第7話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの⑦

無我夢中だった。


とりあえず彼の姿を追いかけて廊下を走った。

隣の教室から出てきた女の子に当たりそうになった。

その向こうの下の階に降りる階段では何処かで見たことあるような気がする男子にぶつかったけど、一言ごめんって謝って、それでも追いかけて。


結局、学校のエントランスまで来たけど、彼に追いつかなかった。


・・・結構走ったんだけどな。


・・・・・・そんなに急いでる様子でもなかったけどな。


目的の高槻君に追いつかず、しょんぼりした。

ちょっと話がしてみたくなっただけなのに、なかなかそれが満たされない。

別に大したことではないと思うのだ。

なぜかそんな大したことでもないことが満たされない。

この満たされない状況に不快感を感じる。


少し話したいだけ。

ホントに、ちょっと聞きたいだけ。

目が合ったと思ったのが、私だけなのかどうか確かめたいだけ。

あの瞬間に、何か感じたのが私だけなのかどうか。

それを私は確かめたいのだ。


明日になれば、この気持ちもリセットされてるような予感もある。

だから、追いかけていたんだろう。

明日の私に任せてられないから。


私は気落ちすると共に、少しずつ冷静さを取り戻していく。


ていうか、そもそも帰る速度早すぎでは?

帰宅部?エリート帰宅部なのか??

帰宅選手権代表なのか???


益体もなくそんなことを考えてた時に、ふと、気づいた。

学校のエントランスには、靴箱が並べられていて、学年学級順に並んでいる。

そして靴箱には、自分の名前の書かれたシールが貼られている。

つまり。


高槻君の下の名前がわかるじゃん。

私は1人、したり顔で彼の靴箱を探しはじめた。


・・・高槻・・・高槻・・・た行の高槻・・・

私はか行だから、そんなに遠くないはず。

あ、あった。




ふーん。

高槻 大地君ね。

何某はこれで卒業かな。

大地君か。

ほーん。

そうかそうか。

ところで、靴箱にはまだ外履きが残っている。



つ ま り



まだ、帰ってない。





私は、なんだろう、この胸に高まり始めた気持ちを表現できない。

ただその気持ちに急かされるように、彼を探して動きはじめた。


たしかに、なにかが、動きはじめている。

そんな予感。

知れず、頰に熱が篭ることを自覚する。


ふふ。

大地、君ね。

ふふふ。

絶対見つけてやる。


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