墓に住む男

悪霊に取り憑かれた男がいた。


この男は墓に住み、最早何人も、あらゆる鎖を以ってしてもその男を繋ぎ止めておくことは出来なかった。


彼は幾度枷や鎖で繋がれようとも、鎖を千切り枷を砕いて、誰にも、あらゆる全てが彼を抑える力を持っていなかった。


故に彼は夜昼絶え間なく叫び続け、石でその体を傷つけていた。


男は主を見つけると、駆け寄り拝し、大声で叫んだ。


いと高き神の御子よ。あなたはわたしと何のかかわりがあると言うのです。神に誓って願います、わたしを苦しめないでください、と。


それは主が彼に向かって、汚れた霊よ、この人から出て行け、と言われたからだ。


主は、お前の名はなんだ、とお尋ねになると、わたしはレギオン、わたしたちは数多き故に、と答え、


そして、自分たちをこの地から追い出さないでくれと懇願した。


さて、そこの山腹に豚の大群が飼ってあった。


霊は主に願い出た、わたしどもを豚に入らせてください、と。


主はこれをお許しになると、汚れた霊どもは出ていって豚の中に入り込んだ。


その群れは二千匹ほどであったが、崖から海へ雪崩のように駆け下り、海の中で溺れ死んでしまった。

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