第16話 第四章 新居は神社(6/6)

 姫肌が巫女なのだから、その父親が宮司となるのはもっともである。でも、宮司との協力が母親にとって、どう難題なのだろうか?



「母さんと父さんが、一緒に仕事するのが無理難題なの?」


「この男は霊感がさっぱりなのだ! 全く頼りないのだ! 役立たずなのだ! だから、典ちゃんに頼ろうとしたのだ」


 母親が言ったのはバイトの件である。

 仕事のパートナーである宮司に霊感がない。それで、バイトの話が来たみたいだ。典高は小さく納得した。


「俺にバイトって、霊感がない父さんの代わりなの?」

「そうなのだ! 検査の結果がよかったら、典ちゃんにはバリバリと仕事を手伝ってもらうのだ! ママは、頼りない男には頼らないのだ!」


「ぼ、僕は宮司の仕事をぉ、そつなくこなしますけどぉ、照乃さんの言うようなぁ、霊感はないからぁ、役に立てないってわけでぇ……」


 父親は、自分から『そつなく』とか、自慢げに言った割には、霊感がないとしょげた顔だった。


 典高のバイトは身体検査の結果次第と言った母親の顔には、絶対にいい結果であるとの確信に満ちた喜びが載っていた。


 典高にとっても入学式と引き換えにしたバイトだった。良い結果を望みたかった。


 それに、小遣いになる。こっちが本音だった。


 父親のお陰で舞い込んだバイトであるためか、典高は、その内容に興味が湧いてきた。


「母さん! それでバイトって、どんなことするの?」

「秘密なのだ!」

 腕を組んでキッパリ!


 ガクッときたのは典高である。

「俺にバイトをさせようって言うのに、秘密なの? おかしいじゃん!」


「部分的に手伝わせるだけだから、全体を知る必要はないのだ。ママの職場には秘密の仕事もあるのだ」

 幼いけど、社会人の顔だ。


「えーと、母さんがいる職場の名前って『超常現象対応センター』だったっけ?」

 うろ覚えだった。


「違うのだ! 対策なのだ。『超常現象対策センター』という名称なのだ。最近、文科省から分かれて独立行政法人になったのだ。親方日の丸なのだ! だから、民間には任せられない秘密の仕事も多いのだ!」

 腰に手を当て、ふんぞり返る。その仕事には誇りがあるらしい。


「うん、まあ、秘密ってこともあるのか。父さんも同じ職場なの?」

 典高は、父親が宮司と兼業していると思った。実際、兼業している宮司は存在する。


「この男は離婚した時に、文科省をクビになったのだ!」

 グェッとベロを出し、喉に手を当てて、首切りのポーズ。小バカにしてる。


「クビじゃないですよぉ。照乃さんが怒ってばかりだからぁ、僕から依願退職したんですぅ」

 情けない声を出している。


「異動願いも出さずに退職して、すぐに、ここに来て再婚なのだ! その行動だけでも、浮気を認めてるようなものなのだ!」

 母親に睨みつけられた父親は、身をすぼめるしかないって感じ。


 なんか、スゴイ事実が出た!

「ねぇ、父さんは、離婚してすぐに妹石さんのお母さんと再婚したの?」


 もし、そうなら、典高も呆れてしまうと思った。

「だってぇ、実家にはもう戻れないしぃ、どこにも就職できなくてぇ、行く所がなくなっちゃったんですよぉ。そしたらぁ、ここで引き取ってもらるってぇ、言われたんですぅ」


 自分を引き取ってもらうなんて、どういう感覚なのだろうか? 典高には理解できなかった。


「それにですねぇ、実の父親じゃないですけどぉ、姫肌さんにはぁ、父親が必要と思ったんですぅ」

 姫肌のことも考えていたようだ。


 な~んだ、優しいんだ。と、浮気した父親を少し認めた典高であった。


 しかし、母親は父親の額を人差し指1本でグイグイと突き押していた。

「自ら父親を志願するなど、実の父親のやることなのだ!」


 グイグイ


「実の父親ならぁ、志願する必要なんてぇ、ないじゃないですかぁ」

 押されていた父親も、背骨に力を入れて押し返している。


「うるさいのだ! 浮気して、その子供が生まれたのだ! 70パーセントなのだ!」


 グイグイ ググーーイ!

 指で押す力が強まる!


「30パーセントの方ですってぇ」

 父親も首を据え直して、もっと押し返す。


「70パーセントなのだ! 数字が物語っているのだ!」


 グイグイ ググググググググ……

 母親も指1本で、もっともっと、押し返す!


 指と額で押し比べになっていた。

 実の父親かどうかに関しては堂々巡りだ。共通の結論は見つけられそうにない。




 押し合いをしている元夫婦を見ながら、典高は考える。


 死んだはずの父親が生きていただけでも驚きなのに、いきなり同居となってしまった。


 でも、父親は優しそうだし、バカがつくほど正直だし、嫌な感じはなかった。父親に関しては、何とかやっていけると感じていた。


 問題があるとしたら、姫肌と思った。70パーセントの確率で、母違いの妹であるらしい。姫肌はそれを知っていてベタベタと寄って来たように思えた。


 会ったこともない兄との同居なら、逆に敬遠するところだろうと考えてみたが、姫肌は何か兄に幻想を抱いているようにも思える。


 今朝の様子から、絶対にそうだという確信が典高にはあった。もし、そうなら少し怖いが、現実を見れば姫肌も目が覚めるだろうと思った。それを待つしかないと諦めた。


 ただ、気になるのは、姫肌が捕獲していた邪気である。


 母違いではあるものの、姫肌は同居の妹となる。そうであれば、なにかしらサポートしてあげたい気持ちも典高にはあった。


 加えて、母親のバイトもある。典高は検査結果に自信を持った母親の顔を思い出す。こっちもやらないとならないだろう。


 疲れる日々が始まる予感が、典高の首元をかすめていった。


【2229文字】

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