第2話

救急車と、いちおう警察にも連絡をとる。このとき男が警察は辞めてくれとせがむから、何とかして逃げればいいとだけ言い渡した。すると、植え込みを乗り上げて隣の車線に割り込み逃げ去った。テールライトが興奮する犬の尻尾のように揺れていた。

残された私だけで事情説明をするのかと憂いたが、思えば何一つ言うべきことがわからない。

信号待ちをしていたら前の車が動かなくなった。どうしたのか尋ねにいくと亡くなっていた。

警察が私に、本当に何も見ていないのかをしつこく問いただした。気持ちは分からなくはない。目前で殺人、それもあらん限りの蛮行があって気がつかないなんて、理想的な目撃者がいるはずない。

免許証を渡した。眼鏡の度は合ってるのかと聞かれたため、新調したのが半年前で両目1.0になるようにしてあるとこたえた。前を見ていなかったのかとも問われた。スマホも渡した。

「これは、すみませんでした。お気を悪くしないでください」

「まぁいいですよ、ただの福祉の一環です。気晴らしになればと思い時折読んでるわけで」

「失礼ですが、ご職業は」

「求職中で兄にはニートって言われてましたよ」

連絡先を渡した。こちらの精神状態にも障るからと帰されたが予定の2時間は遅れそうだ。

兄が遺した言葉で印象深いものといえば、セックスより運転の方が俺に実存をくれるだった。3Pよりも感度のいい快感は、鼻の穴を大きくして一呼吸おく兄のもったいつける癖をはさみ、好きな女とのドライブだと断言した。私はたまに両親の奮発して購入したプリウスを乗る程度だった。彼の中古で購入したスポーツカーが納車された日の夜に、ライトの形がサザンドラに似てると言った。兄はなんやそれ、しらんけどええ名前やなとだけ言った。

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