Lv.2 勇者再び!

 勇者の襲撃から三日後。

 魔王城の警備はより強化され、前回のような不祥事の起こらないよう万全の体制が整えられていた。


『以上、問題のあった三箇所の補修を完了致しました』


『うむ、ご苦労』


 大臣の報告を受けた魔王オーカこと私は、ニヤリと笑みを浮かべた。

 だが、玉座の後ろにチラリと視線を向けて、少し気分が落ち込む。


『……ところで、私の玉座の後ろに即死トラップというのはいささか物々しすぎではないか?』


 前回、勇者が私の背後から襲おうとした事を踏まえて、玉座の後ろには「奈落の底へと繋がる落とし穴」が新たに設置されたのだが、何かの拍子に玉座がズレて椅子もろとも自分が落ちるのではないかと思うと、とてつもなく不安な気分になる。


『ご安心を。玉座の背に飛び乗って足を滑らさない限り、魔王様が被害に遭う事はございませんので』


『ぐっ』


 確かに、背もたれにうつ伏せでもたれかかって脱力したり、ときどき片足立ちでバランスを取って遊んでいたけれど、まさかそれを止めさせるためではあるまいな?

 絶対いつかトラップを埋め立てて使えなくしてやる……。


『……まあ良い。ところで今、勇者はどこにいる?』


『はい、こちらをご覧くださいませ』


 大臣が指差す方へ目をやると、偵察用使い魔の「見通す」で観たものが水を張った器に浮かび上がっていた。

 水面には勇者達四名の姿が克明に映されており、現在どこに居るのかという事も分かる仕組みだ。


<現在地:迷いの森>


『勇者共は現在、魔王城から遙か南東にある迷いの森に居るようですな』


『迷いの森か……。あそこは森の民エルフですら脱出に数日を要すると聞くが。こやつらは何故そのような危険な場所に?』


 私の質問に大臣は困り顔で首を横に振るばかり。

 前々から勇者達の行動は不可解な事が多く、我が魔王軍において最も高い知力を誇る大臣ですらその全容を理解しきれない程だ。


<現在地:灼熱の大地>


『『っ!?』』


 水面の映像が突然緑色から赤色へと変化し、私と大臣は仰天した。


『灼熱の大地……。魔王城の西側だったよな?』


『はい……。迷いの森からは世界最速であるエンシェントドラゴンですら数時間は要するでしょう』


 確かに空間転移門を使えば長距離を一瞬で移動する事は可能だが、それはあくまで「自らが崇める守護神の加護のある場所」への移動に限られる。

 つまり、奴らの場合は人間族が集う地域への移動に限定されるわけだ。

 だが、灼熱の大地は名前の通り単なる溶岩地帯であり、守護神どころか集落すら無いため、当然ながら空間転移の使えない地域エリア

 どうやってそんな場所に一瞬で……?


<現在地:死霊の塔>


『『うえええっ!?』』


 水面に浮かんだ映像が黒と灰色になった。

 死霊の塔は、迷いの森よりもさらに遠い地の果てにあり、灼熱の大地から気軽に行けるような距離には無い。


『これは一体どういう事だ……ああっ!?』


『どうした大臣!』


 大臣が指差した先にあったのは、勇者が塔の壁に身体を押しつけながらモンスターから何度も殴られる姿だった。


『コイツはどうしていつも、壁とか扉とかに身体を押しつけたがるんだ!!』


 私が頭を抱えていると、大臣が目を見開いて驚いた。


『ノックバック狙いかっ!!』


 大臣の言っている言葉の意味は分からないが、その言葉と同時に殴られた勇者が壁にめり込んだ。

 そのまま前を向いたり後ろを向いたりと、バタバタと忙しなく動いたかと思いきや、壁の中に向かって勇者の姿が消えた。


<現在地:魔王城 玉座の間>


『なあああーーーーーーーっ!?』


 玉座の間に私の悲鳴が響いた。

 それから勇者は玉座の間の壁をヌーーーッとすり抜けて現れ……玉座の後ろの落とし穴トラップの床を踏み抜き、落ちて行った。


『我らの作戦勝ちですな』


『もう嫌ぁ……』



< 本日の魔王城修繕報告書 >



1.玉座の間の城壁内部にも即死トラップを配置し、壁抜けが出来ないように対処。


2.玉座後ろの落とし穴が崩れたので床材を補修。


3.正面から強く蹴ると玉座ごと落とし穴に落ちる危険性があったので固定箇所を補強。


(追伸)

 モンスター達にはしばらく「吹っ飛ばし攻撃」をしないよう通達しました。


以上。

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