第4話「デウス・バーバー・マキナ」
デウスが休暇に入ってから、かなりの時間が
そして、ようやくあの楽しみを満喫できる日が来たのだ。
やりたかったリストの中でも、割と高ランクの案件。それも、すこぶる美人なマキナにやってもらえるので、これはもうベストだとしか思えない。
「いやあ、髪がようやく伸びたねえ! 神の髪がね!
思わず浮かれながら、デウスは理髪店の椅子に沈む。
マキナは無言で見詰めて、小さく首を左右に振った。
人類がどういう時にその
「では、デウス。今日は散髪ということでよろしいですか?」
「よろしいですとも! ……
「私の髪は、これは放熱用の特殊ファイバー
「いや、切られる側じゃなく、切る方だよ」
またマキナは、黙って
「ちょっと待って、マキナ」
「いえ、可能です。……以前のマスターが幼少期の
「あ、そなんだ……大丈夫じゃないか、やだなあ」
「では。……痛くても、泣いてはいけませんよ? デウス」
ハサミを手に、マキナが腕まくりする。
マキナは、人間バリカンの妙技がどうとか言っていた。
君は人間じゃなくてロボットじゃないかと、今度はデウスが無言でやれやれと首を振る。
そんなこんなで、ようやく散髪が始まったのだった。
「ああ、最高だね……人間はね、楽しそうに、気持ちよさそうにしてたよ。それで、店主と世間話をしたりね」
「そうでしたか」
「ああ、そうさ。あと、最近はあれをやらないよね? 昔は
「中世の
「い、いや、いい……君のおかげですこぶる健康だからね」
チョキチョキ、小気味よいリズムでハサミが歌う。
最近はマキナは、
おぼろげにだが、彼女がかつて人間とどう暮らしていたかが、デウスには想像できた。
だが、人工皮膚の柔らかな指が触れてくるうちに、つい
「――ウス? デウス……寝たのですか? 起きてますか? どちらかをはっきりと意思表示してください。ふむ……まあ、いいでしょう。散髪作業を継続します」
楽器のようなマキナの声が、どこか遠くに
うららかな晴れた午後、今日もショッピングモールは静けさが満ちていた。鳥の声と風の音、夏になれば虫の鳴き声も聴こえるだろう。
最高にいい気分を満喫していたデウスだったが、次の瞬間に悲鳴をあげる。
「ほあっちゃあああ! 熱っ、アチチ……マキナ? なにを」
「失礼しました、デウス。マニュアル通り、
「熱過ぎるよ、それ! 蒸し上がっちゃうよ!」
「ですから、痛くても泣いてはいけませんよと」
「そうじゃなくて……ん? なんだい?」
デウスは受肉するにあたり、人が見た神のイメージを借りて
そんなデウスの顔を見て、マキナは小首を
「……毎朝、髭は剃ってます、よね?」
「ん? ああ、そりゃ……その、なんだ……ああ、うん! ……レッ、レディの前だからね」
「私は
「だから、ロボットの女の子。そうだろう? ……君、意外と鈍いな」
思わずどちらからともなく、見詰め合う。
眼差しに熱量を感じたが、次の瞬間には二人同時に肩を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます