勇者TASのせいで魔王様(幼女)は気が休まりません

はむ

Lv.1 初戦!

 ここは魔王城。

 その玉座には、紫の長い髪を揺蕩たゆたわせた少女が一人佇み、邪悪な笑みを浮かべていた。

 実は彼女こそが、この世界を手中に収めんとする『魔王オーカ』である。


 そして今、ついに天敵である勇者との闘いの時が迫っていた!


『フハハハハ、我が名は魔王オーカ。よくぞここまで来た勇者よ! ……って、あれ? 勇者どこ???』


 大臣から四天王が全員やられたと報告があったし、炎王フォトナが護っていた扉を開けて廊下をまっすぐ進めば、この玉座の間に着くのだから迷うはずはない。

 そもそも「勇者が踏むと魔王様を召喚する床」の効果が発動したのだから、私の目の前に勇者達が居なければおかしい。


『ハッ!!』


 ――その瞬間、自身の第六感が何かを訴えかけてきた!

 慌てて玉座の背もたれにピョンと乗って真後ろを見下すと、そこに見知らぬ連中の姿があった。


 頭に金色のサークレットを付けたツンツン黒髪の男。


 涙目で首を横にブンブンと振る金髪の女。


 先っぽに変な色の液体が付いたトゲ付きの武器を持った魔女。


 転移門を開こうとしている僧侶の女。


『そこで何をしておるか!!』


「バレたぞ、逃げろ!!」


 四人は慌てて転移門に飛び込むと、再び玉座の間に静寂が訪れた。


『な、何だったのじゃ今のはっ!?』


 私が呆然としながら玉座に崩れ落ちると、倒されたはずの炎王フォトナが満身創痍まんしんそういの状態でフラフラとやってきて、私の前にひざまづいた。


『おお、生きておったか!』


『い、いえ。死亡と同時に勇者の仲間から蘇生魔法をかけられまして』


 ……意味がわからない。


『どういう事?』


『それが私にも何が何やら。そもそも炎王の扉も閉まったままでしたので、玉座の間に近づくのは絶対に不可能のはず。奴らは一体どうやって……』


 まるで幽霊のように唐突に現れて消えていった勇者達の意味不明な行動に、私と炎王フォトナは首を傾げるばかりだった……。



◇◇



『魔王様。この度の不可思議な状況、原因が判明致しましたゆえ、ご報告致します』


『でかしたぞ大臣!』


 私は早速、炎王フォトナを呼びつけ、彼女と共に説明を聞いた。

 ……が、説明を聞いてもいまいちピンと来ない。


『物わかりが悪くてすまん。もう一度、場所を指し示しながら教えてくれないか?』


 私は炎王フォトナと共に大臣の後ろについて玉座の間を出て、炎王の門の前にやってきた。

 大臣はコホンと咳払いをすると、手に持っていた杖で門をコンコンと叩く。


『まず、この扉は炎王フォトナ様が倒されると開くように設計されています。しかし、勇者が扉に寄りかかりつつ、炎王フォトナ様が倒されてから1フレーム以内に蘇生されることで、勇者が扉と同化して当たり判定が無くなります。この状態であれば扉の中を通って壁の中を進むことが可能で、壁から脱出するまで状態が持続します』


『ごめん。1フレームとか当たり判定とか、何言ってるのか分からない』


『お気持ちは察しますが話の続きを……。魔道具"導きの鐘"で仲間達を呼び出した勇者は、仲間達と共に城壁の中を歩いて玉座の間を突破。この時「勇者が踏むと魔王様を召喚する床」が誤動作して魔王様が玉座の間に呼び出されたわけですが、当然ながら勇者達は壁の中に居りましたので、目視することが出来ませぬ』


 そう言いながら大臣が城壁を指差したものの、どこをどう見ても何の変哲も無い壁だ。

 だが勇者がこの中を歩いたと言われると、我が城の壁が不気味に見えてきた。

 炎王フォトナも私と同じ考えに至ったのか、苦虫を噛み潰したような顔で壁を眺めている。


『その後、勇者一同は玉座の真後ろから出現。不意打ちで魔王様を後ろから毒針で刺し、急所判定が確定する前に転移門を通る事でクリアフラグが立つ……というバグを利用しようとした模様です』


『クリアフラグって何!! バグって何ーーーーーっ!?』


『ひ、姫様……じゃなかったっ。魔王様、落ち着いてくださいーーっ!』


 魔王城に私の叫びが響き、炎王フォトナは涙目で私を抱きしめるのだった。

 勇者こわいよぅ……。



< 本日の魔王城修繕報告書 >



1.炎王フォトナが倒されてから門が開くまで60フレーム以上のディレイを発生させるよう修正。


2.念のため玉座の真後ろに即死トラップを設置。


3.玉座の間で転移魔法が使えないようにスキル利用を制限(※魔王様、大変ですけど徒歩で出勤してください)。


以上。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る