第5話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの⑤
教室中が騒然としていた。
今この時何が起こっているのか、と。
そして私は唖然としていた。
いやいやまってくれよ、と。
彼は、何事もなかったかのように本に向き直った。
「いやいや、無理ってなによ」
この、こいつ、なんて態度だ。
マイペースな人間なのだとは思ってたが、これほどとは。
と、いうかこれはあれですか、交際を申し込まれたと勘違いされちゃった的な?
「・・・一応言っておくけど告白とかそんなんじゃないんだけど」
もしこの時の私を、鏡で見たとしたらそうとう不機嫌な顔をしていたことだろう。
とても気にくわない。
すると、高槻何某やらはこちらを向き、
「なにか面倒ごとに付き合わされる予感がしたので」
と、平然とのたまったのだ。
わ、私、ゆ、ゆゆ、許せへん!!
「なによ!ちょっとお話ししましょって誘おうとしただけなのに第一声目から断るのはどういうことなのよ!」
そう言うと、彼は得心がいったような顔で、
「あぁ、やっぱりそんな感じね。
時計を見てごらんよ」
彼は少し芝居掛かったような身振りで教室の時計を指差した。
休み時間が終わるまで、あと1分も切っている状況だった。
「無理でしょ?」
確かに、ちょっと無理っぽい。
いや、少しくらい人の話を聞いてからそう言ってくれても良かったんじゃない・・・?
やっぱり納得いかない。
「少しくらい話を聞いてからでもいいじゃん」
「なんだか面倒毎の感じがして。
今もそんな感じだし」
彼はそう言うと、ぐるっと教室を見回した。
私もそれにつられて振り返ると、
「げ」
みんなが注目していた。
教室中の視線を独占していた。
「あー、えーっと、これはその・・・」
-キーンコーンカーンコーン
午後1の授業が始業の鐘だ。
自席に着かなければならない。
私は、ギラリと彼に向き直り、この居た堪れない気持ちをぶつけてやった。
「あとで覚えてなさいよ!」
「喧嘩は買いとらない主義なんだけどな」
こっちも売ってないっての!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます