第2話 立てば竜胆、座れば百合、君見る姿はひなげしの②
これは私の自慢の1つではあるのだが、容姿についてはかなり気を配っている。
毎日のメンテナンスを徹底し、維持という努力があって今の自分があるのだ。
というのも、私の名が花由来ということもある。
なんせ、由来となったのがサルスベリだ。
これは、猿滑と書き、その名の由来は樹皮にある。
とにかくツヤツヤなのだ。
猿が滑って落ちるほどにツヤのある幹をしている。
そして、赤い綺麗な花を長い間咲かせ続けることから、百日紅と別名されている。
花という漢字は名前に入れるとあまり良くないという迷信を信じた父が、妻に一言だけ相談し(花のように散ることから)、私の名前は百香となったわけだが。
百日(永遠)に紅い花が香り続ける、艶のある肢体が由来とくれば、名前負けするわけにはいくまい!
幼い頃からそう思い(母に誘導された可能性あり)美への追求は人一倍気にかけてきている。
重ねて言うが、私は自分の容姿に自信がある。
これまでの人生を費やしてきた長い努力に裏打ちされた、誇りが。
おかげで今までニキビに悩まされたこともなく、保湿ばっちりの潤いボデーと、毛先まで真っ直ぐな長い黒髪が私の自慢だ。
傷むから染めないのだ。
そこは譲れない。
しかし、身を装飾するものは友達とショッピングで揃って買い集めるため、どうしてもイマドキ風になるのだ。
まぁ、見た目が綺麗であればなにを身につけても可愛く見えるのが私なのよね。
馬子にも衣装じゃなくて、百香にもジャージみたいな。
そんなわけで、今は午後の体育の時間。
女子はグラウンドの隅っこで柔軟してから縄跳び。
男子はトラックでマラソンだ。
この扱いの差はなんなのか、女の身ながら思うことがないとはいわないが、これはこれで男子にも良いことはあるのだ。
「「「がんばれー!!!」」」
女子からの熱い声援だ。
チャラい男の子なんかは手を振って答えるし、陰キャの男の子もなんだかニヤニヤしてるのが見える。
うちのクラスは可愛い子が多いこともあって、男子にとってはキツイマラソンより女子の声援なのだ。
精一杯アピールして、あわよくば、的な。
なーんてちょっと深いところまで掘り下げてみたが、なんてことはない青春の一ページみたいな状況だ。
ただ、例外があるとするなら。
誰からも応援されず、誰からも話しかけられない、あの高槻何某やらの存在。
彼は周りの集団に混じることのないよう、時に早めのペースで集団を追い抜き、また早い集団が近づくとペースを落とす。
なんてことはない、手を抜いているのだ。
目立たないように。
それを私はただ1人、見ていた。
不思議な気分で、努力に努力を重ねる私と言う人間にとって、あんな適当なことをする人間は、普段であればイライラするものだが。
彼を見ていると、不思議な気持ちになるのだ。
これは、今年の高校三年生が始まった頃から、ずっとだ。
不思議と、彼を目で追っている気がする。
自分でも、特に理由がないから、ほんとになんとなくだ。
なんとなーく、彼を注目している。
なんとなーーーく、雰囲気が、ほかの生徒と違うのだ。
今朝の遅刻もそうだが、彼は私たちとは違う時間、あるいは時代に生きているのではないかと、私は感じている。
ほら、今もまた先頭集団に追い抜かれる時に、道を譲るような形だった。
そんな高槻何某を、誰も認識していないようだった。
そう、彼は、そこに存在しないかのようで。
私は、彼をじーっと眺めていた。
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