第5話 僕の胸の”水面”
”エコヘッドシャワー”
こいつは便利なもので水も心もエコにしてくれる優れものだ。いかに体に泡を擦り付けても、泡が落ちてるのか汚れが流れているのか判らなくなる時もあるけれど、決して無駄ではない品物だ。
どうだろう、誰かもう”ひとつ”買ってみやしないかい?
―――祖父母の家に行ってきた家族が、家で一息つくなり一気に賑やかになった。あの時と違い、エコヘッドのおかげで居間で盛り上がっている家族の声が聞こえる。6人家族、男女交互の兄弟、弟は道外に…あとの家族は自宅に。妹たち二人は「あれ、にぃちゃんは~?」とか言いつつも、何かもごもごと食べて話しているのがよくわかる。そんな中に一番声が低い父親が、なにか訴えているかのように、さらに低く声を発している。
高鳴っていく笑い声、速くなっていく鼓動、近づいてくる声、洗い流せない思い出、、
『はぁぁ?? なんで入る必要があんのよっ?!』
・・繰り返される”あやまち”。
居ないときにしか入れなくなってしまった、浴室。何度洗っても、美容に気遣い始めた妹のボディソープをこっそりと何度試しても落とせない汚れ。剃り直しても真黒くさせていくムダ毛は、僕にとっての十字架だ。
余計なことをして、また物を壊さないようにと捨てないでいた浴室の髪の毛が、排水溝につまり水たまりを作る。ぶっ掛けるかのように、昨日入れなかった風呂水を自分に傷をつける。アカが浮くその水面は、僕にとって都合がいい水しぶき。
頼まれもしなかったご飯を作るのは良くないと知っていながらも、食費がとうるさいもので、またちょっとずつ食材を作りながら4品を目安に調理をした。誰かにとってはそれは、列記としたレシピの一品ではないのかもしれないが、生活のやりくりしている人にとって見れば…それこそ”列記とした一品”だ。
笑えてしまうほどに、ご飯に味覚が感じなくなってしまった―――。
眠れなくて想いが沸いてパソコンをいじっていれば、「だから、朝起きれないんだ」。雪かきをして部屋でご褒美にゲームしていたら、「遊んでばかり。いいよな、暇人は」。リストカットして苦しすぎて病院へ行こうと思えば、「そんなの誰だって抱えている」。
そうさ、わかっているさ。判っている。自分が勝手に仕事を辞めたこと、周りのせいにしてきたこと、今も親の脛をかじって生きて、こうして愚痴を並べていること。
父親が落としたポテトチップスの袋さえ、粉々になってしまえばいいって考えてる。血糖値が高くて味を控えめとかしても、毎日ポテトチップスで足りない食欲を満たしている。そう、SDGs的に「パーム油が・・・」とか、父親よりそんな事を心配している自分。
―――そして、人を殺してしまう心理が納得してしまう自分自身。
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