいのです。でも、大鳥居は入口に過ぎないのです。兄様は反対側を見るのです! お
社! あの大鳥居を従える社とは、どれほどのものなのか?
期待を持って典高が振り向いた。表参道は50メートルくらいで尽きており、尽きた真ん中に、白い石でできた一般的な大きさの鳥居があった。
期待ほどではなかった。
だが、また鳥居である。この神社には何本もあるみたいだ。
その白鳥居は大鳥居を見た後だと、孫か
その白い石材の表面は磨かれておらず、削り跡を感じさせないままに、荒々しい素肌を晒している。
白鳥居の両側には常緑の木々が生い茂り、その荒々しい白を渋く際立たせ、見る者に歴史を見せつけていた。
広い表参道は、その白鳥居と木々たちによって堰きとめられている。ただ、中央部のみが白鳥居の下をくぐることを許されていた。
どうやら、大鳥居を造ったから、それにともなって表参道の幅を拡張したようだ。
白鳥居をくぐった奥を見ると、建物の一部が見える。それが、姫肌の言う社だろう。
姫肌は大鳥居に背を向けて、白鳥居に向かって歩き出す。表参道は広いので、それまで歩いてきた西参道側、左側に寄って歩いた。
そして、十字路から半分くらい白鳥居に近づいた所で、姫肌の足が止まる。
「兄様、左右を見るのです。この2つの石が、風神石と雷神石なのです」
典高が広い表参道の左右を交互に見ると、添え物みたいな玉砂利のさらに外側に、それぞれ色も大きさも違う石が1つずつある。
【3025文字】
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