第4話 目に見えない糸

 「―—―、いやぁ・・惜しかったですね。」

 「はい・・。いや、でもまぁ、思い出の品なので”値段”だとか”名作”だとか・・そんな事に拘らず、父がくれた振り子時計を大事にしたいですねっ。」

 「・・お金より高額な品物なっちゃいましたねっ。」

 「っはは。そうみたいですねっ!」


―—僕は、ひとり夕方のテレビをつけて・・すぐさま消した。



 神を信じている僕は、その時々の人の様子を伺って自分を作ってきた。僕が学んでいる教えに対してあなたはズレているから『悪魔が取り付いているんだ』『勉強不足なんだ』『真実を知れば、こんなことにはならない』と、関わり続けている。

 それなのに僕は弱いらしく、酷く疲れてしまったり環境に合わせたり、結果を出せないでいる。心理に従っているのに、信仰していない人はあまりに自由で勝手で無責任でどうしようもない。

 それでいて、僕以上に素晴らしい。



 見えたらどんなにいいことだろうか。

 同じ行事を楽しめたり、自分が卒業した母校の歌が歌えたり、いくら反するとはいえ自由に恋愛が出来たり・・・強制的だと感じてしまうお布施だったり、霊言を聞いて…この世界を考えてみたり…。

 こんなことが仲間たちにバレたら、悪魔祓いを薦められるのだろう…。


 違う。

 そういう事ではないんだよな…。



 純粋に感じたことを、そのまま楽しみたい。大事にしたい。

 宗教的な目線で感情を動かして、あれこれ口にして、相手の愛を無駄にして、”それまでだった―。”という理由で片付けたくない。




 青いノートの一件以来、彼と3度ほど話ができる機会があった。彼は、”自分がイヤだったとされる学校でも、どうにか役に立ちたい”と生徒会に立候補したいという希望があった時。次に卒業式の時。そして・・・彼がコンビニの厨房で料理を作ってた時。

 これは、運命的な意図だったと思っている。それは、彼のことをすごく思い返して”こんな風に成長しているといいな。”と願った翌日のことばかりだからだ。それこそ運命的な赤い糸だとか、選んだ道だとか宿命といってもいいかもしれない。なんというんだろうか、誰かが何か起きた時に、本当は悲しんだり心配してあげないといけないときに、宗教的な観念が先に出てしまって『だいじょうぶ?』『ありがとう!』とかそれが言えなくなってしまいそうで怖いんだ。もちろん、そういう教えも記載はされているけれども、逆の立場だったら『余計なお世話』にたどり着くことだってあるかもしれない。だとすれば、僕のこの無表情やら関心の移り変わり・・だれか理解をしてくれるかな。


 それとも、自分なのかな。そのためにここに綴ったり、見ている風景を流して知るのかな。




 見えない糸がもし働くなら、。




 ―—―そんな僕はとりあえず、お風呂を入るのに父親から買って貰った時計を外して浴室へと向かった。

 

 

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