第4話


「な、なんですか!どうしたんですか!ちょっと祥子さん!」


 店を出てやっと彼女は手を離してくれた。 握られた手のひらがジンワリと熱い。


 一、二度深呼吸した後に祥子さんは振り返って、


「どうしたもこうしたもないでしょう!泣いてたから心配したんだからね」


「えっ?い、いや…その…」


 理由が理由なので私は口ごもってしまう。 そもそも私にだってなんで涙を流したかなんてよくわかってないのだ。


 説明できるはずが無い。


「嫌ならはっきり言いなさいよ!ステージから見ててこっちはハラハラしてたんだからね!」


「い、いや…そういうわけでは…」


 そこでやっと自分の行動が唐突過ぎたことを察したのか、急にバツが悪い表情をする。

 

 落ち着かないのを隠したいのか腕をお腹の下あたりで組んで、急にしどろもどろになってしまう。


「そ、その…急にあんなことして…悪かったわよ、でも、だって心配だったから、だからなるべくすぐに向かいたかったのに、他の客とか共演者とかが…無視するのも悪いし…でもそれでも振り切ってきたんだからね」


 言い訳を始める姿を見て急に笑いがこみ上げてきた。


「わ、笑うことないでしょ!美咲は可愛いから…その…ナンパされてんのかと思って…その…だから笑うな~!」


 詩を読んでいる時の年齢相応の姿とは違う、あの私達が住むマンションで居間に寝転んでいるような彼女になってしまうのがおかしくて私は我慢できずに噴出してしまった。


「だ、だから…」


「あっはっは!だ、大丈夫ですよ、祥子さんが心配してるようなことじゃないですから…」


「な、なによ…美咲もまんざらでも無かったってこと?そ、それじゃ…邪魔して悪かったわね、行っていいわよ…別に」


 そういって口を尖らす。 その仕草がまた家にいるときと同じで、彼女が拗ねたときそのままなので、私はまた笑ってしまった。


「ちょ、ちょっと…な、なんなのよ…もう~」


 困り果てた機の強そうな美女が別の女の子に大笑いされている姿を通行人たちが興味深そうに見ては通り過ぎていった。


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