第3話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの③

彼は、静かな人だと思う。

本を読んでいることが多く、誰とも話す姿を見ない。

それが私にとっての彼のイメージ。

なんだろう、彼のいる空間だけ切り離された別次元みたいな。

ワイワイガヤガヤと騒がしい教室内で、窓際後方の彼のいる空間だけが異様に静かに感じるのだ。

みんな、高槻を避けている。

その理由を、私は人伝に、というか噂でよく耳にしている。


彼は、人殺しだ、と。


それはあくまで噂だ。

彼が入学した当初から噂されている。

そう、もう2年以上もの間、こんな感じなのだそうだ。


尾ひれやら背びれがついたのか、立ち上った煙なのやら私にはわからない。

彼と話したこともない。

でもそういう負のイメージが人につくと、みんな疑いを持つのだ。

そのイメージがあり、周りの人みんな、彼に関わりたくないのだ。

私は彼と同じクラスになったのが今年が初めてということもあり、噂しかしらない。


そして件の高槻君は、本を読んでいた。

ブックカバーしてるからなにを読んでいるのかわからない。

授業中であるにも関わらず、彼は1人別の世界へと旅立っているのだ。

私は、彼と同じ列なので、窓際の彼をぼーっと横目で見ていた。


進学校故に授業は大事だが、私は頭の出来も良いのだ。

なんと恵まれたことだろう。

青春に勉学にと忙しいみんなとは違い、私は自分の容姿に最も注力していられる。

贅沢なことだなーと、恵まれた才能を持たせてくれた親に感謝している。

名前のことは死ぬまで根にもつが。

テストなど、毎日の宿題さえこなしていれば点数が取れるからね。

継続は力なり。


閑話休題。


話が逸れたけど、私は授業に大した集中も出来ず、彼を眺め、そしてその後ろの窓から見える青い空を眺めていた。

5月目前と春の終わりではあるが、うららかな日差しと、浮かぶような白雲、陽気な空気、そして本を読む高槻君。


絵になるなー、なんて、そんな妙な気持ち。

ぐだりともたれかかった机が軋む。

身体を机に預けて、彼を眺める。

人の噂は75日。

その10倍ちかく経ってるのに払拭されない彼の負の印象。

それとは対照的な、陽だまりの中で穏やかに読書に佇む姿。

なんとなーく、その雰囲気を見ていると、和む。

癒される感じ。

不思議だ。

私まで春の陽気に包まれているようで、眠くなってきてしまう。

ついつい欠伸をしてしまった。


ん?


いま、ちらりと目が・・・合った・・・?

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