2P目

2010年1月7日、僕は26歳と10ヶ月くらいになった。


僕の自己紹介を少しだけしよう。その方が想像力が働いて、より僕という人間像が見えるだろうから。

僕は24歳で東京大学を卒業した。年齢を見れば明らかだが一応断っておくと、僕は二浪して大学に入っている。大学を卒業してから今まで、僕は一度も就職をしていない。バイトをしながら漫画を描いていた。

見た目のスペックも書いた方が良さそうなので記そう。169cmの70kg、顔は目が細くつり上がっていて、横から見ると少し口元が前に出ている。まぁ、取り繕う必要もないからはっきり書いたが、要はブスでデブという事だ。


1月7日の夜22時ごろ、一人暮らしの僕は漫画を描くのに集中していた。三鷹市の上連雀に住んでいるのだが、たまに夜中に歌声が聞こえる隣人に対して以外、なにも文句なく満足した生活をしている。

少し休憩しようと考え、スマホで無料のチャットアプリを開いた。このアプリの名前は著作権の問題とかで記せないが、具体的な機能だけ紹介すると、IDさえ打ち込めば、その人とチャットができ、お互いに了承すれば通話もできるというもの。また、掲示板も常設されており、暇な時などに掲示板にIDを書き込めば、同じく暇な人から連絡がきて話せる。


僕は掲示板で、わたあめ、という名前の人が投稿しているのを見つけた。

『わたあめです、ふわふわ。まずはチャット、それから通話。20歳東京』

頭悪そうなこの投稿に、なんとなく気が向いてチャットを送った。

『初めまして、通話しましょう。26歳東京』


ネタバラシになるが、僕はおよそ3ヶ月後の4月5日に、わたあめこと渡辺佳純と付き合う事になる。先に断っておくと、1月7日の夜の通話を綴った後、話しは3月18日に進む。3月18日は僕と彼女が初めて出会った日だ。では脱線した話しを元に戻そう。


わたあめから返事が来て、僕は通話をした。通話の記憶に幾らかの曖昧さを含むため、ある程度僕の想像で補う事にして以下に会話の内容を記す。


「もしもーし」

わたあめの声は可愛くて、なんというか、よくあるアニカテ(アニメカテゴリー)配信者みたいな印象を受けた。

「もしもし、こんばんは」

「はいー」

「わたあめちゃん、東京のどの辺に住んでるの?」

「うぉぉ、いきなり住み聞くスタイルですか」

わたあめはとても素直な女の子だった。思ったことをなんでも口にするタイプ。言い方を変えるなら、デリカシーと建前という文化を忘れた原始人。

この時に僕は、めんどくさそうな女だな、と思ったことを鮮明に覚えている。名誉のため、少し補足しておくと、僕は童貞ではない。24歳の時に初めてのセックスを経験している。ソープを利用した時に本番をしてもらったのだ。

なんか言い訳がましくなったが、ここで言いたいのは、「ブサイクなデブのくせに、かわいい女性に対してめんどくさいとかよく思えたな」とか思わないでほしい、ということだ。


その時の話しをまとめると、わたあめは武蔵小金井駅と花小金井駅の真ん中らへんに一人暮らししている女子大生。電子情報系の学科にいて、男子ばかりの中で生活しているらしく、分不相応にモテていると軽い自慢をしていた。中央線一本で会える距離であり、仲良くなったら飲みでも行こうとか、3回目の通話で写メ見せ合おうとか、そんな話しをした。


僕がブサイクだよ、と何度も念を押して写メを見せたのは、3回目の通話の時だった。えー、別に顔は何でもいいと思うけどなーとか、ありきたりなフォローを入れられた後に見たわたあめの写真は、とてつもなく可愛かった。かなりの童顔で、身長も152センチと小さく、完全に僕のタイプだった。



退屈な前口上はまだ続く。次に彼女と出会う3月18日の事を記そう。確かに退屈ではあるが、確実に重要な事なのだ。僕の人生が一変する出会いだったのだから。

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