第15話 第四章 新居は神社(5/6)
「僕の子供じゃないんですよぉ」
ドンッ!
母親の小さい足が、床を1つ踏み鳴らした。
「ウソなのだ! DNA鑑定までしているのだ! 70パーセントの確率で父子関係があるって結果だったのだ!」
母親は、両方の拳に力を入れていた!
父親は食い下がる。
「だからぁ、偶然そんな数字になっただけですってぇ、真実は30パーセントの方なんですよぉ」
正座のまま、泣きそうな目をして、怒る母親にすがろうとする。
「偶然ではないのだ! 70と30なら、はるかに70の方が高いのだ!」
「だからぁ、30の方が本当なんですよぉ」
「違うのだ! 70パーセントで親子なのだ!」
堂々巡りだ。
典高も70パーセントという数字は、微妙な気がすると思った。そうではあったが、当の子供が気になっていた。
「それで、70パーセントの子供って、どうなっちゃったの?」
「そこにいるだ!」
母親が指差す先。傍観している、にこやかな顔があった。
「へっ? 妹石さん? だから、俺を兄と言ってたの?」
始めっから、そういう流れだった。
「それは間違いなのです。ここにいるあたしのお父さんは、実のお父さんではないのです」
当事者らしくない、他人ごとのような語り口。
でも、父親には助け舟だった。
「ほらほらぁ、本人もそう言っているじゃぁ、ないですかぁ」
お墨付きをもらって喜んでいる。母親は興奮を抑えて毅然と返す。
「本人は誰が父親かなんて、生まれながらに知らないのだ。後になって誰かから聞いたことなのだ」
それも、そうだ。典高は小さく納得した。
だとしたら! 典高は姫肌の口ぶりが気になった。
「ならさ、妹石さんは、なぜ、実のお父さんじゃないって分かるの?」
「あたしを産んだ
姫肌はちょっと真剣な顔になった。
「ほらぁ~~! そうでしょうぅ、そうでしょうぅ」
父親はホクホクした気分を大きく広げた。
典高の母親は我慢ならない。
「その母親がウソをついているのだ! この子供が宿ったであろう期間に、この男がこの家に3ヶ月も滞在していたのだ! チャンスはいっぱいあったのだ!」
「そんなぁ、チャンスなんてぇ、1回も活かしてないですよぉ」
父親がポロリと本音を出したようだった。でも、母親には、そんなのは関係ない!
「なら、実の父親は誰なのだ! 3ヶ月も滞在していて、分らなとでも言うのか?」
「いやーーーーぁ、全然気付きませんでしたぁ」
とぼけた顔で、頭をかいている。
父親ってバカ正直だ!
と、典高は呆れた。ウソでもいいから、誰かと付き合っていたようだとか、よく男が出入りしていたとか、そんな風に言えば、と思ったところで……。
あっ、そうか!
と、一番手っ取り早いことがあると、気付いた。
「なら、改めて、妹石さんのお母さんに聞いてみたら? 今は家にいないの?」
シーーーーン
3人とも静かな顔、違う、少し困ってる?
「えっ? 何?」
典高は、まずったのか? と、少々慌てる。
見かねた姫肌が口を開いた。
「あたしの
姫肌は、悲しいと言うよりは、申し訳ないという顔だった。
「あ、ごめん、俺、知らなかったから……」
気まずいと思う典高だったが、姫肌はケロッとしている。もう困った感じもない。
「全然大丈夫なのです。母様は実の父様はいないと言っていたのです」
正直、大丈夫と言われて典高はホッとした。けど、父親がいない? おかしなことを言っている。
それを聞いて、一番に反応したは母親だった。
「父親がいないわけないのだ! 見るのだ! ここにいるのだ!」
ピシッと、指を差す! もちろん、その先には典高の父親。
「僕ですかぁ、実の父親じゃないですよぉ」
正座したまま両手をついて、母親を見上げてる。
「70パーセントが一番の証拠なのだ!」
「30パーセントに真実がぁ……」
典高は母親と父親の間に入った。
「分かった! 分かったって! そこはもういいよ! 保留! 後にしてよ! 今、俺が聞きたいのは、離婚したのに、どうして同居になったかってことだよ!」
典高は、そもそもの疑問に立ち返った。
「陰謀なのだ! それは上司の陰謀なのだ!」
話が元に戻った。
「どうして、母さんの上司が陰謀を企てるの?」
一番の疑問だ。
「そいつは、ママが入省してから今まで、ずっと上司なのだ! それで、その男の浮気相手が死んでから、ヨリを戻せと言い続けているのだ。結婚式にも来たから、メチャメチャ一生懸命に言ってくるのだ。そして、新しくできた今の部署で自分が一番偉くなったもんだから、もっと権力を振りかざすようになって、言うだけでは収まらず、転勤同居という暴挙に出たのだ!」
見上げる天井に怒りを向けてる。
でも、イマイチ典高には分からない。
上司が部下の私生活に踏み込み過ぎ、ということは分かるが、今になって、なぜ、そんなに踏み込んでくるのだろうか?
そこへ父親が補足する。
「僕が聞いたのはぁ、離婚以来ぃ、照乃さんの仕事の質が落ちたとぉ、いうことだそうですぅ。しっかりと仕事をしてもらうためにはぁ、伴侶が必要と考えているようですぅ」
どうやら、仕事の質が落ちたのは心の支えを失っているからと、その上司は思っているらしい。
典高も母親には弱い線を時々感じていたから、そうかも知れないと、小さく納得した。
しかし、母親にはそうではない。
「陰謀の、嫌がらせなのだ! あの上司はいつも難しい仕事を、ママにさせようとするのだ! 今回もそうなのだ。現地の宮司と協力して仕事しろなんて、無理難題もいいところなのだ!」
母親は正座してる父親の頭に、拳を当ててグリグリと押す。
姫肌が巫女なのだから、その父親が宮司となるのはもっともである。でも、宮司との協力が母親にとって、どう難題なのだろうか?
【2310文字】
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