サザンドラの夜
古新野 ま~ち
第1話
サザンドラと名付けた車だがまだジヘッドだった。ヘッドライトとボンネットで一つの頭。運転席の私でもう一つ。でも既に、サザンドラなんだもんなと釈然としない思索を弄びつつまだ胸を貫く痛みを和らげるためにも早く風呂に入りたかった。
あれから二つ目の角を右折すると高速自動車道。せめてもの音の欲しさから流したカーラジオからさっきの事件が報じられていた。聴衆の立場に引き離された。私はさっきまでそこにいた。報道と記憶が映し出した情景が結び付かず綻びが生じた。バックミラーを見るとパトカーが増えている気がした。
数時間前のことだ。投稿者の悩みを閲覧していると独特の波長を見いだせる。彼らは思考のサーキットから抜け出せないでいるのだ。
そも、このようなSNSから誘導されたままたどり着くようなウェブサイトでは解決しないとみな知っているだろうに。
スマホから目線を上げると、視界の端に揺らめきを感じた。まだ寝不足なのかとため息をついた。
信号が変わった。だが手前の車が発進しない。再び赤に変わる。クラクションが鳴りやまない。
背後の車から罵声が聞こえた。私は窓を開けて、手前のミニバンを指差した。「前のババアに言えや」と口をついてしまった。迂闊であった。すると黒のセダンから私が心配になるほど痩せ細った男が降りて、そのままミニバンのボディを蹴った。いくら恫喝したところで事態が好転するはずはない。思慮がありそうなとは、社交辞令でも言えない風体の男に任せていられないと私もドアを開けた。
ぐぁぁ、
男が悲鳴まじりに腰を抜かした。私は危惧したとおりのことが起きたのだといたたまれない心地になるが、それも束の間であった。男は大慌てで車に駆け込んだ。車内の運転者は、顔を切り刻まれて胸から血を流していた。
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