第3話「デウス・麺'S・マキナ」

 休暇に入って、三ヶ月。

 デウスは退屈な日々を送っていた。

 今になって知ったのだ……天界うえから羨望せんぼう眼差まなざしで見ていた、人間達の娯楽。それはどれも、退

 ウィンドウショッピングも、ロッククライミングも、ヨガのフィットネスも、全部。

 結局今は、映画のディスクを見たり、読書をしたりしている。

 そこそこ楽しめるのだが、結局また『』に逆戻りなのだった。


「おまけに、僕の楽しみトップテンに入ってたこれが、ね……」


 受肉してから、何十杯目かのラーメン。

 今日も昼食は、ラーメン。

 だが、またも失敗のようだ。レシピは書店に山程あったし、製麺からこだわすべもあるだろう。小麦を植えることから始めたって構わない。

 しかし、集められる範囲にある材料では、美味おいしいラーメンには程遠かった。


「せめて、マキナがいてくれればなあ」


 女性型のロボット、マキナはいない。

 あれっきり姿を見せていない。


「まあ、一人には慣れてい……る? あ、あれ? えっと……おか、えり?」


 なんだか全然なラーメンをつついていたら、不意にマキナが現れた。

 少し着ているシャツが、ボロボロだ。

 以前と同じ、すでにデウスが居着いてしまった家具売り場で、再会。マキナは優雅にお辞儀をすると、涼し気な無表情で挨拶してくれた。


「ただいま戻りました、デウス」

「ああ、うん……どしたの?」

「先日、やはりラーメンの食べ歩きにするべきだった、と」

「……それで? ……えっ? ええーっ!?」


 マキナは、大きな袋を肩から下ろした。

 その中から出てきたのは――


「これは、カップラーメンというものです」

「カップ、ラーメン。ああ、インスタントのね! ……え、もしかして」

「人類の時代が去った今、まだ賞味期限の大丈夫なものを吟味ぎんみする必要がありました」

「僕の、ために?」

「お嫌でしたか?」


 え、ちょっと待って。

 なにそれ嬉しい。

 これは確か、人間がたまに見せた『』とかいうやつだ。告白も祝福も戦争も、そして消失さえもサプライズ好きだった人類。未知の驚きが今、デウスの中で喜びに変わる。


「よ、よし! そ、その、ありがとう! マキナ、君は食事は」

「後期型に比べると制限はありますが、カップラーメン程度ならば」

「よかった、じゃあお湯を――」


 だが、マキナは電気ポッドを手に、コンセントをお腹に挿して立ち去ろうとする。


「この施設を中心に、市街地内へ約二百種のカップラーメンを配置しておきます。存分に食べ歩きしてください」

「……え?」

「ラーメンの食べ歩きがよかった、と」

「あ、うん……その、あのさ。この数ヶ月で新発見があったんだけど、聞いてくれる?」


 神妙な真顔で見詰めるマキナに、苦笑しながらデウスは告げることができた。

 一人が一番退屈らしいと。

 あと、自分で作ってみたラーメンもイマイチだったと。

 マキナはました美貌で静かに、しかし大きく何度もうなずくのだった。

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