第四章 新居は神社
第11話【肝回】第四章 新居は神社(1/6)
第四章 新居は神社
キンコンカンコ~ン カンコンキンコ~ン カ~ン カ~ン カ~~ン
終業のベルが鳴った。
朝の騒ぎは長かったが、英語(表現)、数Ⅰ、英語(コミュニケーション)、現国、地理、生物と、1日分の初授業を、典高はなんとか乗り切った。
騒ぎの中心人物、妹石姫肌は朝のままだった。放課後になった今も、ビキニ姿で教室にいる。途中で、制服に着替えるなんてことは、一度もなかった。
学校の制服が群れるただ中に、紅1点ならぬ、ビキニ1点なのだ。しかも巨乳の豊満ボディである。ガチであり得ない。
そんな典高の思いをよそに、姫肌は慣れているかのように、そのビキニ姿で普通にクラスメイトたちと接していた。
クラスメイトたちも普通に接しようと、努力していた。
というか、気をつけていた。
姫肌に服装・姿に関する言葉を言ったら、邪気に取り憑かれてしまうと心配しているからだ。
邪気に取り憑かれたら、女子は服を脱ぎ、男子は女子を襲う。
しかし、クラスメイトたちの心配は言動に留まっていなかった。過剰に膨らんでいた。
姫肌を無視しても邪気に取り憑かれるのではないか、普通に接しないと危ないのではないか、そんな必要以上に反応する風潮が生まれていることに、典高はこれまでの授業や休み時間から感じ取っていた。
そのため、ビキニの姫肌に対して、誰もが制服を着ているかのごとく扱うという、不条理な光景が実現していた。
とはいえ、姫肌の姿を意識して鼻血を出す者はいた。
だから、教室の四隅に箱ティッシュが置いてある。典高の他にも実際に使っている男子が数人いたが、邪気を心配しているからか、彼らをからかう者は1人もいなかった。
ビキニの姫肌を腫れ物扱いすることもなく、ティッシュを使った者も鼻水の処理と同じく扱われ、とにかく、ビキニがいる教室にもかかわらず至って普通だった。
異様なクラスに入ったものだ。これが典高の率直な感想である。
姫肌は、休み時間ごとに、典高にまとわりついてきた。
巨乳のビキニだから、目のやり場に困るし、男子特有の肉体的部分に血液が集中しないように我慢するのが、典高には
やっと、就業のベルが鳴り放課後となったのだ。これで姫肌から解放されると思ったが、典高には不安はあった。
「兄様! なのです」
案の定、姫肌の声が後ろから聞こえた。
終業のベルが鳴ったから、一緒に帰ろうとか言うんだろう? と、不安が的中したと思った典高は、青空を見上げたい気持ちになった。
でも、まあ、開放はまだ早いのかと諦めて、振り向いた。
グッ ヤ、ヤバい!
姫肌は相変わらずのビキニであるのだが、ショルダーバッグをたすき掛けだった。
胸の谷間に肩紐が通っている。
学校指定の通学用バッグは紐が太めなので、柔らかい2つの山が左右に分かれて苦しそうだ。
エロい! ビキニにバッグってこんなにエロいモノなのか? このままでは、他のクラスメイトが、ティッシュの箱を持ってくる事態となりそうだ。
典高は古寺を思い浮かべて、平常心を取り戻そうとする。姫肌は巫女と言っているので神社は控えた。もし、思い浮かべたら、神社の前にビキニが立っているシーンが、生まれてしまいそうだ。だから古寺なのだ。
ゴーンと鐘の音、線香の香り、苔むした庭園、静かに座る仏像、心も静まっていく。
ひとまず治まった。
改まって姫肌を見ると、顔がちょっと困っていた。はて?
「どうかしたの?」
「邪気の気配がするのです」
キシンッ!
教室内が一時停止! 空気が
帰り支度やら、仮入部の部活へ行く準備やらをする、クラスメイトたち全員が、動きをピタリと止めた! 誰だって邪気には関わりたくない。多くの視線が、さりげなく姫肌に集中する!
典高はそんな空気を察して、みんなの代わりに聞いてみる。
「妹石さん、また、邪気が近くに来たの?」
「違うのです。遠くで気配がするのです。気になるから行ってみたいのです。だから、帰りは兄様とご一緒できないのです」
姫肌は残念そうに目を落としてる。やっぱり途中まで一緒に帰る気でいたようだ。
ざわざわ
凍りついていた空気は一瞬にして融けた。クラスメイトたちはホッとして、一時停止が解除された。平時の空気に戻ったのだった。
典高も安心して、姫肌の背中を押してやる。
「俺は、別に気にしてないよ。行ってきていいよ」
「よかったのです。なら、ごめんなさいなのです。先に行くのです。さよなら、なのです」
姫肌は、小遣いをもらった子供のように嬉しそうに微笑むと、チョコンと頭を下げた。
「ああ、さよなら」
典高の声を聞くや、足早に教室から出て行った。
姫肌を見送った典高も帰ろうとするが、1つ懸念があった。
帰るべき新居へ
新居が決まった後も、一度も見に行ったことがなかった。
今朝は旧居から学校へ直行したのだ。
布団などは先に新居へ送っていたので、今朝は寝袋で眼を覚ました。寝袋も含め残っていた物を箱に詰めしてコンビニから送ってから、通学バッグ1つを持って、始発の電車に乗り遠距離登校をやってのけたのだった。
なので、住所は知っていたが、新居は画像すら見たことがなかった。
新居の手がかりは、母親が描いた適当な地図だけ、歩いて学校に通える距離と言っていた。
典高は校門を出ると、地図が書いてある紙切れをポケットから取り出した。
実を言うと、典高はスマホや携帯を持っていない。
今時スマホは常識だろうに、典高の母親は古めかしい考えを持っているのか、所持を許してくれなかった。
どうやらスマホと聞くと、ゲームとエロサイトしか思い浮かばないらしく、知らない所で息子が、そのようないかがわしいものを扱っていると思うと、我慢ならないようだった。
その割には、古いノートPCを息子に与えている。もちろん、チャイルドロックがかかっているし、持ち出し禁止である。
母1人子1人のために旧居は狭く、目を光らせられると母親は思ったようだった。
家に母親がいない時間もある訳だから、スマホも一緒と、典高が力説したのであるが、そもそもスマホは外で使うものと、母親は聞き入れなかったのだ。
そんな今、スマホがあれば、地図とか見れて、ナビもできて、どんなに便利だろうか? そう思いながら、典高は母親からもらった地図を頼りに学校を後にした。
その地図は、分りやすいってほどではなかったが、迷いもしなかった。
だいたい20分くらい歩いて、地図上の8割ほど進み、新居への道が別れる丁字路まで来たところで、典高の足が思わず止まった。
いや、止まらざるを得なかった。
「こ、ここって、……」
木製の赤い鳥居が、新居への道をまたいで立っていたのである。
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