妹☆ビ ~妹がビキニで街なかウォーキング~

亜逢 愛

通常・横組み用

第一章 初登校

第1話 第一章 初登校(1/4)



   第一章 初登校




 春! それは、新入学の季節!


 兄石典高あにしのりたかは、ピカピカの1年生、高校生となった。通学用ショルダーバッグをかけて、足取りもも軽く学校へ向かって歩いている。


 晴天のもと、校門の手前に植えられたサクラ並木には、満開の花たちが咲き競い、木漏れ日までも桜色に見えていた。


 これぞ、絵に描いたような入学式日和、である。



 いや、だった。

 入学式は昨日だったのだ。


 式が催された体育館には、典高の姿はなかった。入学早々欠席したのだ。よって、翌日の今日が初登校となってしまった。




 と、いうのは、典高はバイトの誘われたのである。

 オレオレ詐欺の運び役などという、いかがわしいバイトではない。母親が勧めるバイトだった。


 一般より高額なバイト代が出るという甘い言葉につられて、典高は二つ返事でOKしてしまったのだ。


 だが、事前に身体検査が必要と急に告げられ、その検査日が昨日だったのだ。そう、入学式と重なったのだ。入学式には授業なんてないし退屈なだけ、と母親に言いくるめられてしまった。


 そのため、典高は入学式を欠席したのだった。




 初登校の朝、典高は他の生徒たちに混じり、サクラ並木を抜けて校門をくぐった。すぐに掲示板を見つけたものの、クラス分けの名簿表とかは、すでに撤去されていた。


 仕方なく職員室へ行き、入口近くにいた先生に氏名を名乗り、どうしたらいいかたずねた。すると、氏名が聞こえたのか、すぐに典高のクラス担任が現れた。



 ラッキー! 典高の心が弾んだ。若い女の先生である。



 飛び切り、という形容まではつかないものの、そこそこの美人だった。と言うより、かわいかった。

 典高は特に女好きと言うわけではなかったが、おっさん先生よりはずっと嬉しかった。


 その先生は、愛らしいマスクに、清潔感があるショートカットである。典高がかわいいと思うくらいなので、思った以上に若く見えた。きっと、先輩と紹介されても疑わなかったことだろう。


 また、スーツの着こなしからも若く見えた。

 なんていうか、イマイチ、着るのに慣れていないというか、スーツが体からずれてるように見えた。


 だらしない、というほどではないが、職業人らしくピシッと決まっていない。ファッションにうとい女子大生が、入社面接に臨むといった感じだった。


 先生は緊張ぎみに、少し震える口を開いた。

「も、もうすぐ、し、始業のベルが鳴ります。せ、先生と一緒に、きょ、教室へ行きましょおう!」

 なんとも、ぎこちない演説だった。予期しないままに、1人で朝礼台の上に立たされた気弱なお姉さんのようだった。



 聞くと、先生の名前は室東蘭むろひがし らんといい、北海道の駅名みたいな名前だった。教師になって2年目で、クラス担任を持つのは、今年が初めてらしい。


 どうりで、スーツが様になってない訳だ。典高は小さく納得した。


 入学式の欠席は、あらかじめ連絡を入れていたので、先生から特に何かを言われることはなかった。



 キンコン カーンコーン



 先生が言った通り、ほどなくして始業のベルが鳴った。受け取った教科書をバッグに入れて、典高は先生の後について、教室へ向かって廊下を歩き始めた。階段を登って3階へ、静かな廊下を先生と2人で歩く。


 始業前に先生と一緒に教室へ行く。


 転校生的な展開である。

 教室に入れば、すぐに自己紹介を求められるだろう。歩きながら言う内容を考える。氏名、出身地、あとは、趣味である美術鑑賞くらいだろうか? 典高は自ら創作はしなかったが、アーティストの想いに触れるのが好きだった。芸術を理解できずとも芸術に触れるのが心地よかった。



 そんなことを考えているうちに、先生の足が止まった。扉の上に1年B組と札がある。

 どうやら、この教室みたいだ。


「こ、ここで待っててくださいね。よ、呼んだら入っきてください。……あっ! そ、そう言えば、兄石君はこの街の出身ではありませんでしたね」

 先生は扉に手を添え、一時停止したまま聞いてきた。


 改まった顔に見える。何か大切なことに気付いたのだろうか?

 でも出身地なんて、特に隠す必要はない。典高は素直に答える。


「はい、東京の世田釜区せたがまくです。今日はそこから登校しました。一番電車に乗って、なんとか、始業時間に間に合いました」




 なぜ、典高が一番電車とか言ったのか? それは、典高の旧居から高校まではある程度距離があるので、一番電車に乗らないと間に合わなかったからである。


 旧居というのは、高校進学に合わせて転居するからだ。

 バイトの身体検査が急に入ったために、移動が予定よりも遅れてしまったのである。今朝、寝袋などが入った最後の荷物をコンビニから送り、旧居を引き払ってからの登校だった。


 進学と同時に転居と言うと、1人暮らしになったように聞こえるかも知れないが、そんなにうらやましい展開ではない。


 典高は母1人子1人の母子家庭であり、転居は母親の転勤に伴ってのことだった。転勤は1年も前から決まっていたから、あらかじめ典高が新居近くの高校を受験したのだ。


 転居に関わることは、入学試験以外は全て母親によって行なわれた。なので、新居も母親の都合で決められてしまい、典高はその新居をまだ見てもいない有様だった。


 旧居があった世田釜には友人もおり、それなりのコミュニティにも属してはいたが、母子家庭なので1人残るとは言えなかった。


 まあ、家の都合ではあったが、高校から新しい土地と言うのも、それは、それで、悪くないと思っていた。




 先生は自分から出身地を聞いた割には、なぜか典高の答えに驚いた。

「や、や、や、やっぱり! そう言うことなら、始めに教えておかなきゃいけなかったんだけど、こ、このクラスには、と、特別な服装の生徒が1人います。ですが、その服装についてはスルーしてください」


 スルー? 意味の分からないことを言い出した。


 特別な服装? 典高が着ているのとは違う制服があるのだろうか? しかも、それをスルーとは、いったい、どういうことだろう?


 典高には理解不能だった。


【2400文字】

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