第3話

梢さんとは初対面のとき、あんたがサザンドラの弟くんと笑うものだから言わなければ良かったと後悔した。長期休暇を取ることができたため夏期休暇中の大学生である梢氏とともに欧州へ二週間の旅行とのことだ。

よく考えてみれば20を越えた男が物の喩えにポケモンを持ち出し、あまつさえ兄の知らないあたらしめのキャラクターを持ち出すことは、私にも兄にも利がない。

しかしヘッドライトの形がサザンドラの目に見えたのだから仕様がない。逆三角に落ち窪んだところが紅色に妖しく光るのかと思えば何一つ間違いは言っていない。兄がほどこした改造のセンスが悪いのだ。

「おかんはサザンドラって知ってる?」

「オールスターズじゃなくて?」

「ちゃうちゃう、ポケモン」

「うちが分かるわけないやん。雪人がやってたのをみたいにくらいやわ。いろんな子を戦わしてレベルあげていくってことしかしらん」

「雪人が俺の車みてサザンドラ言うから、なんやそれって思って」

「雪人くんはずっとポケモン好きなんやな。私もやってたけど可愛かったキャラが進化するとがっくりしてた」

兄はスマホの文字を読み上げる。ストロングゼロロング缶を飲み干して次の缶に手をつけるほどの上機嫌である。

「両腕のあたまは脳みそを持たない。3つの頭ですべてを食べつくし破壊してしまう。モノズからジヘッド、そしてサザンドラに進化するらしい」

「ジャガーっていうと縦笛の漫画みたいでビミョイからサザンドラでええんとちゃう」

梢さんの提案に私は苦笑いをした。既に療養していた私は、話を聞くことだけで脳が噛み潰されそうな嫌気がさした。もう少し、彼らと話しておけば良かった。しかしイニシアチブを握り続けたのは彼らなのだ。私にはいずれにせよ最後の会話は選ぶことができなかった。

兄の唐突な訃報は梢さんとの無理心中と言うことで片付けられた。山中で既に亡くなっていたところを烏に啄まれて傷のない箇所はほとんど無いという有り様だったらしい。首の跡から死因は特定された。丈夫な木を選んだのだろうが、関西に襲いかかった台風には勝てなかったらしい。要するに、死体の状態はすこぶる悪いためいつ亡くなったのかは定かでなく事件性も無さそうだとのことだ。兄たちが死場所に訪れようとしていたとき、彼の愛車はガレージに佇んでいた。

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