特別短編『もしも○○○が幼なじみだったら』

   プロローグ





 ――きっかけは、花楽のこの発言だった。



『先輩って幼なじみキャラが好きなんですか?』



 ある日の夜のこと。

 寝る前に花楽とエルステでトークしていたら、そんな質問をされた。



『ええと、花楽さん? それはどういう意味で?』


『好きなタイプの話ですよ。幼なじみキャラ、好きなんですよね?』


『キャラとか言われても、具体的に誰のことを言っているのやら……』


『誰のこと、とかそういう話じゃないですよぉ。キャラでわからないなら【属性】と言い換えましょうか。要は幼なじみという肩書きに魅力を感じるかどうかという質問です』


『そう言われてもな……いままで意識したことないし』


『本当に?』



 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。



『うん』


『なんか返信に間がありましたね』


『気のせいだぞ』


『裕子さんみたいなこと言ってごまかさないでください』


『いいから話を進めようぜ。あれ? なんの話だっけ? 今日の株価?』


『また興味もない話題で話をそらそうとしてー』


『いいから』


『まあいいでしょう。たとえば、先輩は自他ともに認める巨乳好きじゃないですか』


『ちょい待てぇい! 他はともかく自は認めた覚えないぞ!?』


『その巨乳好きがもはや巨乳ならなんでもいいレベルだと仮定しまして』


『異議申し立てをスルーされた上に巨乳ジャンキーにされただと……』


『同じように、幼なじみならなんでもいい、なんてことはあったりするのかなって』



 俺は考える。

 確かに俺は実在する幼なじみのことが大好きではあるが、それは幼なじみがアイツだからこその話であって、『幼なじみ』という肩書きそのものに魅力を感じているのかどうかといえば――



『……いや、さすがにそれはないよ』


『本当ですか? 毎朝起こしに来たり、甲斐甲斐しくお世話してくれたりする可愛い幼なじみですよ?』


『そこだけ抜き取ると魅力的だとは思うが、なんでもいいなんてことはないって』


『ではこんな仮定はいかがですか? もしも、わたくしや裕子さんやルナさんが幼なじみだとしたら』



 わたくし――つまりは花楽や、裕子や、ルナが、幼なじみ?

 いずれも、エルステでは相性度95%以上の運命の相手と呼べる相手。

 そんな三人が、俺の幼なじみだって?


 幼なじみといえば、幼い頃からの付き合いで、家が近くで、毎朝起こしに来てくれて、朝食を共にして、仲良く登校したりして、帰りも一緒で、休みの日なんかもちょくちょく会ったりする、家族同然とも呼べる存在……そんなポジションに、あの三人が?


 それは――――ちょっといいかも。



『いまばっちり想像しましたよね?』


『うっせ』


『で、どうです?』


『どうですもなにも、幼なじみなんて後付けできる属性でもないし、想像しにくいっていうか……』


『えー。もっと想像力を働かせましょう。世の男子は想像力に満ち溢れていると聞きますよ』


『否定しないが』


『ならばお考えください』



 考える。


 要は、三人がアイツみたいに身近に……ってことだよな。

 三人とも出会ったのはごく最近だけど、幼なじみってことはもっと幼い頃に出会っていて、そのぶん共有してきた時間もいっぱいで、思い出も――そして、恋心も?

 もしかしたら……初恋なんかも?



『この質問についてはたっぷり悩んでいただきまして、また後日。先輩の口から直接お答えいただこうかなと思います。それまでに思う存分、妄想してみてくださいね?』


『妄想って』


『なんなら夢に見ていただいても。といったところで、おやすみなさーい』



 そのメッセージの後、花楽は『就寝します』というスタンプを送ってきた。

 俺も『おやすみ』と送ってベッドに入る。


 花楽や裕子やルナが幼なじみだったら、ねえ……。

 そんなありえない妄想、夢で見るのもなかなか難しい。

 でもちょっと興味あるな、と……そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

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