第2話【肝回】第一章 初登校(2/4)

 特別な服装? 典高が着ているのとは違う制服があるのだろうか? しかも、それをスルーとは、いったい、どういうことだろう?


 典高には理解不能だった。


「特別な服装をスルーと言うのは、どういうことですか?」

 典高の質問に、先生はほんの一瞬、目をそらしたが、典高に顔を向けて重そうに口を開く。


「そ、その服装を見ても、服装については何も言わないでください。す、『姿』とか『服』とかに関する言葉も言わないでください」


 え? 服装については言ってはいけない? 具体的な言葉も禁止なの?



 ここは学校である。



 なのに、先生から禁句を告げられるなんて、典高は簡単には呑み込めない。


「なぜですか? どうして、その言葉を言っちゃいけないんですか?」

 強い口調となってしまう。


「ご、ごめんなさい。い、色々と長くなるので、時間がある時に説明します」

 複雑な事情があるのだろうか? 別の角度から聞いてみる。

「入学案内に載ってない制服が、服装として認められているんですか?」


 先生は困った顔をする。

「う、うーん、が、学校が認めてると言うより、こ、この街で認められた服装なの」


 街で認められた服装? なんだか話しがでかい。そんなことってあるのだろうか?

「いったい、どんな服装なんですか?」

 半歩踏み出す。典高は、そこをハッキリさせたかった。


 反して先生の眉間にはシワがよる。


「こ、この街では、不用意に、い、言ってはいけない、き、決まりなの」

「はあ?」


 不思議過ぎて、典高の顔がゆがんでいく。次の言葉が出なかった。


 先生は時間を気にしているのか、先を急ぐように言葉の堰を切る。

「は、入ればすぐに分りますから、と、とにかく見つけても、スルーしてくださいね。もう、ホームルームの時間に入っているので、これ以上詳しく説明できなくて、ごめんなさい。ととと、とにかく、服装を見てもスルーして、もらえればいいですから……。よ、呼んだら、は、入ってきてくださいね」


 先生は一時停止を解除して、教室の扉を開ける。

 ガララッ……パスンッ

 そそくさと、1人で教室へ入って、扉はピタリと閉められた。




 廊下に1人残された典高。

 言ってはいけない服装って、いったい何だろうか? その疑問が、自身の熱となって渦を巻く。


 しかも、学校だけじゃないらしい。街で認められている服装とは、……典高は全然分からない。分からないからこそ想像がめぐる。


 もしかして、この街の名士とか、有力者の子供がスンゲーヤンキーで、特攻服を許されているとか?


 ここは権力者が、のさばっている街なのか? もしそうなら、ひどい街に来ちまったってことになる。

 ヤンキーがクラスメイトなのだ。先が思いやられると、頭を抱える典高だった。




「さ、さあ、兄石君、入ってください!」


 中から大きな声、先生だ。典高は扉を開ける。

 ガラッ

 1歩入って、扉を閉める。

 ドン トスンッ

 扉は軽く壁に弾んでから閉まった。



 キョロキョロ

 さっそく、典高は特別な制服を探す。顔の向きは変えずに、目の動きを使って探した。

 さて、特攻服は? っと。



「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」



 声を押さえられなかった! いや、驚愕たる叫びだ!



 し、下着の女子! ブラ(ブラジャー)のままの女子がいる!



 イスに座った上半身は白いブラだけ! 日焼け気味の肌が眩しい。


 何で、そんな……。

 ス、スルーって、こ、これをスルーしろってことなのか?


 他のクラスメイトたちは、男女それぞれ普通に学校の制服を着て、行儀よく並んで座っている。そんな教室のほぼ中央に、紅1点、ならぬ、白いブラが1点、異様な光を放っていた。



 タップンとした巨乳である。


 同い年以上に立派! というより、大人のお姉さんよりも立派だ! 立派過ぎる!


 しかも、垂れてない! その巨乳は、重力なんかには屈していなかった。正面を向いて典高に照準を合わせているかのよう。


 ドカンッ ドカンッ と、戦艦大和が火を噴く巨乳っぷりだった。これぞ、セクシーダイナマイト!



 胸ばかりに見とれてはいけない。


 どんな子なんだ?

 典高の視界が、その子の全体像に広がる。

 肩くらいの髪をして、顔はぽっちゃりとしたおっとりタイプた。かわいく優しげに見えた。

 顔だけなら、どこにでも居そうな、違うな。かわいいんだから希少、だから、学校に1人か2人の女子なのだ。



 なのに、ブラ1枚の胸!



 結局、胸に戻る典高の視線であった。

 席に着いているから下は見えない。もしかしたら、下も下着姿で、腹や太腿ふともももセクシーダイナマイトかも知れない。



 くーーーーーーっ! Hな巨乳や太腿が、下着姿で教室のイスに座っているなんて!

 まともじゃないよ!

 経験したことない光景に、典高は鼻の奥がムズムズしてくる。


 ヤ、ヤベッ! 出血しそうだ!


 平常心だ! 平常心!

 古い神社仏閣を思い浮かべる。涼しげな参道、苔むした庭、歴史を感じる建物たち。静けさが胸に染みてくる。


 典高は平常心を取り戻した。


 冷静になってみると、下着姿で寒くないのだろうか? と、疑問が湧いた。

 まだ4月である。だが、鳥肌でもなさそうだし、寒そうには見えない。待て! ここはスルーなのだ。聞くべきではない。



 あれ?

 よく見ると、下着じゃないぞ。



 典高が平常心を取り戻し、スルーを思い出したら、より客観的な目になった。


 布の質感が違う。下着のような透けそうとか、ペラペラっぽさがない。その布にはある程度厚みがあり、しっかりとした生地に見えた。



 白いから下着に見えたけど、どうやら、ビキニのようだ。



 そうか、夏のビーチが似合うビキニなんだ。

 典高は想像の園へと迷い込む。




 ――ある夏の日――

 青い空に照りつける太陽、白い砂浜は、ゆるいカーブに乗って長く続いている。打ち寄せる控え目な波、そんな海水が洗う浜辺を駆けてくるかわいい少女。


 少女には、白いビキニが目に痛いほどに眩しい。


 実のところ、典高からはボトムビキニは見えない。けど、白に決まっている! 上下がそろった白いビキニは、典高の好みでもあった。


 そんなビキニが浜辺を走ってくる。


 あのセクシーな胸が、タプタプと規則的に揺れて、力いっぱいに上下に振られて、今にも振動で破裂しそうなくらい!




 ヤ、ヤバい、ヤバいよ。

 座っているだけなのに、走っているシーンまで想像してしまった。



 だが、想像できてよかったと、典高は思った。あれはビキニであるとの結論を得たのである。


 下着じゃないとイメージできた。

 ファーーーーーーッ と、一息ついて、安心顔になった。




 ハッ!

 視線に気が付いた!


 みんなが、クラスメイトたちが、典高を見てる!

 男子も女子も、ニヤニヤとした目を向けているじゃないか!!


【2650文字】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る