第6話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの⑥


それから放課後までのことを簡単に説明すると、


大変なことになった。


休み時間が来るたびに周りに人だかりができて、

「一体何があったの!?」

とか

「あいつに何されたんだ!?」

とか、それはもう怒涛の勢いで質問が飛んできた。


私はただ引き笑いしながら、いやね、話がしたかっただけで・・・って言うんだけど、

矢継早に飛んでくる質問に掻き消されてた。

挙げ句の果てには男子たちがヒートアップしてきて、それを女子が止めようと更にヒートアップして、周りの教室からも野次馬が飛んできたりとかで!


人混みの中心で何が何やらって感じで。

その隙間から少し高槻何某やらの方がチラリと見えた。

多少は何かないのかと期待はしてたんだけどさ。

彼はやっぱり本を読んでいた。

世界から隔絶された場所に佇んでるような、そんな感じ。

俯瞰的にみたら、きっと彼の周りだけ時間が緩やかに過ぎてて、私の周りは忙しく動いてて、そんな感じなのかもしれない。

周りの賑やかさは本人たちを置き去りにして盛り上がり続け、それは次の授業の先生が教室に入ってくるまで続いて。


気づいたら本日最後の授業が終わって、放課後になっていた。


私は、ただ、彼と話がしたかっただけなのに。


帰る前に、何か話しかけようと思っていたけれど、またみんなに囲まれて、抜け出せなくて、


彼は、ただ1人帰り支度をすませると、人垣を抜けてあっという間に帰ってしまった。



なんでだろう。

今まで、周りが話している風景の中にいることを楽しんでいたのに、今はそれがとても煩わしく感じて。

そう思ったら、今まで感じたことのない黒い感情がぐるりと体内を駆け巡って、

私は、気づいたら、

「周りの人たち」を押しのけて、


荷物も持たずに彼を追いかけ、駆け出した。



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