第8話 第三章 取り憑く邪気(2/4)

 後ろに避難してる男子も女子も、食い入るように脱いでいる先生を見てる! 同性の女子でさえ容赦しない目つきだ。



 なんと! 近寄ってくる男子もいるじゃなか!



 近くで見たいと思う気持ちは典高にも、いや、典高だからこそ、よく分かった。


 女の先生が教室でストリップショーなのだ。典高は小さく納得なのだが、グッと気持ちを呑み込んだ。


「お前ら、せめて、見ない振りをしてやれよ! 先生だってかわいそうじゃん!」

 優等生ぶった。



 近づいている男子の1人が、そんな典高に気付く。その男子はスケベに見えるのだが、何か含みがあるようにも見えた。

「いや、でも、見た方が……」

 答える男子は、歯切れが悪い。



 姫肌が代弁する。

「兄様は何も知らないのです! 見なければならないのです! 取り憑かれた女性が十分に恥ずかしいと思わないと、邪気は満足しないのです」

 なんだか力説を始めたぞ。


「満足だって?」

 典高には、満足ということと、男子が見ることとの関係がイマイチ分からない。その顔を見て姫肌が続ける。


「邪気は満足しないと、取り憑いた人の体から出てこないのです。満足させるために恥ずかしい思いが必要なのです」

「服を脱ぎゃあ、十分ハズいだろう! 見物人なんて、必要ないじゃん」


「それは違うのです! ここで気を使って、ギャラリーの全員が部屋を出てしまったら、もっと大変なことになるのです」

 姫肌は困った顔をしている。どういうことだ?


「もっと大変って、これ以上、何があるんだよ?」

「女性は見られるから恥ずかしいのです。誰もいない所で脱げば、十分に恥ずかしくないのです。それでは、邪気が満足しないのです。そうなると、取り憑かれた女性は全裸になって、男を追い回す行動をとるのです」

 姫肌は慣れているのか、臆面もなく答えた。



 全裸だって?



 典高の男子高校生的頭脳は、想像的映像を作り始めた。



 ――想像上の校舎――

 全裸になった先生が、長い廊下を数人の男子生徒を追いかけて走っている!

 でも、深夜アニメのように、ちゃんと不自然な光が差し込んでいた。なので、見てはいけない部分は、まぶしてく典高には見えない。



 ――不自然な光。高校生が見てはいけない肉体の部分を、極度に明るくするように差し込む光のことである。なので、光が当たった部分を誰も見ることができない。神のみが成させる現象として知られている。どうやら、この世界では想像の中でも、不自然な光は発生するようだ。

 うへーっ! 想像なのに……と、典高は僅かに落胆したが、全裸な先生が男子生徒を追いかけるシーンは続く。



 追いかけられている1人の男子が、どこかの教室へ逃げ込んだ。それでも、全裸の先生はのがさない! 整然と並んだ机やイスを蹴散らしながら、男子生徒へと迫っていく! 怯える男子生徒!


 ヤ、ヤバ過ぎる! 光が差し込んでいても、それ以上にヤバい光景だった。典高はブルッと体を1つ震わした。



「学校でそんなことが起きたら、マズイじゃん! 先生はもう、学校で働けないよ!」


 とは言え、教室で脱ぐのも似たようなものである。


「だから、なのです! 最低限の露出を大勢に見てもらう恥ずかしさで、邪気を満足させるのです。そのために、みんなで見るのです。それなら、本人の傷も浅くて済むのです」


 姫肌は力を込めつつも、冷静に答えた。意味は分かるのだが、簡単に認めて良いのだろうか? 『見ていい』どころか、『見るべき』になっている。



「いや、だからって……」

 典高のこの発言は建前である。



 本音はみんなと一緒に先生を見たいのだが、常識人っぽく納得がいかない、というような態度を典高は取りたかったのだ。


 女子もいるし、スケベと思われたくないよね。

 姫肌は、そんな典高の建前を見抜いていた。


「それなら、兄様だけ廊下へ出て行けばいいのです。別に1人減っても、これだけの人数が見ていれば問題ないのです。でも、男子にとっては公然と見ていいチャンスなのです。兄様はそのチャンスを逃すのですか? 他の男子は仕方ない振りをしながら、内心では喜んでいるのです」


 そんな姫肌の言い分に、近くに寄って来ていた男子たちが反論する。

「いやいや、俺は違うぞ!」

「お、俺もだ。人助けと思って見てるんだ!」

 誠実そうな顔を見せる。




「心の底までは、誰も分らないのです!」




 切り捨てた!

「……」

 反論男子も口を結んでしまう。姫肌って厳しい。


 だが、この会話のお陰で、見ていいチャンスを逃すのか? という、姫肌の問いへの回答がウヤムヤになったと、典高は胸をなでおろした。



 典高はさっさと、話題をそらす。

「そ、それで、どうなったら、先生のストリ、じゃない、この状況が終わるんだよ」

 ストリップと言うところだった。女子に向かって言う台詞ではない。


「先生が見られるのを恥ずかしいと思う露出度までなのです。恥ずかしい気持ちに満足した邪気が出てくるのです。その時が捕獲の狙い目なのです」


 ペロリッ!

 姫肌が舌なめずり。獲物を狙う獣みたいだ。


 恥ずかしいと思う露出度とは、どこまでだろうか? あの不自然な光が現れるレベルなのだろうか?


 大いに興味があるところである。典高は勇気を振り絞って聞いてみる。

「なあ、どこまで、先生が脱げば、邪気は満足すんの?」



「いつもだと、あたしと同じ露出度までなのです」



 案外普通に答えてくれた。姫肌のビキニ姿と同じくらい、つまり、下着姿である。

 不自然な光が現れるレベルではないみたいだ。チョイがっかりの典高だったが、一般的には許容範囲内と安堵もした。


 それでも期待が膨らむ。典高は先生に目を向けた。



 もう、ストッキングは脱いでいた。



 ブラウスの裾から伸びる白い太腿が、ムチムチと輝きを放っている。ドキドキするほどにたまらない。でも残念ながら、下着はブラウスの中に隠れていた。


【2311文字】

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