サラとペティ
「大丈夫?ペティ」
ペティの腕に優しく絆創膏を貼って、サラは言った。ペティはニコニコと笑うだけだ。きっと痛いはずなのに、我慢しているんだ。サラはそう思った。縫い目がほつれないように、腕をペティのお腹に乗せて、抱きかかえた。最近、この街に人形を作る職人がやってきたと、女の子たちが言っていた。女の子たちは輪になって、サンドイッチを食べながら楽しそうにお話していた。みんなお揃いの可愛い制服を着ていた。サラはその制服を着ることができてできなかった。家が貧乏で学校に通えず、サラはいつも一人ぼっちだった。友達は人形のペティだけだった。
「やーい、幽霊!」
突如背後から聞こえてきたのは、女の子たちと似たような制服を着た、いつもサラにちょっかいをかける男の子たちの声だった。サラは直ぐにその場を立ち去ろうとしたが、走ってきた男の子の一人が、サラの髪を引っ張った。
「痛い!話して!」
「真っ黒な髪の幽霊め!退治してやる!」
茶髪や金髪の子が多いこの街で、黒髪は珍しく、サラは目立っていた。男の子たちはそれをからかい、いつも下を向き歩くサラを「幽霊」と呼び、からかっていた。
「こんなボロ雑巾みたいな人形持ち歩いてさ。変なの」
「ボロ雑巾なんかじゃない!」
男の子の言葉にサラは怒りを隠せなかった。
「ペティは素敵な私の友達よ!」
そう叫んだ後にハッとした。男の子たちは顔を合わせてニヤニヤと笑い始めた。
「ペティだって?ペティだって!人形に名前つけて、しかも友達だって!」
男の子はサラからペティを取り上げた。
「返して!」
手を伸ばしても、男の子たちより背の低いサラは、ペティには届かなかった。もみくちゃにされる間に、ペティの腕は取れてしまった。急いで腕を拾って、必死でペティを取り返そうとしていると、通りかかった男の人が、男の子たちからペティをひょいと取り上げた。
「男の子が女の子をいじめるなんて、かっこ悪いぞ」
男の人がそう言うと、男の子たちはさっさと逃げてしまった。男の人は跪き、サラに視線を合わせると、空いている方の手を差し出した。
「その腕、貸してごらん。治してあげる」
男の人について行くと、小さな工房にたどり着いた。中に入ると、壁一面の棚に、様々な人形がずらりと並んでいた。その一つ一つに命が宿っているようだった。
「この子の服も、だいぶくたびれてるね。新しい服を用意しよう」
「私、お金持ってないの」
サラが心配そうに言うと、トムは笑った。
「お金なんて取るつもりはないよ」
そう言うと、男の人は作業にとりかかった。手際よく体と腕を繋ぎ合わせ、服を着せる。その工程を、サラはぼーっと眺めていた。
「どうかした?」
男の人が心配して声をかけると、サラは涙目でトムに言った。
「私、ずっとひとりぼっちで、ペティだけが友達なの。でも、それっておかしな事なのかな」
男の人はサラの頭を優しく撫でた。
「全然」
「本当?」
「僕はね、ロボットに育てられたんだ。そのロボットは、僕にたくさんの愛を与えてくれたよ。だから、人形に愛を注ぐ君は、何もおかしいことはないんだよ」
ほら、と差し出したトムの手には見違えるほど美しくなったペティがいた。ペティはサラににっこりと笑いかける。
「もう痛くない?ペティ」
ペティはサラに抱かれて、満面の笑みでこくりと頷いた。そして、ぐるりと腕をまわして見せる。
「ありがとうお兄さん。私サラっていうの」
「僕はトム。よかった、ペティも君も元気になって」
「ねえ、トムさん。お願いがあるんだけど…」
「やーい、幽霊!」
男の子たちたちはサラにそう叫んだ。だが、そのあとはいつものようにからかい続けたり、ペティを取り上げることはなかった。ペティを抱えたサラの顔は真っ直ぐ前を向き、その凛とした顔が日に照らされ、美しく輝いて見えたからだった。
サラはペティを治してもらってから、トムの小さな工房で手伝いをしている。
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