第9話【肝回】第三章 取り憑く邪気(3/4)

 ブラウスの裾から伸びる白い太腿が、ムチムチと輝きを放っている。ドキドキするほどにたまらない。でも残念ながら、下着はブラウスの中に隠れていた。



 ブラウスの布地は思いのほか軽いらしい。先生が動くたびに裾がヒラヒラと跳ね遊んでいる。


 見えそうで見えない。微妙なパフォーマンスが、誘っているかのように繰り返されていく。


 なんというチラリズム! これはこれで、かなりエロいと、典高の目は釘付けだ。



「いやーーーーーーっ! やめてっ! もう、脱ぎたくないのっ!」

 悩ましく叫ぶ先生! エロさに輪がかかる。


 先生の手は、ブラウスのボタンに苦戦していた。でも、しゃべる口は本人のままだ。

 脱ぎたくない本人と脱がせたい邪気が、ボタンを最前線にして、せめぎ合っているようだ。

 典高の期待が、最高潮を迎えようとしていた。



 姫肌の目が典高を冷静に見ていた。

「やっぱり、兄様もHなのです! 教室の外へ出ないし、食らいつくように喜んで見ているのです!」



 ウヤムヤにできたと思っていた話題が蒸し返された。ばつが悪い。典高は取りつくろうとする。

「よ、喜んでないし! 食らいついてもないし! お、俺は、こういうのは初めてなんだよ。……そ、そうだ。初めての人間が見た方が邪気だって早く満足すると思うんだ!」



 苦しい言い訳だった。



 むすっとした顔の姫肌だったが、兄と思っている姫肌である。諦めたように許した。

「そういうことにしておくのです! ……さあ、もうすぐなのです! みんなも、静かに見守ってあげるのです!」



 教室はシンとなって、先生に視線が集中する。



 典高は話題の蒸し返しによって、ブラウスを脱いだシーンを見逃してしまった。でも、モジモジと赤面のまま立っている先生を見て満足する。


 ほとばしる色白の肉体。


 そこに残った下着は、上下おそろいの白とダイダイ色が、チカチカするくらいに眩しい横ストライプ?

 目の網膜に染みるくらい……? と、堪能している途中で、典高には疑問が生じてしまった。



「なあ、あれって、下着?」



 可愛いデザインであり、明るい太陽の下が似合いそうだ。人目をはばかる寝室にふさわしいって感じには見えない。典高のような女性の下着を知らない男子高校生であっても、それが下着には思えなかった。


「シッ! 静かにするのです! 先生は水着なのです」

 水着!

 先生もビキニだった。そうなのだ! 予防のために、水着を着て授業に臨んでいたのだ。

 だからスーツの着こなしが、イマイチ悪かったのか。典高は小さく納得した。



 姫肌は集中力を高め、邪気が先生から出てくるのを待った。


 シュワンッ!


 邪気が現れた! あの30センチくらいの小鬼が先生の横にいる!


 ダダッ!


 姫肌がダッシュ! オリンピック選手並みに速い!


 ガシュッ!


 捕まえた! 姫肌の手に邪気が帰って来た。最初の時と同じように、声が聞こえないまま邪気は暴れていた。


 姫肌は捕獲作業を続ける。


「ホイホイ ムニュムニュ美味しいもんになるのですーーーー!」

 グニュグニュ ポワンッ!



 姫肌の掌に台形状のプリンが載っている!



 姫肌が飽きるといけないので、1日に同じスイーツは出ないのだ。

 そのプリンは、スーパーで売ってる一番大きいクラス。固めた型から出したばかりのように、つやっとしていて甘さがそそられる。


 ペロンッ!

 ひと口!


 小さな口で大きくほおばり、ひと息に飲み込んだ!


「甘くて、卵が効いてて、とても美味しかったのです。今日は2つもスイーツを食べた気分なのです」

 トロンとした顔になって満足そうだ。



 しかし、邪気の第一人者らしく、直ちにクラスメイトへ指示を出す。

「さあ、みなさん、廊下に出て待つのです」

 ゾロゾロ

 みんな慣れているのか、素直に言うことを聞いて教室から出て行く。


 典高がその卒のない展開に見とれていると、姫肌が典高の背中を押した。

「さあ、兄様も廊下へ出るのです」


「どうしたの? 急に廊下とか言い出して?」

「武士の情けなのです。服を着る姿は見ないであげるのです」

 なるほど、先生のためだった。


 その先生はビキニ姿でのまま、脱ぎ捨てた服を集めて抱え、床にうずくまっていた。

 そう、下着ではなく、水着なのである。典高は不思議に思う。


「ビキニの上に服を着るのってハズいのかな?」


 姫肌はムッとする。

「当たり前なのです。みんなが見ている前で、服を脱いだり着たりするのは、女の子、大人の女性ひとでも恥ずかしいのです!」


 その恥ずかしい行為をさせた張本人なのであるが、ちゃんと女性の味方だった。

 典高も小さく納得した。と、言うより、せざるを得なかった。

「そうだね、注目を浴びながらなんて、かわいそうだね」


 その言葉に、姫肌は満足した年上の顔をする。

「分かればいいのです! さあ、廊下へ出るのです!」

 配慮がある邪気専門家であった。



 クラス全員が廊下に出て、パスンッと扉が閉じられた。教室に先生だけが残った。

「先生、ゆっくり着てください」

 ねぎらうように、典高は小さくつぶやいた。


【1983文字】


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