第10話 第三章 取り憑く邪気(4/4)

 クラス全員が廊下に出て、パスンッと扉が閉じられた。教室に先生だけが残った。

「先生、ゆっくり着てください」

 ねぎらうように、典高は小さくつぶやいた。



 そして、姫肌に聞きたかったことを思い出した。

「なあ、聞きそびれちゃってたけど、妹石さんって、マジで巫女なの?」


 これを聞いていた時に、邪気が現れてしまい、詳しく聞けないでいた。ビキニなのに巫女なんて、あまりにも連想できない。


「マジで巫女なのです。あたしは昼日ひるひ神社の巫女なのです。この街で一番大きな神社なのです」

 キッパリ! 巨乳の胸を張り、すがすがしいほどに答えた。


「その神社のバイトなの? 仕方なく、その仕事をやってるの?」



 正月などに神社でお守りとかを売っている巫女さんはアルバイトだから、学校でもアルバイトであり、その仕事着として巫女服ではなく、ビキニを強要されているのではないのか?

 典高はそんな疑問を持ったのだ。



「違うのです! 娘なのです。あたしは神社の娘なのです。ご先祖様から続く家業なのです。邪気の捕獲は巫女代々の使命なのです。子供の頃からだから慣れたものなのです。……あーっ、分かったのです! 兄様はあたしの服装を聞きたいのです!」


 姫肌は典高の疑問に気付いた。巫女本人は『服装』って言葉を使ってもいいみたいだけど、典高は『姿』という言葉は使えない。


「そ、そうだよ。どうして……なの?」

 やりにくい。典高はタップリとした巨乳を指差した。


「仕方ないから、教えてあげるのです。……」

 姫肌はまず、邪気の発生について語った。


 この街では白昼堂々と公共の場所に邪気が湧く。でも、個人宅とかには、湧かないし入らない。一般のギャラリーがいない所には邪気は沸かないらしい。女性のハズい思いが半減してしまうからだ。なので、ギャラリーが少ない夜も湧かないそうだ。


 姫肌は邪気の行動について続ける。

「湧いた邪気は肌を露出した女性が好きなのです。だから、一番肌を露出している女性を見つけては、もっと肌を晒すようにするのです」

 一番肌を露出している。そう、それがビキニにつながるのである。



「巫女が自分から囮になっているのか?」



「そうなのです」

 ビキニなのに明るく微笑む姫肌だった。


 学校でビキニなんてハズくないのだろうか?

 典高はそれも聞きたかった。でも、『姿』という言葉を言って取り憑かれた先生を見たばかりだ。聞けっこない。


 典高なら、その言葉を言っても大丈夫と姫肌は言ったが、その理由は兄だからだ。典高に兄弟はいない。信憑性に欠けている。


 それに、その言葉を廊下で言ったら、ここにいる連中が逃げ出すに決まっている。たった一言で騒ぎを起こし兼ねなかった。


 だから、ビキニのまま学校にいてハズくないのか? という、ごく当たり前の疑問なのだが、とても聞けないと思った。子供の頃から慣れたものと言っていたのだから、そう受け取っておこうと、典高は自らに折り合いをつけた。



 そして、今日見た現象を振り返った。


 邪気は、姫肌の晒された肌におびき寄されて、ボトムビキニの紐に手を伸ばした。しかし、先生の時は、取り憑いてから脱がそうとした。


 同じ脱がすでも違っている。


「じゃあ、どうして、先生は邪気が取り憑かれてから脱いだの?」

「邪気は自分を捕まえている人間を辱める言葉を聞くと、力が増すのです。それで、あたしの中から出てしまうのです。そして、辱める言葉を言った人間も、心の底では恥ずかしいと感じているのです。邪気はそれに付け込むのです。加えて力が強まっているので、人間に取り憑くことができるのです。取り憑いたら恥ずかしいことをさせるのです。そうやって、その人間の恥ずかしい気持ちを食らうのです。お腹いっぱいになって満足すると、人間から出てくるのです」


 先生の時は、ケーキにされた邪気を食べた後だったから、姫肌の中に邪気がいた。なら、いない時はどうなのだろうか?


「妹石さんの中に、邪気が捕まっていない時も、取り憑くの?」

「なぜか、そうなのです。邪気は巫女を特別に思っているようなのです。邪気が近くにいる時に、あたしの服装について言うと、言った恥ずかしさに反応して、その人に取り憑いてしまうのです。この街にいる邪気は見えない時もあるのです。近くにいるか分からないのです。

 だから誰も用心して、あたしの姿を形容することを避けるようになったのです。それで言葉そのものが禁句となっていったのです。今では『姿』とか、『服』とか、『ビキニ』とかに関する言葉も使わないみたいなのです」


 姫肌は一息ついた。

 典高も一息ついた。ビキニでハズくないのか? とか、聞かなくて正解だったと胸をなでおろしていた。


 典高は自分にとって大切なことを思い出した。


「と、言うことは、巫女について言わなくて、鼻血だけなら邪気は取り憑かないの?」

「そうなのです。言葉が引き金なのです。鼻血とか、Hに関わる反応だけでは、邪気は取り憑かないみたいなのです」


 Hに関わる反応とは、鼻血の他に何があるのか! と聞きたい典高だったが控えた。

 口は災いの素、邪気は言葉に反応して、人間に取り憑くらしいから、ボロが出る前に控えたのだ。


 そうやって、言葉が重要と、典高は認識した。

「言葉さえ、気を付ければいいのか」


「そうなのですが、言葉はただの引き金、きっかけに過ぎないのです! 言葉よりも心の方が重要なのです。あたしの姿が恥ずかしいとか、Hと思う人間の心に邪気は取り憑くようなのです。その証拠に、Hな気持ちが育っていない子供が、いくらあたしを形容する言葉を言っても、邪気は取り憑かないのです」



 子供はセーフだった。



 幼女のような小さな女の子に、邪気が取り憑いて脱ぎだしたら、マジでヤバいと典高は思った。倫理的には、最低限が守られているようで、そこは安心した。




 これで、まとまった。

 ①、邪気は肌を露出している女の肌を、もっと晒そうとする。

 ②、スケベな気持ちで姫肌の姿について言うと、邪気が取り憑いて、女は脱ぎだし、男は女を襲う。

 ③、子供には害がない。




 先生は②を踏まえて、教室へ入る前に『服装を見てもスルーしろ』と言ったのだ。

 あれ? っと、ここで典高が気付いた。姫肌は典高も大丈夫と言っていた。すると、子供と一緒ってことなのだろうか?


「俺も大丈夫とか言ってたじゃん。子供が大丈夫ってことになると、俺は子供と同じ扱いなのか? 何か、それも、邪気に見下されているようで不愉快だな」


 姫肌は、典高をバカにした顔。

「兄様は、ちゃんと聞いていたのですか? あたしが大丈夫と言ったのは、子供だからではないのです! 兄様だからと言ったのです!」


 そうだった。子供と聞いて忘れていた。子供だからという理由と、兄だからという理由は違いそうだ。でも、典高は兄ではない。


「俺は、お前の兄貴じゃないよ!」

 言葉で突き放した。



 サッ ピタッ!



 逆に姫肌は体をくっつけてきた! 典高の左腕にしがみついた。

「兄様は、兄様なのです」



 ムニュニュ~~



 や、柔らかい! ビキニの胸が当っていた。



「は、離れてよ!」

「兄様! 会えて、うれしいのです!」


 スリスリ


「肩に顔をこすり付けちゃダメだって!」

 頬っぺただって柔らかい! 女の子らしさが典高に押し寄せてくる!



 ヤバいよ!

 鼻! 鼻! 俺の鼻! コラッ! 鼻の奥にいるムズムズ! 騒ぐんじゃない!


【2933文字】

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